鏡
最近、ドレッサーを新しくした。
古いドレッサーは焦茶色の木でできた台に、三面鏡が取り付けられていた。
母が昔から使っていたものを譲り受けたので、年季が入っており、私が小さい頃つけた傷やシールの後が多く残っていた。
以前から部屋の色調に合わず、買い替えを考えていたのだが、高価なものなのでなかなか踏み切れずにいた。
しかし先週家具店で、あるドレッサーに一目惚れした。
バイト代が溜まってきていたので、この機会に新調することにした。
新しいドレッサーには、清潔感のある白樺の台に、大きな一枚鏡が取り付けられている。
引き出しには金属の取手がついていて、葉っぱの様な細かい細工が施されている。
台に座り、メイクをするたびに心躍る。
値は張ったが、良い買い物をしたと思う。
今日もドライヤーで髪を乾かしながら、満足感から思わず笑みがこぼれる。
(あ、ここの髪もつれてる。)
私は鏡で確認しながら、後頭部のもつれを櫛で解かしてゆく。
(やっぱり鏡が大きいと見やすいな。
新しくして良かった。)
解かし終わった髪を、温めたアイロンでゆるく巻いていく。
この時間が一番幸せだ。
まるで子供向けアニメのキャラクターになって、変身していく様なワクワク感が込み上げる。
メイクを全て終えると、鏡に向かってにっこりと笑って見せるのが最近の日課になりつつある。
家具一つでここまで上機嫌になれるなんて、我ながら単純な奴だと思うが、女の子なんてみんなこんなものだとも思う。
「うん。今日も可愛くできた。」
リップと日焼け止めなどの、最低限のメイク道具を鞄に入れて玄関へと向かう。
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(解説)
三面鏡は両側のニ枚の鏡を、角度をつけて配置することで顔のさまざまな角度から自分を見ることができる。
しかし一枚の鏡ではそうはいかない。
頭の後ろの方は、もう一枚鏡を持って来て、写し鏡でもしない限り見ることは難しい。
にも関わらず、主人公は鏡で後頭部を確認しながら髪を解かしていた。
主人公が見ていたのは、本当に鏡に映った自分だったのだろうか。
鏡に映っていたのは本当に"こちら側"の世界だったのだろうか。
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