二人の俊

神坂俊一郎

第1話俊寛と俊一郎の巡り合い、二人の妻、玲子と由岐枝

俺の名は天海俊寛。何やらふざけた名前だが、本名だ。

もっとも、あまみとしひろと読むわけで、天海大僧正とも俊寛僧都とも関係はない。

名前とつながっているのは職業で、坊主の端くれなのである。

父は良寛でよしひろだから、ふざけた名前なのは親子二代にわたってで、俊寛はまあ許せるとして、父が大阪北部のベッドタウンに鎌倉時代から続いている名刹の住職で、名僧との誉れ高く地元の名士だったのに似ず、俺は京都の本山での修行中も実家が大阪の北摂で近かったのをいいことに、酒と女に不自由しなかったのだから、とんだ破戒僧である。

まあ、一通り教わった仏様の思想は、とってもまともで俺にとっては少なくともキリスト教よりはわかりやすかったから、たまに説教を頼まれても困ることは無いし、お経もほとんど暗唱できる。

自慢じゃないが、スポーツは万能と言ってよかったから、手を抜いてもそこそこでき、勉強も苦労したことがなく、その気になっていれば西都大も夢じゃなかったぐらいの成績は上げていた。

じゃあ何故坊主になったかって、そりゃ、サラリーマンになるのは考えただけでも反吐が出そうで、まだ坊主になった方がましだと思ったからだ。

家を継ぐならまあ一生食うには困らない財産は手に入るし、親父のベンツも使わせてくれると言うし、それなりに好き勝手にさせてもらっているから、まずは極楽じゃ。

それに、親父よりも神官の家系の母の血なのか、俺にはいわゆる霊感が備わっている。

だからこの商売、結構面白いこともあるのだ。

ただ、母の一族名前の上では俺の比ではなく、母の名は咲弥、これはそのとおりさくやだし、祖父母は須佐と照子なのだから、古事記の世界で冗談みたいな一家である。

大体このスサノオさまならぬ須佐じいさん、俺が生まれた時に空海と名づけようとしたと言うから、冗談も年季が入っている。

因みに俺には品行方正の妹がおり、もう京都の綾部市の名刹の若いが大した名僧の奥方に納まっている。

彼女の名前は何だって。

確かにここまでふざけた一家だから、大いに気になるところだろう。

答えは、徳子。

何だ普通だと思う奴は学が無い。俊寛、徳子と来りゃあぴんと来てしかるべきだ。

その上旦那の名が右京だ。俺にはふざけているとしか思えん。

俺の俊寛と合わせて、3人で平家物語のパロディーを形成しているんだから、妹に縁談が来た時は、思わずふざけとんのかと噛み付いた。

しかし、本人に会ってみれば美男で、徳子も美女で見栄えのする素晴らしいカップルだし、右京も徳子も賢明の見本みたいな二人なのだから、両家の親達は手放しで素晴らしい縁だと喜んだ。

何よりも本人同士が一目ぼれと言う奴で、見合いで一発決定だった。

結婚したら周囲の人々は、『素晴らしい弟さんで』とばかり嫌味を言いやがるし、確かに右京にしても徳子にしても、非の打ち所が無いと言う悪徳を持ってやがるから、俺も否定のしようがない。

しかし神様良くしたもので、妹夫婦には俺程の霊感はない。

だから、坊主やっていてもつまらんだろうとからかうと、右京は、仏の教えと人徳で人々を救うのだと、しゃあしゃあと言い返しやがるし、徳子は『お兄様、変な霊感商法で手が後ろに回るような真似だけはしないでよ。』と抜かしやがる。

まあ、見えん奴には見えんし、感じない奴には感じないから、説明するだけ無駄だし、俺も霊感で金儲けしようとは思っていない。

でも、たまに葬式の時に無念そうな霊を見ると、余計なお節介をしたくなって困るのが欠点だ。

前置きがえらく長くなってしまったが、そんな霊の絡んだ事件、そして、これこそ運命だと言いたくなるある男との出会いを絡めて、紹介していくことにしよう。


まずその男だが、名前は神坂俊一郎と言い、俺より2歳年下で、妹の徳子の同級生だ。

初めて会ったのは小学生の時だった。

俺の家である慈光寺は、大阪の北摂地域では屈指の名刹で、本堂は巨大だし、境内も墓地まで含めれば有に5千坪はある。

寺と言うと墓を想像するし、俺は、幼少のみぎりから坊主の子とからかわれるのには慣れているが、友達が家に遊びに来た覚えも余り無い。

ところが、その神坂俊一郎、何と小学1年生の時に、友達を連れてお墓で遊んでいやがったのだ。

妹と同じ学年とは言え、俺には彼の顔に見覚えは無く、かと言って折角遊んでいるのを邪魔するのも悪いから、墓石の陰から見ていると、彼の周囲に霊が集まっていくのが見えた。

これは少々おぞましい光景だったが、普通の人間には見えないし、彼も全然怖がっていないから俺は見えていないものと思い込んでいた。

ところが彼、周囲を見回して霊の声に耳を傾けていたのだ。

坊主の息子の俺ですら怖いのに、小さな子供のくせして顔色一つ変えないのだから、目を疑うとはこのことだったが、しばらくすると、更に信じられないことが起こった。

何と彼が手を触れると、その霊たちが消えていくのだ。

しかも、昇天と言うか、成仏と言うか、満足げに消えていくのだから、彼が供養していることになる。

その上彼は、側にいる友達に向かって変な話まで始めた。

「この道石が敷き詰めてあるけど、ここで曲がっているね。」

見ればわかるが、そのとおりだ。

「それでね、その石を運んできたとき、牛が暴走して石が積んであった車がひっくり返ったんだよ。丁度この曲がっているところで。」

確かに石畳はそこで不自然に曲がっていたが、俺はそんなこと聞いたことなかったし、大体何時の話なのやら、石畳の状態から見て百年以上も前のことじゃないのか。

疑っていると、彼は続けた。

「それでね、その時に6人の人が死んだの。男の人が4人女の人が二人だったの。その人たちが僕に話しかけてきたから、天国に行ってねってお願いしたの。」

聞いている内に、さっきの霊たちの様子といい、本当にあったことのように思えて来たので、俺は、親父のところにとって返した。

そのことを聞くと、親父は首を傾げた。

「それは確かに本当のことだが、ひいじいさんの頃の話しだ。何故知っているんだ。」

俺がその不気味な子供のことを話すと、親父その相手が誰かわかったらしく、『神坂さんのところのお孫さんかも知れない。』と言って、徳子を呼んだ。

徳子は、こんなところに友達連れて来るのは、彼しかいないと答えたから、余程変わった子供と同級生からも思われていることはわかった。

しかし、神坂家は裏山の頂上付近にある、敷地三千坪の豪邸だから知っていたし、徳子は『変な子』の一言で片付けたが、俺は10万人に一人の『天才少年』との評判を聞いていたし、徳子に確かめると、『勉強は何もしなくても全て百点なのに、体育は全然だめで、友達ともほとんど遊ばないから変。』とのことだった。

