帰り道

 私の家と駅の間には、暗く茂った林がある


 道はかろうじて舗装されてはいるが、覆い被さるように木々が生えているため昼間でも薄暗い



 その不気味な道で数日前、自転車で下校中の小学生が襲われる事件がおきた


 被害にあった子供は「大きな手に追いかけられて、ひっかかれそうになった」と泣きじゃくっていたらしい



 それ以来、私は遠回りして違う道を使うようにしていた


 しかし、今日はどんよりとした空で今にも雨が降りそうだったため、林の中を歩いて帰ることにした



「お嬢ちゃん1人なの?」


 不意に後ろから男性の声が聞こえて心臓が飛び出しそうになる


 振り返ると10メートルほど後ろに、自転車に乗った50代前後のおじさんが走っていた


 自転車には農作業用の備中鍬と動物除けの鈴が縛られている


 どうやら畑仕事の帰りらしい


「事件もあったし危ないよ。ほら、例の水谷さんとこの子が襲われたってやつ。


 大きな手ってのは分かんないけど、熊とかだったら大変だよね。」


 おじさんはそう言いつつ自転車から降りて、私の隣を歩き始めた


(1人じゃないならちょっと安心。)


 内心ホッとしつつおじさんと歩いて帰ることにした


 ―――――――――――――――――――――――

(解説)


 事件があったことを知っている人は、なるべくその道を避けているはず


 いつも以上に人通りの減った林の中で、おじさんにあったのは偶然なのか


 おじさんは次の標的が通るのを待ち構えていたのではないか


 備中鍬は畑の土を柔らかくするのに使う道具

 三本の金属の爪がついていて、大きな手に見えなくもない


 自転車も無い状態で、おじさんに襲われたら『私』は逃げ切れるのだろうか

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