第八話
「精霊魔術の他にはどんな魔術がある?」
「もっとも知られているのは神聖魔術だ。
人族はほぼ全員、これを使う」
「神聖魔術って、傷を癒したりするする感じ?」
「傷を癒す……
そういうこともできるが、一番は身体強化だ」
「身体強化?」
「腕力や脚力、視力や聴力など、さまざまな身体能力を強化できる」
「なんか、万能っぽく聞こえるんだけど?」
「ああ、応用範囲は広く、万能といっても差し支えない」
(これは必須だな)
ゼンは、内心で頷いた。何をするにしても、体が資本になる。
この世界で生き抜くために、これは絶対に手に入れるべき能力だ。
「神聖魔法ってことは神様と契約?」
「いや、契約する霊騎は天使になる」
「なるほど……
人族は全員使うって言ったけど、ダンも使えるわけ?」
「おう!
言葉とともにダンの身体が赤いオーラに包まれた。
あの遺跡で見た、全身を覆う光。
「こんな感じだ。
また後でじっくり見せてやるよ」
そう言って、ダンはオーラを消した。
発動は一瞬、使い勝手は良さそうだ。
「契約するにはどうすればいい?」
「神聖魔術は教会で洗礼を受けることで契約となる。
まあ、人族であれば特に断られることはないだろう」
教会で洗礼、宗教か……。
日本人としてのわずかな抵抗を感じたが、生きるために必要なものだ。
致し方ないと、ゼンはすぐに思考を切り替えた。
「……人族であれば、ってことはエルフは入信できない?」
「エルフも洗礼を受けることはできる。
ただ、エルフは洗礼を受けても神聖魔術は使えない」
「エルフは精霊と契約しているから?」
「いや、精霊と契約して精霊魔術を使う人族もいる。
おそらくはエルフであることが問題なのだろう。
何故か、は不明だが……」
「そうなのか……」
トゥエルラーダは少し思案顔だった。
「そういえば、エルフを知っている口ぶりだが、
旧世界にもエルフは存在していたのか?」
「いや、ホムンクルスと一緒で伝説の存在だった。
実在はしてなかった」
「そうか……
どんな伝説だった?」
「そうだな……
とがった耳が特徴で、不老長寿、精霊と仲が良い。
そんなところかな」
「今のエルフとおおよそ一致しているな。
長寿というほど長寿ではないし、
不老でもないが」
「そうなの?」
「ああ。
エルフの寿命は、百年から百五十年といったところだ。
旧世界の伝説だと、エルフはどのくらい長寿とされていた?」
「……長いやつだと千年とかかな」
(フリー〇ンとかそうだったはず)
ゼンの頭には、旧世界のエンターテイメントの知識が蘇る。
「千年とはすさまじいな……
……そういえば、
一人だけ千年を生きたエルフがいた」
「どんなエルフ?」
「古代アウラ帝国の建国者。
聖祖アウレリア帝だ」
「さっきの、ホムンクルスが支えたって人か。
エルフだったのか」
「古代アウラ帝国は、エルフの帝国だからな。
アウレリア帝は四大精霊と契約し、千年を生きたといわれている」
「なるほど」
エルフの帝国に四大精霊。
非常に興味をそそられる設定だが、一旦本筋に戻らねばならない。
魔術の話を優先だ。
「そういえば、ダンが使ってた『とっておき』ってやつ。
あれも神聖魔術?」
「あれは俺のオリジナルだな。
神聖魔術……身体強化と剣術の合わせ技だ。
俺の流派だと
「オリジナル……
そんなものもあるのか……かっこいいな」
「だろう!」
ダンは誇らしげに胸を張った。
神聖魔術は本当に応用範囲が広い。早く使えるようになりたいものだ。
「洗礼って何歳くらいから受けられる?」
「だいたい五歳くらいか?」
「そうだな」
「ずいぶんと早いんだな。
十五歳とか、一人前になってから、とか思ってた」
「一人前になってからだと、病気やケガとか困るだろ?
さっさと洗礼を受けて、
「へぇ、そういう理由で早いんだ」
そりゃ、さっさと洗礼を受けさせるわけである。
「その通りだ。
それに身体強化の魔術が使えないとなると、
何かと不便も多いだ」
「不便?」
「水汲みや薪割など、魔術抜きでは話にならん。
どこかに出かけるにも、歩ける距離が全く違う」
「たしかに全部人力だから、
身体強化の有無でまったく効率が違うわけか……」
最低でも電動自転車と普通の自転車くらいの差はありそうだ、とゼンは想像した。
「ダン、ゼンは五歳くらいに見えるか?」
「そうだな、それくらいに見える」
ゼンは自分が五歳くらいだと認識した。
そういえば、自分の今の外見を確認していなかった。
「鏡ってある?」
「鏡?」
「いや、どんな顔しているのかなぁって。
さっきも言ったように、記憶の中では大人なんだよ。
髪も黒かったし、今は白だろ?
どんな顔が確認しておきたい」
トゥエルラーダは少し考え込んだ後、
腰から短い
「来たれ
映し出せ《シーンズゥ》
光の
詠唱とともに短い
光の波紋が広がり、そこに長い白髪の子供の姿が映し出される。
「鏡の魔術だ。
見えるか?」
「見える、見える!」
やっぱり魔術はいい。
早く使えるようになりたいと、ゼンは興奮した。
「これが今のオレか……」
映し出された姿に向き合う。
整った顔立ちに、血の気の薄い肌。
赤い瞳に、白く長い髪。
「……女の子?」
思わず、クロークをまくって下半身を確認する。
「ちゃんとあるな」
ダンは肩を震わせて笑っているが、ゼンは無視した。
もう一度、自分の姿を確認する。
「前世の倍以上は美形だな……」
体を動かし、映る角度を変えてみる。
目立った傷もなく、角や羽が生えていることもない。
「しかし、細い身体だなぁ。
それにこの髪、ちょっと長すぎるな」
長い髪を指でつまみ上げる。
きれいではあるが、動くには邪魔だ。
「ハサミいるか?」
「いる」
ダンが奥からハサミをとってきて差し出してくれた。
同時に、トゥエルラーダが手桶を足元に置く。
ハサミを手に取り、髪に当てる。
シャキン。
軽い音が小屋に響いた。
動きやすさ重視で、躊躇なく短く整える。
「うん。
いい感じだ」
目の前に浮かぶ、得意そうな笑みを浮かべる少年の姿。
確かに五歳くらいに見える。
「つまり、洗礼を受けて、神聖魔術を使ってもいいってことだな」
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