その割に何故墓場に来たのか不思議に思っていると、恐らく俊一郎の方が無理やり連れてこられたんだろう、と徳子は考えていた。

徳子の奴よく見抜いていて、『今度はきっと一人で来るわよ。』と言うので、親父にそのことを話しておいたら、本当に3日後に一人で現れたのだった。

親父は、たまたま暇だったから、彼と2時間にもわたっていろいろ話をしたのだった。

親父は夕食の時に、俊一郎は、小学1年生と思えぬほど博識であり、その上で普通の人には見えないものが見えるらしいことも話してくれた。

でも墓地には余りよくない霊もいるから入らない方がいいよと言うと、素直に言うことを聞き、理由はわからないが3年後にまた来ますと言って帰ったとのことだった。

その時は何とも気に留めなかったが、3年後に本当に彼はやってきた。

彼の祖父が亡くなって、我が家の寺で盛大な葬式が行われたのだ。

その数年後、俺はひょんなことから彼の家を訪問することになった。

何故かと言うと、彼の両親は余り信心深い方ではないのだが、祖母は毎月のように親父を呼んでは読経させていたからである。

中学3年だった俺は、親父の付き添いだったので、読経の間神坂家の敷地内を歩いて見た。

何だか暗い感じがした。

いや、暗いと言うと少し違う。

桜の巨木に囲まれた庭も、竹薮の中の池も、何だかそこにあってないような、何れは消え去ってしまうものであることを暗示しているような、そんな感じを強く持ったのだ。

俺と妹の名前のパロデイーではないが、平家物語の序がふと頭に浮かんだ。諸行無常の世界を感じたのである。

こんな教養に満ちた霊感を受けたのはこの時ぐらいだったが、その原因は俊一郎にあったのかもしれなかった。

ふと気付くと、俊一郎が一番大きな桜の巨木に手を触れながら悲しそうに話しかけていたのだ。

彼はたしかこんなことをしゃべっていた。

「悲しいね。お前達は切られて死んでしまうんだね。でも、僕には何もできないんだ。許しておくれ。」

俺は、見てはならないものを見たような気がして、庭の端の掘建て小屋のような物置小屋の陰に隠れようと裏に回り、その壁に手を触れた瞬間、背筋が寒くなった。

おお、嫌だ。 いまだにこの時のことを思い出すとぞくっとする。

その時の俺は、霊ではなくとてつもなく強い怨念のようなものを感じたのだ。

慌てて神坂家の玄関に戻った俺は、そのままおとなしくしていた。見てはならないものを見、触ってはならないものに触ってしまったような気がしたからだ。

えらくおとなしい俺を見て親父は何かを感じたようで、寺に戻ると神坂家で何を見たか聞いてきた。

自分の感じた諸行無常感と俊一郎の不可解な行動を話すと、親父はうなずいた後、神坂家の現状を少し話してくれた。

彼の祖父の鷹男は、一代で財を築いた男だったが、娘の高子の婿養子となった常一はとんでもない男で、働かずに財産を食いつぶし、今や広大な神坂邸は人手に渡ろうとしていたのだった。

なるほどそれで俊一郎は桜の木に謝っていたのかと納得が行ったが、思い出してあの物置小屋に因縁はないか聞いた。

すると、明らかに親父の顔色が変わった。

「お前は、何か見たのか。」

慌てた様子で聞いてきたので、霊は見えなかったが強い怨念のようなものの名残を感じたと答えると、親父は少しほっとした様子で納屋の因縁を話してくれた。

親父の祖父だから、俺には曽祖父の頃、我が家の寺を除いてあたり一帯は竹野清十郎と言う老人の所有地であり、今は荒地になっている神坂家との間の平坦地に壮大な洋館風の屋敷があった。

ところが、その清十郎は若い頃使用人の娘に手を付け、自殺に追い込んでしまった。

そして、その娘が首吊り自殺をした屋敷の納戸の廃材で建てられたのが件の物置小屋だと言うのだ。

何故親父が焦ったような素振りを見せたのか逆に問い詰めると、俊一郎が1歳半ぐらいの時に、盛んにその納屋を指差し、『怖い顔したお姉ちゃんがいる。』と訴えたため、俊一郎の祖父の鷹男が親父に相談し、その道のプロである修験道の行者を呼んで供養したのだと言う。

しかし、娘の怨霊は、『二代に渡って祟った。もう一代祟ってやる。』と捨て台詞を残して消えたので、舞い戻ってきたのではあるまいかと心配になったとのことだった。

その時、俺はふと心配になった。

俊一郎は霊たちと話しができる。そして優し過ぎる。もしその娘が転生して彼の前に現れたらどうなるだろうか。

直ぐにそんなことはないだろうと思いなおしたが、自画自賛だが、俺の勘は正しかったのだ。

親父から話しを聞いた後、俺は妹に俊一郎のことを聞いてみた。

「やっぱり変な人。」

依然としてわけのわからんことを言うから、俺は応戦した。

「今日見たが、顔は悪くないし、優しそうだし、いい男だと思うがな。」

すると、妹はからかうように応じてきた。

「あーら、お兄様は神坂君が私と結婚して弟になって寺を継いでもらえれば俺は自由になれる、なんて考えてるんじゃないかしら。」

妹の言葉に、その手もあったかと俺は教えられた。

「おっ、それはいい手だ。実はあいつ、俺とは違う霊感を持っている。」

徳子も、彼には興味を持っていたらしく、まんざらでもない様子だった。

「へえ、そうなの。どんな霊感。」

「俺のは、ただ見たり感じたりするだけだが、あいつはそれを集めて供養までできるようだ。絶対坊さん向きだぞ。考えて見ないか。」

話しが思わぬ方向に向いたと思いながら俺が水を向けると、徳子は考え込んだ。

「ふーん、彼そんな能力も持ってたんだ。神様は不公平だわ。」

「何じゃそりゃ。」

聞き返すと、徳子は、俊一郎のことを教えてくれた。

「神坂君って、何時もぼーっとしていて、勉強だって何時しているのか不思議なぐらいなの。」

俺も、中学で何度か見かけたが、確かにそんな感じだ。

「それがどうした。」

「それでいて、実力テストじゃ常にベストテンに入るのよ。」

それこそ、幼少の頃から天才と言われてきた面目躍如たるものである。

「小学校の頃から、天才で有名だったものな。」

徳子は、口を尖らせた。

「それだけなら許せるわよ。ところが彼、ピアノも弾けるし、本当はスポーツもできるらしいのよ。」

それは、初耳だった。

「じゃあ、尚更いい男じゃないか。」

徳子首を傾げた。

「ところが彼、女の子には全然興味が無さそうなのよ。」

「もったいない。」

思わず漏らすと、徳子は吹き出した。

「そうよね。確かに良く見りゃいい男だし、何でもできるし、あれで積極的なら私だってその気にさせて見たくなるけど、その気が無けりゃ馬鹿みたいじゃない。誰も手出さないわよ。」

