第22話古戦場の主

 気が抜けてカミラは肩を落とした。


 同じく危うくアンデッドの仲間入りをしそうになった盗賊男はフゥと息を吐いて、あきれ声でクーシー達を見ていた。


「あっという間にごっそりとまぁ……」


「……上手ですね。クーシー達」


「お前らもボーっとしてないで急ぐデス!」


「お土産は僕らで確保するデス!」


「大物よろしくデス!」


「「……はい」」


 しかし確かにクーシー達の言うように本番はこれからだった。


 進めば進むほどにだんだんと反応は強くなってくる。


 そして実際に濃い冷気が漂っていると感じたのは、決して気のせいなんかではなかった。


 白い靄が見えるのは、実際に大気が冷却されているからだ。


 そして何より身体ではなく魂で感じ取れる寒さの元は、死の化身のように戦場の中心に陣取っていた。


『……ああ。お客かね? 珍しい……』


 真っ黒なスケルトンに不意に話しかけられた瞬間、全身が凍り付いたとカミラは錯覚した。


「きゃー! しゃべってんぞ! しゃべってんぞあのスケルトン!」


「うるさい! ……アレに本当に勝てるの?」


 死霊を操る術が自分の魔法に近いからこそよくわかる。


 あれは常軌を逸している。いったいどれほど怨念と魔力を積み重ねればああなるのか?


 カミラには理解できず、全身が委縮していた。


『じゃあ……君達もこちらに来なさい』


 一言そんなセリフが頭の中に響くと、黒いスケルトンが手を伸ばし―――闇の波動が迸る。


 それを見たクーシー達は一様に全身の毛を逆立てて、尻尾を丸めていた。


「ヒィ! おっかないデス!」


「エルフのスケルトンとかエグいデス!」


「のっぴきならない事態デス!」


 クーシー達の発したエルフという単語に、カミラは表情を強張らせた。


 エルフとは妖精族の中でも特に魔法に長けた種族だ。


 その魔法の技と、潤沢な魔力は人間では足元にも及ばないと言われている。


 更にそんな奴がただの人間でも手に負えないアンデッドなんて化け物に変化したらどうなるのか?


 解放された魔力は周囲を大地ごと振るわせるだけにとどまらず、ゆっくりと石礫が空に浮かび始めた。


「お、おい! あいつをやっつけろい!」


 恐怖に負けた盗賊男はすぐさま戦闘員に指示を出した。


 すると戦闘員はアクロバティックな動きで黒いスケルトンに飛び掛かっていった。


「「「キー!」」」


『なんだ……気持ちが悪いなこいつら』


 戦闘員は変な雄叫びを上げて躍りかかったが、しかし無数の骨で出来た腕が地面から飛びだして、握り潰された。


 まさに一網打尽である。


「戦闘員がやられた! 死ぬ!」


「……」


 アレが相手をすれば順番はやってくることがないと考えていたが、甘かったか。


 カミラは知らず知らずに狂っていた常識を修正する。


 短い付き合いの中でも、カミラの中でドクタークレイは人知を超えた存在だった。


 だが彼は常識に疎いところがある。


 この化け物相手に、彼の言う備えが十分かは使ってみなければわからない。


 カミラは冷汗が背中を流れていくのを感じた。


 しかし、このまま呆けていても末路は変わらない。


 ドクタークレイから渡された両手足につけられるアクセサリーのリングに頼るほかに道はなかった。


「……!」


 カミラは決死の覚悟で両手を前に突き出す。


 すると両腕のリングがガチャリと開いて光り出した。


「えぇ!」


 キーンと耳に届くのはリングが発する音だ。


 とたんギシッっと異音が聞こえ、目の前の地面と黒いスケルトンが不気味な音をたてて沈み込んだ。


『グオオオオオオオ!!!!』


「……なによこれ」


 どう考えても魔法なのに、魔法の力を感じない。


 それなのに地面は何か恐ろしく重いものを支え、そして支えきれずに潰れているようにも見えた。


 ドクタークレイの大発明。重力制御リングは任意のポイントに対して重力を自在に操作する。


 運送業から土木建築。そして戦闘まで幅広いジャンルで使える便利アイテムだった。


 地面は沈み続け、気がつけば巨大な池にでもできそうな穴が見事に出来上がっていた。


「……やべぇ。こんなすごいの気軽に渡しすぎだろ」


 研究員Aがその威力に引いていたが、遺憾ながらカミラも同意見だった。


 だが、押しつぶしてもまだ戦闘は終わっていなかった。


『ガ、ガガガガガ! ナンダコレハ!』


 黒いスケルトンが地面から這い出てくる。


 黒いオーラがその怒りに反応して荒々しく立ち上っていて触れるだけで死にそうだった。


「ヒィ! まだ生きてやがる! いや、死んでるんだっけ?」


「どっちでもいいから! でもこれでダメなら……」


 こうなってくると、奥の手を使わなければならなくなってくる。


 しかし正直たいして期待していなかったリングでこの威力だ、最後の手札には期待が持てるが、正直恐怖も感じていた。


「……迷ってる暇ねぇぞ! 使っちまえって!」


「!」


 カミラは選択したと言う意識もなく、腕輪を握り締めて、腕輪のもう一つの機能を作動させた。


 座標を指定して、承認。


 見覚えのある光と共に何もない空間からいきなり出現したそれは、見たことのない人型の形をしていた。


「……魔人機。いえ、ロボットでしたか」


クーシー達のものよりも、より人に近く戦闘的な形にカミラは息を飲み―――そして我知らず口角は上がっていた。

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