チャイルド

「何か土産にでも思ったが、ここからは何も持ち出されてはいけないルールになっているのだ。重ね重ね申し訳ない」


 背が高く高く高すぎて顔の見えないハーデース様の言葉が、ナザリアたちの耳に降り注いできます。低く、冷え切っている声。でも、不思議と怖くありません。何の感情も読み取れない声色なのに、どうしてだか暖かく感じられるような。


 再び空を飛んで村に帰ってきたナザリアたちは、温かく出迎えてはもらえませんでした。[新参者の奥さんが村長さんに連れられて冥界の入口がある洞窟に行った。] それは、まあ、事実なんですけど。いかにも尾ひれが付きそうなセンセーショナルな噂というか。


「アンデッドがぁ、村に入ってくるなーっ!」


 男の子がひとり、鍬を持ってナザリアに襲いかかろうとしました。案の定ナザリアたちは死んでしまったのではないかという方向性のデマが、彼女が今朝出発して夕方までに戻ってくる数時間の間に、村の話題をかっさらってしまっていたようです。


 正義感に狂った彼は、その小さい手で自身の2倍ほどの長さがある凶器を振り被り、そして振り下ろした先にいたのは村長さん。年に不相応なくらい、暴力的で痛々しく重たい一撃を、左腕に深々と受け止めました。


「事情は知らないのだけれど、別の村の者に対して話し合いの機会を設けることなく手始めに暴力によって解決しようとする乱暴な人間は、村から追放する規則になっている。それが子どもであろうとも、女であろうとも。」


 村長さんは義手から慎重に刃を抜き取り、男の子を睨みつけました。


「その覚悟があっての行いなのか?」

「母さんたちを守るためなら、俺の命なんてこれっぽっちも惜しくないやい!」


 デマに踊らされてヒーローを気取っている、哀れなチャイルディッシュ・ヒーロー。話にならないですね。村長さんは溜息をひどく大きくついて、男の子の腕に鍬の刃先を当てました。そして男の子はと言えば、彼は村長さんの怒りが滲み溢れ出ている呼吸に怯え、それ以上の反抗心や正義の心を忘れてしまったのでした。


「事情は知らないのだけれど、お前は私たちを殺そうとした。少なくともこれは大いなる過ちであると言える。今すぐに謝罪してもらえないのならば、お前の腕も私とお揃いになるだろう」


 男の子は泣きながらひとこと、ごめんなさいと静かに謝りました。村長さんは彼の腕から刃を離し、彼に正式な追放処分を言い渡しました。


 その時です。一瞬前まで気持ち良さそうに眠っていたはずのテーマパークが突然に激しく泣き出し、ナザリアの腕の中で急にジタバタと暴れ始めたのでした。その鳴き声は不快を訴えるものではなく、不思議と、行き場のない悲しみを表現しているものに思えましたのでありました。


 果たして男の子はその日の内に村を追放され、翌日の朝には痛みと恐怖と恨みに歪んだ顔以外には、ほとんど骨しか残っていない無惨な姿で発見されました。魔物に食われた遺骸です。

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