考えて見れば、霊や木に話しかけるような男だから、生身の女には気味悪いだけか。そう思うとついからかいたくなった。

「でも、怨霊を成仏させたり、木に話しかけたりするぐらいだから、とんでもなく優しいぞ。」

徳子は、大きな声で笑い出した。

「ええ、ええ、確かに普段もとても親切で、礼儀正しくて、品行方正を絵に描いたような人ですよ。でもね、大きな欠点があるのよ。」

俺は、不気味なところしか思い付かなかった。

「何じゃいな。不気味なところか。」

徳子首を振った。

「不気味なのは、兄さんから聞いて初めて知ったわ。少なくとも学校じゃ木や机に話しかけたりしないわよ。蛇に話しかけているところなら見たことあるけど。」

俺は、思わず悲鳴をあげた。

「ぎゃー、何じゃそれは。」

「ああ、彼生物部で今蛇飼っているのよ。それで首に巻いて見せてくれたことあったの。蛇も慣れるとおとなしいし、可愛いものだって言ってたわ。」

徳子はあっけらかんとしていたが、俺はどうも蛇だけはいただけなかった。

「蛇は、あかん。」

白状すると、徳子は頭に乗ってきた。

「あーら、それじゃ彼に頼んで兄さんにたっぷり見せてもらおうかしら。首にも巻いてもらえるわよ。」

それは耐えられんと思ったので、白旗をあげることにした。

「わかった。もう言わんからやめてくれ。」

「はいはい。兄さんもやめてね。彼は、確かにいい人よ。でもね、私の趣味じゃないのよ。言って見れば、それが最大の欠点かしら。」

徳子の言い分も勝手なものだが、その後しばらく俺も徳子も、彼のことは忘れていた。

その後神坂家は没落の一途をたどるが、俺が京都の大学で遊んでいた時、彼も西都大学に入学した。

まあ、天才で有名だったから当然と思っていたが、その1月後彼の祖母が交通事故死した。

この時既に、神坂家には寺で大々的に葬式を挙げる金は残っていなかったらしく、自宅で質素な葬式を挙げ、俺も僧見習で親父について行った。

さて、と俊一郎を見ると、彼は、左手に包帯を巻いていた。

気になったので聞くと、一昨日怪我をしたと言う。

そして、もしこの怪我が無かったら彼は、サッカー部の遠征に参加していたはずで、帰ってくるだけで大変だっただろうと苦笑していた。

葬式の時に、俺は神坂家の人々を観察していたのだが、彼の両親も妹二人もせいせいしたような顔をしており、悲しんでいるのは彼一人だけだったのだ。

そして、当然故人の霊は、俊一郎についていた。

やはりこいつ、優し過ぎるぜ、と俺は余計なお節介で思ってしまったのだが、火葬場でその霊が彼の側から消えた時に気付いた。彼は、優しいが決して弱くないことに。

弱い奴だと、彼のように優しく接していると憑依されてしまい、ろくなことにならない。

しかし彼の場合、背後に恐ろしく強力な守護霊がついているに違いない。

取り付くしまも無い、なんてふざけている場合ではなく、その強さは、半端じゃ無さそうだった。

本人全く意識していないようだが、本当に俺が親父の立場だったら、無理に頼んででも徳子の婿になってもらって寺の後を継がせたいところだ。

しかし、この後神坂家は崩壊する。

祖母が死んだからか、俊一郎の両親が、遅まきながら離婚の泥仕合を始めたのだ。

可哀想に俊一郎は、その仲介役まで務める羽目になったのだから、よくよくついてない奴だなと高みの見物を決め込んでいたら、3年後に本当に離婚して一家離散となり、広大な神坂家の敷地は人手に渡ってしまった。

こうなると、同情を禁じえない。

俺は、他人の不幸を喜ぶような精神は持ち合わせていない。大体そんなのは弱い奴のすることで、強い奴はむしろ他人に優しくしてやりゃいいと思っている。

その点で、神坂俊一郎の守護霊には共感を覚えていたのだが、俺も強いし、強いものが好きだからなのだろう。

しかし、俊一郎の消息もわからなくなってしまったから、俺は、おもちゃを失くした子供みたいに何となく寂しかった。

その後彼がどうなったのか、約十年間のことを、俺は知らない。

ただ、彼が木々に謝っていたように、桜の園とも言うべき庭園も、竹林も、池も、珍しいオガタマノキとモチノキの巨木も全て消え去り、造成されて住宅地に変わってしまった。

その変わり果てた姿を見れば、優しい彼でなくとも、木々に、そこに住んでいたであろう動物たちに謝りたくなるだろう。

そして、面白いと言っては不謹慎になるが、神坂家の跡地の売買に関わった数人の人間が、3年の内に全て故人となってしまったのだ。

土地取引に関わった某組の組員3人の内の2人と事件屋一人の計3人は病死だからまあ偶然として、彼の母と親しかった不動産屋は、経営が傾いた挙句、自分の経営するスナックのホステスと心中してしまった。

また、組員の残り一人は、幹部にまでなったが、抗争事件で射殺されてしまった。

これには、昔自殺した娘の怨霊がまだ残っていたような気がして恐ろしいものを感じたが、霊感の有る俺から見て、怨霊はもう感じられなくなっていたから、むしろ木々や造成で犠牲になった生き物達の祟りだったのかもしれない。

その数年で、俺の身辺もがらっと変わった。

妹の徳子は、京都の奥の寺の跡取息子の綾部右京と結婚し、俺自身も、徳子の同級生、つまりは俊一郎とも同級生だった篠宮玲子と結婚した。

玲子はおとなしいもののしっかりしており、見た目には徳子の方が美人だが、しっとりした落ち着きのある美しさは、望んでも得られないものだと思った。

美人の妹が、自信を持って推薦してきただけのことはあったのだ。

結婚した後玲子に俊一郎のことを聞くと、昔の話よ、と前置きした後、実は、彼が初恋の人だったことを白状した。

しかし、何も無かったことは徳子の保証付きで、俊一郎が相手かと思うと俺も嫉妬する気にはならなかった。

何と言っても玲子は処女だったし、とても純粋な面を持った素晴らしい女性でもあったのだ。

この点は、徳子が紹介してくれた時の言葉『兄さんには二度と巡り合えないような超優良物件、ほんまの掘り出し物の彼女だからね。何としてもうまくやってよ。』を認めざるを得ない。

まあ、そうは言っても女は妻となり、母になると強くなるもので、俺としては、半分だまされたような、半分こんなものだと諦めているような、月日が流れた。

霊感はどうなったかって、それは玲子に対する性感と引き換えにしたような気がするぐらい、結婚後は徐々に衰えて行った。

その分、俺は坊主も職業と捉え、手を抜く代わりに昔の聖人の有り難い言葉等で人々から有難がられるうまい方法で、檀家さんをだまくらかしてお茶を濁す方法を身に付けた。

それでも時々は故人から恨まれている親族を見るわけで、まともに見ていてはこっちの神経がいかれちまいそうになる。

ところが女房とは面白いもので、そんなことのあった夜には、俺の状態を察して特別念入りにサービスしてくれるようになったのだ。

この点は、大変有難い。

本当に、女房が観音様のように思えたものだ。

もっとも、今昔物語ではないが、観音様を抱くとはとんだばちあたりだ。

昔破戒僧だった俺にはぴったりかもしれないが。

そして、玲子が徳子と同じ年齢には思えない包容力を持っていてくれたことは、俺には何にも代え難い幸運だった。

結婚して15年経った時、30年振りに玲子と徳子の小学校の同窓会があった。

そこで、記憶の彼方に埋没しかけていた神坂俊一郎の記憶がよみがえり、俺は玲子に昔のことを話した。

すると、玲子も興味を覚えたらしく、出席していればいろいろ話して見るわ、と言って妹の徳子と喜んで出かけて行った。

妹の子供達、と言ってももう二人とも中学生だが、は綾部家で預かってもらっていたが、俺の息子と娘、上は中2、下は小6だが、当然俺が面倒を見ることになった。

最初はうっとうしかったが、丁度30年前の俺と玲子が息子の寛と娘の美弥であることに気付くと、昔話を聞かせている内に盛り上がり、爺婆を加えて久々に楽しい家族の時間を持つことができた。

