個室

 私は一月ほど前からある病気で入院している。


 病室は四人用の大部屋だ。


 思春期の男にとってプライベートが無いのは由々しき事態だ。


 それに加えて同室の三人は皆高齢者で、夜になるとうめき声を発したり、徘徊を始めたりするため、ゆっくりと眠りにつくことができない。


 そのせいか最近、体重も減ってきて全身の気怠さが増している。


 医者や両親に個室にしてほしいと頼んではいるが、高齢化の昨今、私のわがままを聞くほど病室に余裕がないと断られ続けている。




 しかし今日、朗報があった。


 なんと個室に移動できることになったのだ。


 医者は症状が悪化傾向だなんだと言っていたが、そんなことはどうでもいい。


 個室になって、ストレスから解放されれば病気も快方に向かうだろう。


 私は浮かれながら荷物をまとめて、移動の準備を進める。


 その時ゆっくりとドアが開き、暗い顔をした中年の女性が病室へ入ってきた。


 母だ。


「ごめんなさいね。今まで辛かったでしょう。何か欲しいものがあれば買ってくるけれど。」


 せっかく個室に移るのだから、いかがわしい本の一冊二冊欲しいところではあるが、流石に母にそんなことは頼めない。


 ただでさえ病状が芳しくなく、両親には心労をかけているのだ。


 私が今週出る漫画雑誌が欲しいと頼むと、母はいそいそとメモを取り部屋を出た。




 それにしても、今日はやけに母の元気が無かったな。



―――――――――――――――――――――――

(解説)


 思春期の男性が一月も入院するほどの病気は、相当に重いものだと考えられる。


 主人公は楽観的だが、病状は悪化傾向にある。


 さらに、病院では死期が迫っている患者は、多少無理をしてでも個室に移動することになっている場合が多い。


 死の間際に家族が面会しやすい様にするためだ。


 母の表情や病院の対応を見るに、主人公の命はそう長くは無いだろう。

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