これまた感謝である。

人間、感謝の気持ちを忘れてはいかんとは、まるで説教だが、厳然たる事実でもある。

これは、俺が自信を持って言える。

人生、感謝できるようになってから、何をやってもうまく行くようになり、こんなにできた妻をもらうことができたし、寛と美弥もとてもいい子だから、俺は、本当に幸せ者なのだ。

ささやかかもしれないが、何ものにも代え難い幸せに浸っていると、夜遅くなってから、玲子が、かなり酔っ払った徳子を連れて帰って来た。

玲子も上気した様子で、神坂俊一郎と再会して話すことができたことを嬉しそうに話した。

すると、徳子が横からからかった。

「あーあ、玲子失敗したわ。あの時告白してたら、こんな兄貴と一緒にならずに済んだのに。俊一郎君と玲子、本当にお似合いだったのよ。最高の不倫カップルよ。逢引きの約束ちゃんとしといたの。」

玲子は、人間できてるから、「俊寛さんが最高よ。」とか適当にあしらってくれていたが、妹がそこまで言った俊一郎に、俺も会ってみたい気がしたのは確かだった。

すると玲子が、俊一郎は、都合が付けば、明日、奥様を連れて我が家の寺を訪れたいと言っていたと話したので、内心しめたと思いながら歓迎すると答えると、徳子、俺の内心を見抜いて、ずばりと指摘しやがった。

「あーら、お兄様も、妻の初恋の人に会えることを、喜んでおいでですわね。」

流石玲子で、その場もうまくフォローしてくれた。

「俊寛さんは、神坂君の霊感がその後どうなったのか、心配していたのよ。」

すると徳子の奴、見事に切り返しやがった。

「お兄様みたいに、錆び付いてはいないでしょうよ。」

この野郎とつい手が出かかったが、玲子の一言に救われた。

「俊寛さんもとても霊感が強いから、自分で抑えるようにしたのですわ。世の中、知り過ぎない方が幸せですから。」

しかし、徳子は酔っ払っていたからか、しつこかった。

「やーいやーい、負け惜しみ言ってやがんの。十で神童十五で才子、二十歳過ぎればただの人ってね。」

あわや兄妹乱闘になりかけたが、玲子が止め、徳子を風呂に連れて行って一緒に入浴して寝室に連れて行った。

徳子を寝かせてから夫婦の寝室に戻ってきた玲子は、自ら積極的に求めてきた。

きっと心のどこかで、初恋の俊一郎に抱かれて見たいと思ったのだろう。

玲子の場合、その後ろめたさがセックスに対する自制心を失わせる特効薬になるから、そんな時のセックスは絶品である。

悩ましげに感じる時の表情、押し殺しながらも漏らす嬌声、自ら迎え入れる腰の動き、全て堪えられないものがある。これも、感謝感謝である。

思う存分楽しんだ後、玲子は俺の腕の中で眠った。

これも、久々である。

さて翌日、実は余り期待はしていなかったのだが、昼前に神坂俊一郎が妻の由岐枝を連れてやってきた。

彼は、親父の顔を覚えていたらしく、挨拶した後、今栃木に住んでいるため、京都の本山にも箕面にあるお墓にもなかなか行けずにいると恐縮していた。

親父としても、昔彼の祖父にはかなり世話になったから気にしないでよい、普段から亡くなった人に対する感謝の念を持つことが大切なのであって、墓参りをすればよいと言うものではない、と正論で答えていた。

俺は、俊一郎に再会できたことも嬉しかったが、彼が本当に昔のままで若々しいことに感心していた。

しかし、俺が本当に気になったのは、彼の妻だった。

なかなかの美女で、上品な雰囲気で、小柄ながらもスタイル、プロポーションとも良いのだが、この女には何かある、と久々に俺の霊感が警告した。

すると勘の良い玲子がそれを察し、由岐枝を、徳子とともに寺の中を案内すると言って連れ出し、俺と俊一郎を二人だけにしてくれた。

由岐枝は無邪気に喜んで二人に付いて行ったが、そんなに時間も無さそうなので、俺は気になったことをずばりと聞いた。

「神坂君、大変な因縁のありそうな奥様だな。どうして彼女を選んだんだい。」

彼は一瞬はっとした顔をしたが、俺も霊感が強いことは玲子から聞いていたらしく、にこやかな顔に戻った。

「あなたには、いや、あなたにも彼女の因縁は見えるのですね。」

「そのとおりだ。俺は霊を見ることができる。彼女は、見た目は清楚な美女だが、霊的には大変な怨念を抱えている。何故、そんな彼女を妻にしたんだい。」

彼は、ほーっと感心したような顔をした後、その疑問に答えた。

「天海さん、あなたは昔この近くに住んでいた竹野清十郎と言う人のことをご存知ですか。」

俺は、記憶力はいいから、神坂家の納屋の怨念の時に親父から聞いたことを覚えていた。

「知っている。いや、むしろ君が何故そのことを知っているかの方が不思議だ。」

すると彼は、俺の心を見透かしたように続けた。

「では、昔家にあった納屋とその由来、それにまつわる悲劇もご存知ですね。」

ここまで来ると恐怖である。彼がそんなことを知っていること自体不可解だが、俺が知っていることを、当然のように聞いてくるのだがら。

「知っている。しかし、何故あんたが知っているんだ。それが不思議だ。」

微笑んだ彼の答えは、衝撃的なものでした。

「私が、竹野清十郎だからですよ。」

しかし、その一言で、疑問は氷解した。

「そうか。前世だったんだ。」

「そうなんです。私は、東京で由岐枝に巡り合った時に、思い出したんです。」

と言うことは、彼の妻は自殺した女中なのではないか。

思い付いた時に彼はまた俺の心中を読んだように続けた。

「理解してもらえたようですね。由岐枝は、私が愛し、死なせてしまった娘、れんの転生なんですよ。でも、竹野清十郎とれん、二人の名誉のために言い伝えを訂正させてください。」

そう言って、彼は、竹野家のその後の詳細を語った。

言い伝えでは、清十郎が、女中のれんを手籠めにして、妊娠したれんは自殺したことになっているが、彼の説明では、清十郎は江戸末期の庄屋の跡取息子ながら自由な気風を持った人物で、当時彼は18歳、女中のれんは16歳だった。

れんは、働き者でしっかりした娘だったが、清十郎に恋心を抱いてしまい、それで悩み続けていた。

清十郎も、そんなれんの心を感じ、彼自身れんを気に入ったため、好意に応えて逢引きを続けている内に肉体関係を持ってしまったのが真実であり、清十郎が手籠めにしたわけではないと語った。

それだけで済んでいたなら、単なる身分違いの許されぬ恋で終わったのだろうが、れんが妊娠していることが発覚したことから、騒動になった。

当時身分の差は今よりもずっと大きかったが、それよりも大きかったのは国籍の差だった。

れんの本名は金蓮花、朝鮮人だったのだ。

彼女は、清十郎との仲を裂かれた上に、自分から彼に抱かれたことを告白すると、親族一同から『民族の恥』とののしられ、堕胎を迫られた。

清十郎同様進歩的であり、常々国籍による差別にも疑問を抱いていた彼の父竹野清和は、金一家に一つの提案をした。

れんは、朝鮮人部落にも帰りづらくなっていたから、彼女を、清十郎の妾として認め、竹野家で引き取ると言うものだった。

当時の妾の立場は、現在の愛人よりはむしろ昔の側室に近く、決して悪くなかったから、清和の提案は、破格のものであり、最大限の譲歩でもあったのだ。

れんの両親は、内心喜んで応じようとしたのだが、れんの姉の梨花が『妹を日本人に売るのか。』と反対したため、応ずるわけに行かなくなってしまったのだ。

そして、妹を思う姉の心は、逆に彼女の命を奪う結果となってしまった。

姉の意見を受け入れて強く生きるのには、れんは、純粋過ぎ、弱すぎた。

彼女は、日本も朝鮮もなく、ただ一人の人間として、清十郎を愛していただけだったのだ。

「何故人を愛することがいけないの。民族の差って何なの。私は彼を愛し、彼の子供を産みたいと思った。どうして、それがいけないことなの。」

彼女の叫びは、悲痛だった。

そして、希望が受け入れられないと知ると、絶望してお腹の子供とともに自らの命を絶った。

清十郎も純粋だったから、彼女の死を知ると半狂乱になった。

でも、もうどうすることもできなかった。

清和は、十分な補償金を払うことで金家とは和解したが、梨花は、そんな両親に反発し、一人で清十郎の命を狙って深夜竹野家に忍び込み、彼に包丁を付き付けた。

ところが、清十郎は、彼女に自分の命を投げ出した。

「それで気が晴れるなら、私を殺すがいい。私も、れんを愛していたのだ。彼女亡き今、この命は惜しくはない。」

彼の言葉に、梨花もそれ以上のことはできなかった。

そして、彼女も、清十郎に好意を持つことになった。

しかし、彼女も彼と結ばれることはなく、清十郎は見合いで結婚し、梨花も同じ朝鮮人部落の者と結婚した。

金一族とは和解し、むしろ彼等のために尽力した清十郎は、死後『偉大な友人』と呼ばれるようになったが、自ら命を絶ったれんは、強い怨霊となって人々に祟り続けることになってしまった。

竹野家は、ほどなく清和夫妻が亡くなり、清十郎の妻は、一人息子を出産後、れんの怨霊なのか、「かわいい子が呼んでいる。」との言葉を残して亡くなった。

れんの怨霊のしわざではないかとうわさになったため、清十郎は供養しようとしたが、霊媒に憑依したれんは、かつての最愛の人清十郎に向かって、『三つの家に祟って滅ぼしてやる。』と叫んだ。

この時に、完全に供養して除霊しておけば良かったのだろうが、清十郎は敢えて除霊まではせず、自分に祟るなら祟れと任せた。

清十郎の一人息子は、官僚となり、結婚して一人娘ができたが、夫婦は、東京に居て関東大震災で亡くなった。

孫娘は、大震災の時横浜の乳母宅に居て助かり、清十郎に引き取られたが、その後、幸せに嫁いで行ったから、れんの怨霊は、清十郎と孫娘には祟ることはなかったと思われる。

そして、清十郎は最後、何と、結婚したものの子供に恵まれず、夫に先立たれて一人になっていた梨花と二人だけで屋敷に残って、人生を終えた。

梨花も清十郎の死後ほどなくして亡くなり、その後、敷地を邸宅ごと買い取ったのは、第一次大戦後の好景気に乗じて富を築いた岡田家であった。

こちらは悲惨で、当主の弥吉は元々愛人を何人も作っていたが、引越ししてきて直ぐに、れんの怨霊の祟りか、正妻の珠代が狂死し、事業も一挙に傾いて数年と経たずに破産、弥吉は、最後、屋敷に火を放って自殺した。

第二次大戦後、大阪市内から疎開してきてその土地を買い取ったのが、神坂俊一郎の祖父鷹男だった。

そして、結局神坂家も崩壊したわけだが、俊一郎自身は、それは、怨霊のせいでも何でもないと考えていた。

彼は、たとえ怨念が何らかのきっかけを与えたとしても、その後の行動はその人自身の心の弱さの責任であり、怨霊の責任にするのはお門違いだと言い放った。

俺も、いわゆる悪党と呼ばれる面々でも、霊にいっぱいとりつかれて平気な人間もいるし、逆に祟られてもいないのに、自分の不運を祟りのせいにする人もいるから、彼の説の方が真理であろうと思った。

しかし、そこまで見抜くとは、彼はやはり普通ではないと改めて感心した。


話が一段落したところで、俺は、彼と妻由岐枝の関係に触れたのだが、見ぬいたとおり、由岐枝がれんの転生であることに気付いた彼が、これも縁であり、それを大切にするのが自分の運命だと悟ったから結婚したのだと答えた。

「何も、そこまでしなくてもよかったのではないか。」

俺が思ったままを口にすると、彼は、微笑んで首を振った。

「いいえ、これでよかったのです。私は、彼女と結婚すべきか、正直に言えば悩んだのです。当時私の前にはもう一人の女性がいました。その女性も、前世で関係してくるのです。」

「まさか、彼女の姉ではないだろうな。」

すると、彼は、悪戯っぽく笑った。

「彼女の姉とは、実は前世の内に接点があったのです。まあ、その話は別の機会にしましょう。もう一人の女性は、実は西都大学の同期生だったのですが、彼女の前世は竹野青華、つまりは清十郎の孫だったのです。」

「彼女は、不幸ではなかったのだろう。」

聞くと、彼はにっこり笑った。

「ええ。前世の青華は、幼少の頃に、関東大震災で両親と死別する不幸はありましたが、その後の人生はひたすら明るく、幸せなものでした。そして、今生の夷川幸子も、恵まれた家庭で何不自由無く育ったお嬢様だったのです。」

「今生の由岐枝さんは、どうだったんだ。」

西都大卒の彼と結婚したからには、当然高度の教育を受けており、それができる家庭の子女のはずだと思ったが、そうでもなかった。

「無邪気なお嬢様の幸子に対し、由岐枝は、滋賀県北の農家の娘で、短大卒の学歴しかありませんでしたから、育ちこそそんなに良くはありませんが、無邪気な、そして今時珍しいぐらい堅実な女性でした。しかし、彼女は、内面に血みどろの情念を抱えていました。私と知り合って戸惑ったのは、むしろ彼女の方だったのです。今なら身分違いなんて死語ですが、田舎の農家の娘で学歴の劣る彼女にとっては、私は、高嶺の花だったのです。いや、玉の輿だったのです。そして、処女でとても堅い考えの由岐枝でしたが、内面には愛が招いたセックスと、セックスが招いた悲劇の葛藤を抱えていました。彼女は、私に肉体的にもひかれたのです。その感覚に戸惑い、何度も私のことを諦めようとしていました。そして最後の賭けに出ました。今ならむしろ普通かもしれませんが、私に交際を申し込むよりも先に、デートをするよりも先に、自分からプロポーズしたのです。ただ、その言葉は古色蒼然たるものでした。『結婚を前提にしたお付き合いをお願いします。』でしたから。」

当然、俊一郎はそれを快く受け入れたことになるが、それも、大した決断だ。

「あんたは、それを受け入れたんだ。」

彼は、深くうなずいた。

「そうですが、その直前に私は二人の前世を思い出したのです。少し悩みましたが、数分間考えて決断しました。」

俺は、『数分間考えて…』、には思わず笑った。

「数分間の決断か。大したものだな。」

すると彼は、どう考えたか、説明した。

「誤解しないでください。私は、因縁だけで選んだのではありません。由岐枝が、自分の人生をかけるに足る人物かどうかを、冷静に判断しただけだったのです。」

「それなら、西都大学の子の方が良かったのではないか。」

思ったままを聞くと、彼は苦笑した。

「確かに、幸子は大した女性でした。育ちは愚か、こと頭脳に関しては、私よりも上だったのですから。しかし、私には彼女を受け入れる自信は持てなかったのです。私の家庭を見せるだけで、彼女を壊してしまいそうだったのです。まあ、今考えてみれば、由岐枝なら傷つけても大丈夫だろうとの都合の良い判断もあったことを認めざるを得ません。」

「あんた、もしかしたらある面では今の奥さんより、その子の方が大切だったんじゃないか。」

思ったままを言うと、彼はジョークで答えた。

「ええ。大切な、たった一人の孫娘でしたからね。」

ジョークとは思えない面もあったが、彼は付け加えた。

「もちろん由岐枝も、前世で果たせなかった妻として幸せにする夢を果たすために大切にしている積もりです。ただ、どこかで自分の方が偉いんだと尊大な気持ちがあったことは確かですね。清十郎の時も、本当は日本人の自分の方が偉い。お前は私のものになれば大切にしてやると思っていたんです。それができなかったことに対する憤りも、私の後悔の念に加わっていたのです。私としたことが、何と言うことだと言う感じで、結局は自分の失敗を認めたくなかったのですね。まあ、そのことに気付いたのは最近ですが。」

「それで、結局は由岐枝さんを選んだのだろう。」

「ええ。その時の彼女の表情は素晴らしいものでした。信じられないとの驚きと、今度こそ、本当に今度こそあの人と結ばれると言う喜び、そして昔の悲劇の記憶の陰。私は今までその時の彼女のような複雑な美しさを湛えた表情を見たことはありません。」

俺は、怨霊の由岐枝だから、その後も決して平坦ではなかったろうと見抜いた。

「しかし、すんなりめでたしめでたしとはならなかったんだろうな。」

彼は、悲しげに微笑んだ。

「由岐枝は、自分でも知らずにれんと同じ道を選んだのです。結婚の約束をしたにもかかわらず、不安に駆られた彼女は、私の体を求めました。」

「処女だったのだろう。」

俺はつい確かめてしまったが、二人にとっては、そんなことはどうでも良かったに違いないとも思った。

「ええ。処女と童貞だったんですが、不思議なぐらいうまく行ったんです。これも前世のリハーサルの賜物なんでしょうね。前世の初体験は悲惨だったような気がしますから、この点では、前世の悲惨な初体験の経験が生きたんでしょう。しかし、その結果は同じでした。」

俺はピンと来た。

「じゃあ、できてもうたんか。」

彼は、少し悲しげに微笑んだ。

「ええ。私は、そのこともあって結婚を急いだんです。誰にも気付かれませんでしたが、結婚した時、彼女は妊娠3ヶ月でした。」

「でも、今生では堕ろしたんだ。」

彼は、深くうなずいた。

「私は産んでもよいと言ったんですが、彼女は、どこかで前世を思い出したのでしょうね。私が出張で留守の間に、思い切り良く中絶してしまいました。」

「それで良かったんだろう。」

前世と違うことをするのも悪くは無いと俺は思っているし、中絶はいいこととは思わぬが、それを教訓としてやり直しがきくなら、選択肢の一つとして十分意味はあると考えている。

生まれてきて大切にされないよりは、中絶された方がましだとさえ思っている。

「私も、結果的には良かったとしか言いようがありませんね。彼女は、そのことで本当に子供が欲しいと思い始めましたから。だから、結婚1年後にはもう長男が生まれていました。つまり、中絶しなければ長男は存在していません。水子供養もしましたが、一種のまやかしだと思っています。あなたの商売にかかわるかもしれませんが、私は、供養すれば許されるものだとは思っていません。命を奪うのだから悪いことです。金を払って済む問題ではありません。供養は自己満足です。それならむしろ、自分でお経を上げた方がいいでしょう。でも、生まれる生まれないも、一つの縁なのです。生まれてきた縁を大切にする方が、生まれなかった縁をどうこうするより大切でしょう。不運を水子の霊障のせいにするのは根本的な間違いです。それは、自分の弱さなのです。私は、由岐枝が選択した縁を大切にしたのです。でも、そのことは彼女の中の悲しみも呼び起こしました。それからの彼女は、セックスに複雑な感覚を伴うようになりました。私と結ばれたのもセックスが縁なら、昔も今も子供を犠牲にし、自らの悲劇の元となったのもセックスだったのですから。」

俺は想像してみたが、エロ小説のように、抵抗しつつもセックスに溺れて行く姿しか思い浮かばなかった。

しかし、彼はにっこり笑って俺の考えていたことを読み取ったかのように答えた。

「あなたの想像どおりですよ。由岐枝はセックスを嫌悪しながらも溺れて行ったのです。」

俺は、正直驚いた。

「あんた、俺の考えていたことわかったんか。」

彼は、にっこり微笑んだ。

「何時もわかるわけではありませんが、これも何かの縁でしょう。あなたの奥さんも妹さんも、私の同級生なのも一つの縁ですし。」

俺はこの時、神坂俊一郎と言う男が本当に怖いと思った。

自慢じゃないが、大抵のことで人に負ける気はしないが、眼前の彼には、何をしても負けそうな気がしたのだ。

「あんたは怖いお人だな。」

本音を吐くと、彼は笑った。

「それがわかるなら、あなたも強い人です。」

俺は、彼に関わったヤーさん二人、元ヤーさん一人、事件屋一人の4人が怪死を遂げた理由がわかったような気がした。

彼自身は、妹に聞いても妻に聞いてもとても優しい男だと答える。実際、貴族の血のせいか、物腰は柔らかく、気品とも言うべきものを感じさせるほどだ。

しかし、その内面は違う。大体霊を成仏させることができるのは、とんでもなく強力な守護霊がついているからだし、そうとしか思えない。

ところが、彼の守護霊は俺にすら全く見えない。

つまりは、彼自身が恐ろしく強いから、守護霊が表に出る必要が無いからに違いない。

惜しいな、俺はこの時、心底そう思った。

彼は、僧侶か神官になれば良かったのだ。

おそらく、前世でそんな経験も積んでいるだろう。

「本当に惜しいな、普通のサラリーマンにしておくのは。」

つい口に出すと、彼はまた笑った。

「私は、由岐枝と静かに暮らす道を選んだんですよ。この力を金儲けに使う気はありません。」

「もったいない。」

再び言うと、彼は逆襲してきた。

「天海さんこそ、その霊力と強さを活かさないのは、もったいないのではありませんか。僧はお似合いですよ。」

俺も、つい本音を吐いてしまった。

「いや、俺も玲子と静かに暮らす方がいいな。霊の言うことにいちいち耳を傾けていたら、金は儲かるかもしれんが身がもたんし、幸せとは言いかねるだろう。」

意見は一致したわけで、俺は彼と顔を見合わせて大笑いした。

こりゃいいコンビである。

彼と俺は似た者同士で、二人とも、妻の玲子が好きだと言った相手でもあるのだから。

しかし、俺は、怨霊を妻にする勇気はない。

「その後の生活はどうだったんや。」

今の姿を見れば不幸であるはずは無かったが、俺の霊感は決して順調では無かったに違いないと告げていた。

彼は一瞬ためらったようだったが、周囲を見回してから小さい声で答えた。

「世間は、理想の夫婦、理想の家庭と見てくれていましたが、3人目の子供が幼稚園の時に大きな波乱がありました。」

「何だったんや。」

「私は当時仕事の鬼でした。何故あんなに働いたのか、今では不思議ですが、能力のある人間はそれだけ余計に働き、その分お金をもらえばよいと思っていましたから、当然のように働いたのです。ただ、その分家庭では冷たい父、夫だったでしょう。その上、私の母が介護が必要になって転がり込んできたのです。母は、由岐枝のことを、息子を色仕掛けで陥れた家柄も学歴も無い女と馬鹿にしていましたから、由岐枝は顔も見たくなかったというのが本音だったのでしょう。神坂家から逃げ出したくなった由岐枝は、非行に走ったのです。」

およそそんなことをしそうもない彼の妻だったが、俺はさらっと水を向けた。

「つい出来心で浮気でもしたんかい。」

彼は苦笑したが、その答えは驚くべきものだった。

「つい出来心の浮気なんて生易しいものじゃなかったんですよ。情事を重ねた挙句、浮気相手の子供を妊娠して、私に離婚を迫ったのですから。」

これは衝撃だったが、怨霊のなせる業と考えれば納得できるものでもあった。

「とてもそんなことをしそうな女性には見えないがなあ。人は見かけによらんな。」

そのままの感想を述べると、彼も、怨霊のことに触れた。

「いやいや、三代祟った怨霊の面目躍如たるものですよ。私は、由岐枝の浮気相手に初めて会った時にピンと来たんですよ。この男、大分年下だが、由岐枝に横恋慕するとね。だからご丁寧に忠告したんです。『あの男は、お前に惚れていて危険だから、近づけるな。』とね。すると由岐枝、しゃあしゃあと答えたんです。『弟みたいなものよ。大丈夫。』ってね。」

「すると、近親相姦になったってわけだ。」

茶化すと、彼も笑った。

「当時、私は、自分の命令は絶対だと思っていたのでしょうね。彼女の浮気には気付いてもおかしくなかったのですよ。後で、どうして気付かなかったのと笑われたぐらい。」

「それで、どうしたんや。」

彼は笑っているが、内容は笑えるものではない。

「働きに働いて、本来の業務ではない出張で山形に出かけた時、由岐枝が『彼にもお土産買ってきてあげて。』と頼むんですよ。私は信じていましたから、さくらんぼをいっぱい買ってきて渡したら、喜んで持って行ったんですよ。今考えて見ると、その時も情事を重ねていたんでしょうね。そしてその夜、子供達が寝静まった後、『お話があります。』と来たんです。」

「おっ、おいでなすったな。」

俺が思わずからかうと、彼はさらっと切り返した。

「大人の時間で、久しぶりに一発と思っていたら、きつい一発をぶちかまされたわけです。」

これには思わず笑ってしまったが、自分の悲劇を笑い話にできるのだから、彼は大人物だ。

「どんな一発だったんや。」

「ソファーに並んで座って、私に告白したんです。『私のお腹には彼の子供がいるんです。お願いします。別れてください。』とね。」

俺は、もし玲子に同じことをされたら、絞め殺しそうな気がした。

「俺なら女房を殺しかねんな。あんたはどうしたんや。」

彼は、淡々と語った。

「さて、どうしたら一番いいかな、と考えましたね。」

俺は、思わず聞いた。

「怒らなかったのか。」

すると彼、首を傾げた。

「怒って、何かいいことありますか。」

そう言われるとぐうの音もでないが、それができる彼は人間離れしている。

「普通なら、このあま浮気しやがってとぼこぼこにするんやないか。」

そう言うと、彼少し微笑んだ。

「そうでしょうね。その気持ちはわかります。しかし、私が激情に任せてやったら、由岐枝は確実に死んでいたでしょう。」

彼は、手を出す代わりに考えた。

確かにその対応は正しい。

「そいで、結局どうしたねん。なんで別れなかったんや、あんたが悪かったわけやないやろ。」

聞くと彼、仏像のように微笑んだ。

この顔だ。人間とは思えん顔だ。

昔墓場で霊たちを成仏させた時にもこの顔をした。

俺は心のどこかでこの微笑に魅せられていた。

だから坊主になって仏像と向き合うことを選んだのかもしれない。

玲子も、時々同じような微笑みを見せてくれる。

俺は、令子のその微笑に惚れた。

無いことに、自分のものにしたくなったのだ。

そして、本当にしてしまったのだが。

そんなことを思っていると、彼は不可解なことを言い出した。

「私は、その時、自分の中の神に考えさせたんですよ。」

「神とは。」

「そうですね、私と言う個人を超越して全てを見通す心です。由岐枝の心の中も、未来さえも。」

わけわからんながらも、彼のことだからありそうに思えた。

でも、取り敢えず結果を聞くことにした。

「それで、その神さんの考えた結果は。」

彼はにっこり微笑んだが、その途端俺はぞくっとする快感を覚えた。

もし俊一郎が女だったら、思わず抱き付いて押し倒したくなったかもしれないほどの。

そう言えば、インドやモンゴルの仏像には本当にセクシーなものがあるから、それも信仰心を持たせるには効果的なんだろうな、とも思い付いた。

「そのまま由岐枝を大切にしろ。時が解決する。とのものでしたね。」

「それで、何とかなったのか。」

「ええ。彼女、自分が悪いことは百も承知ですから、私が別れないと言えば、自分から別れることはできなかったのです。」

確かにそうだろうが、それができるところが彼の凄いところだ。

あれ、子供はどうしたのだ。

「子供はどうしたんや。」

「子供には罪はありませんからね。私の子供として産ませるつもりだったのですが、流産してしまいました。」

できすぎた偶然だし、何かなかったのだろうか。

「ほんまかいな。」

「残念ながら本当です。」

自分の子供じゃないのに残念ながらと言うところが、彼の人徳だとは思ったが、本当に何もなく流産したのかは半信半疑だったのでつい聞き返した。

「本当にあんたは何もしなかったのか。」

すると彼、少し悲しそうな顔をした。

「いや、余計な一言を言ってしまいました。」

「何と言ったんや。」

「由岐枝に、「お腹の子供は、お前を守ってくれる。」と言ったのです。」

「守ったと考えるか。」

「これも、残念ながらイエスでしょうね。もし産まれていれば、いくら私は気にしなくても、由岐枝と他の子供達との関係からもいろいろな面倒が起きたでしょう。私は、そんな面倒に由岐枝が耐えられたとは思えません。だから、子供は、自分の死を持って母親を守ったと言えるのです。」

確かに、残酷な真実だろう。

では、夫婦関係は、すんなり元に戻ったのだろうか。

「奥さん、どうした。」

「それで懲りて元の鞘に戻った、と言いたいところですが、実はそうはいかなかったのです。」

「何じゃそりゃ。別れずにまだ浮気を続けたのか。」

笑顔でうなずくから、彼は恐ろしい。

「流産には、第二弾があったんですよ。」

「つまりは、またやったっちゅうことやな。」

「そうですね。私の目を盗んで、少なくてももう1回はしたということになりますね。」

俺は、彼がどう考えたのか聞きたくなった。

「あんた、それが許せたのか。」

すると彼、また非人間的な笑顔で微笑んだ。

「ええ。報いを受けたのは、本人ですから。」

「どうなったんや。」

今度は単なる流産じゃなさそうだと思ったら、そのとおりだった。

「二回目は、子宮外妊娠で、由岐枝、今はもう子供が産めない体なんです。」

「下手すりゃ、死んでたわけか。」

「そうです。倒れた時、たまたま私が家に帰らなかったら、彼女、死んでたかもしれません。」

子宮外妊娠は、下手したら大出血を招くからそのとおりだが、俺は恐ろしいことを考えてしまった。

すると、すかさず彼に釘を刺された。

「由岐枝を見殺しにすることは、考えませんでしたよ。」

「恐ろしいやっちゃな。俺は、ふと考えてもうたわ。」

「私は、普通の人と少し違うようです。」

「一杯違うわ。普通なら、そんな悪魔のささやきがあったんとちゃうか。」

「うーん、少なくとも、その時は考えませんでしたね。」

「それだけでも、普通の人とちゃうわ。」

「神様が、教えてくれたんです。」

「何を。」

「由岐枝を助けたいかと。」

「ほんまかいな。」

「本当のことなんです。彼女が倒れた時、平日で、私は仕事中でした。」

「あれ、家に居たんじゃなかったんかいな。」

「ええ。当時は車で5分ぐらいの所で仕事をしていましたから、まあ近くではありましたが。」

「それで、飛んで帰ったっちゅうことか。」

「そのとおりなんですが、神様、「助けたいか。」しか言わなかったから、私が、きっと何かあったに違いないと考えて、仕事をすっぽ抜かして家に帰ったら、由岐枝が倒れていたんです。それで、原因は推測できましたから、行きつけの産婦人科に担ぎ込んだんです。」

「それで、助かったんや。」

「そうですね。神様、無責任ですから、後はお前が考えろってことだったんでしょう。」

迷わず助けることができたということは、彼は、妻が大事だったに違いない。

「あんたにゃ、大切な奥さんやったんやな。」

すると、彼、うなりました。

「うーん、正直に言います。」

「何や。」

「全く考えていませんでした。」

俺は、思わず呆れた。

「全く考えずに助けられたってか。」

「結果的に、そうなっただけです。」

「じゃあ、お前さんは、忘れてやりなおせたんやな。」

「やり直したことは確かですが、そのことではないのですが。」

「じゃあ、何や。」

「私は、起こったことは忘れません。」

言われてみると、普通の人間なら、嫌なことは、忘れ去ることで何とかなるのだろう。

「じゃあ、どうやったんだ。」

「許しただけです。そうしなけりゃ、解決できません。」

確かに真理だが、普通の人間には難しい方法だろう。

「それは真理だ。しかし、むしろ、普通の人間には難しい。普通なら、忘れることで何とか許そうと考えるだろう。」

すると彼、首を傾げた。

「逆に、私には、忘れることはできませんね。許すことならできますが。」

「確かに、あんたの方法の方が正しい。それで、どうしたんや。」

「流石に懲りたようです。」

「それっきりと言うわけか。」

「いや、それっきりでもなかったようですが。」

「えっ、まだやったんか。」

「いや、やることはもうしてはいないようです。ただ、その後も何度か会ったことは知っています。」

許したうえで、見守ったとすると、よくよく気の長い奴だと俺は呆れた。

「俺ならできんな、そんな芸当。」

「いや、これも必要だったんですよ。」

「どう。」

「子宮外妊娠でした。私はもう子供が産めません。あなたの子供は産めません。結婚できません。はい別れます、で済みますか。」

言われてみるとそのとおりなのだが、俺なら、そんな女を許せん。

「俺は、そんなに気長にはできんな。」

「いや、逆で何度か会わせた方が早く片付きますよ。」

言われてみると、それも真理だ。

「そうかも知れんが、俺にはできん。」

すると彼、少し笑った。

「これも神様の言うとおりだったかも知れませんが、私は由岐枝を許し、彼女の自由にさせました。子宮外妊娠でショックを受けている彼女を更に鞭打っては、後々私との関係にいいことはないでしょう。優しく慰めてやることしかないよって私は割り切ったんです。」

「あんた、どうしたんや。」

「まず、病院では、彼女の手をずっと握っていましたよ。」

信じられんほどの人の良さというべきなのか。

「それで、ようやく何とかなったってわけか。」

「そうですね。結局2回の入院で、彼女半分嫌になったところを、彼の方が追い打ちをかけてくれたので、元の鞘に戻ったんですね。」

「何や、奥さんの浮気相手、何したんや。」

「いや、至極まともなことを言っただけですよ。」

「何を。」

「旦那さんの方が正しい。入院代は負担するから、子供の水子供養だけはしてくれって。」

「それで何故、元に戻るんや。」

俺にはさっぱりわからなかったが、彼も苦笑した。

「いや、正直なところ、私も理解はできません。ただ、由岐枝は悪いことでも自分をつなぎ止めて欲しかったんでしょう。でも、梯子を外された。そして、変に水子供養なんてことを言われたのもかちんときたようです。」

「わがままとしか言えんな。」

俺が正直に言うと、彼さらっと返した。

「女性は、そんなものですよ。まあ、それでうまく行ったのですから、結果オーライです。」

俺は、思わず笑ってしまった。

「その後は、どないや。」

「まあ、人が見れば理想の家庭でしょうね。」

「内情は。」

「まあまあです。由岐枝は、頭もよく、家事がよくでき、大変よく気が付く妻ですから、不満はありません。」

「雨降って地固まるってとこか。」

「そうですね。いい経験をしました。」

彼はそう言って微笑むが、俺はそこまで言えるか、疑問だ。

「俺なら、ごめん被りたい経験じゃ。」

「それもそうですね。でも、大変な事件は、うまく収拾できればすべてよい経験になりますよ。」

「確かに、真理やな。」

ふと見ると、3人の妻達が帰ってきたので、俺も俊一郎も、何食わぬ顔で迎えた。

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