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大舟

小説家になろう

小説家になろうは、日本最大級の小説投稿サイトであり、なろうの愛称で親しまれている。このサイトにおいては、作者であるユーザーが自由にオリジナル小説を投稿・公開することができ、読者はそれをすべて無料で閲覧することができる上、評価やコメントなどを容易に行うことができる。その親しみやすさがネットユーザの間で反響を呼び、ユーザー数は国内最大級を誇るまでに至った。


そんな同サイト上においては、出版社や関連企業と連携した小説コンテストが定期的に開催されている。有名なところで言えば、「なろうコン大賞」、「ネット小説大賞」等があり、応募作はすべて同サイト上にて公開され、読者の評価や感想を得ながら審査が進められる。コンテストの受賞作は書籍化・コミカライズされることも多く、新人作家が商業デビューを目指す上での登竜門的存在となっている。

しかし一方で、コンテストに応募された作品が、受賞などとは全く違う意味で話題となってしまったケースがある。とりわけ注目を浴びたのは、同サイト内において2022年8月から11月にかけて開催された、ノンフィクション小説コンテストにおいて、同コンテストに投稿されたある短編作品の内容が応募規定違反ではないかと疑われ、SNS上で話題になったのだ。

以下に、実際に投稿された当該作品の内容をそのまま転記する。


――――

タイトル:かけてはいけない電話番号の話

著者  :ふるきの

出身  :東京都北区

本文  :恐ろしい電話番号がある、と言われたなら、皆さんは何を想像するだろうか。想像しやすいところで言えば、詐欺電話、強迫電話、あるいは無言電話などがあげられるだろう。そのいずれも、その先で起こりうる事態を想像したなら、非常に恐ろしい光景が浮かび上がってくる。詐欺電話に騙されて大切な資産を奪われてしまったりすれば、もしかしたら人生に絶望して命さえ投げ捨ててしまうかもしれない。強迫的な電話を受けてしまったなら、精神的にダメージを受け、それがトラウマとなり、生涯立ち直れなくなってしまうかもしれない。無言電話などのいたずらを執拗にされたなら、人間不信になっていってしまい、誰とも良好な関係を築けなくなってしまうかもしれない。

電話というものひとつとってみても、これほどまでにいろいろな恐ろしい可能性が秘められているのです。そんな中にあって、一つ、私が皆さんにお話ししたい恐怖の電話番号というものがあります。


これは、私が中学生だったころに実際に体験した話です。当時は今のようにスマホが普及しておらず、インターネットは今ほど身近な存在というわけではありませんでした。そんな時代の中にあって、私は家のパソコンでネットサーフィンをするのが大好きで、毎日の様にいろいろなサイトをめぐっていました。同じ趣味を持つ人のブログから、おもしろ動画を集めたサイト、ちょっとしたゲームができるサイトまで、本当にいろいろなサイトをめぐって楽しんでいました。

そんなある日、私は学校から帰ってきて、いつものようにパソコンの電源を入れてネットサーフィンを始めました。その時、いろいろなサイトをめぐっている中で、非常に気になるサイトのリンクを発見したのです。


『かけてはいけない電話番号まとめ』


そのサイトのリンクは、いろいろな怖い話や都市伝説をまとめたサイトからリンクされていて、当時の私には非常に興味をそそるサイト名をしていました。なぜなら、クラスの中でもインターネットに触れている人数が今ほどは多くない時代ですので、こういったサイトから得た情報や話をクラスの友達に伝えることが非常に楽しかったのです。かけてはいけない電話番号なんて言われたら、いったいどんな電話番号なのか、かけたらどうなるのか、気にならないはずがありません。

私はすぐにそのリンクをクリックし、サイトにアクセスしてみました。当時のページは今ほど複雑ではありませんから、エクセルのようなシンプルな見た目のサイトの作りの中に、10件程度の電話番号のリストがそれぞれ短い説明付きで掲載されていました。それぞれを完璧には覚えていないのですが、「かけたら犯罪集団につながる番号」、「有名キャラクターと話ができる電話番号」、「嫌いな人の名前を言うと、その人が不幸になる電話番号」等、いろいろなものがありました。そんな中で、私が最も強く興味を惹かれたのが、今回紹介する電話番号でした。現在使われている方がいらっしゃるのかどうか分からないので、一応番号は伏せますが、090-0385-〇○○〇という番号で、「死後の自分と会話ができる電話番号」だと紹介されていました。どうして番号を今でもはっきり覚えているのかというと、絶対に忘れらないだけの経験を、その後にすることになるからです。


この番号を知った私は、さっそく次の日学校で友人に紹介することにしました。はやる思いを抑えながら、「この番号はかけたら呪われるらしい、やばいでしょ」と言うと、友人は私に「え?なんで?何の番号なの?」と当然の疑問を聞き返してきました。私はサイトの解説欄に書かれていた通りに、説明を行いました。「この番号、使われていない番号だから、かけてもつながらないらしいけど、しばらくすると向こうから折り返しが来るらしい……。なんでも、妻と娘を殺して無理心中をした父親の使ってた電話番号らしくって、死んだ後もその怨念がまだ残ってるんだってさ……。それで、怨念に殺された後の自分の声が聞こえてくるらしい」。私の説明を聞いた友人は、それはそれは面白そうな話だというリアクションを見せてくれ、食いついてきました。わくわくした表情を見せながら、「お前、もうかけてみたの??どうだった??」と、私に言葉を発してきました。それに対して私は、「まだかけてない。一緒にかけてみよう」と、言葉を返しました。怖い電話番号を見て楽しんでいた私ですけど、正直なところ、一人でかけるのは怖かったのです。呪われるはずなんてない、よくできた作り話、というのは頭の中ではわかっていても、怖いものがあったのです。

私の提案に対し、友人は即答でOKを返してくれました。こんなに面白そうなことはないと、そう思ったのでしょう。私も友人なら乗ってくるであろうことを考えたうえで、提案を持ち掛けたのですから。


昼食後の休憩時間、私と友人は互いにドキドキする思いを抱きつつ、二人同時に、自分たちの携帯から例の番号に電話をかけてみました。万一つながったらどうしよう、なんと言おう、逆探知とかされたらどうしよう、等々の不安感を抱きつつも、やってはいけないことを友人と一緒にやっているという非日常感に夢中になっていました。しかし、かけた電話は呼び出し音が鳴ることもなく、「この番号は現在使われておりません」という無機質な音声が流れるのみでした。その声が聞こえてくると同時に、私たち二人は互いに顔を見合わせ、やっぱりなにもないよな、という表情を浮かべました。それもそのはずです。結局こういった話というのは、相手を怖がらせるために誰かが作り上げたものであるに決まっているのですから。ただ、そうとはわかっていても、電話をかけた瞬間はそれなりに怖かったので、私と友人はおおいにその恐怖を楽しむことができていたように思います。


しかしその翌日、事態は一変しました。私はいつものように朝の支度を終え、学校に向かい、自分の席に着いたのですが、そんな私のもとに、昨日一緒に電話をした友人が信じられないほどに青ざめた表情を浮かべやってきて、開口一番に、「やばい……。昨日夜に、折り返し電話がきた……」と、言いました……。


今に至るまで、私は人生の中であのときほどぞっとしたことはなかったと思います。驚いて言葉が返せない私に対し、友人はこう続けました。折り返し電話が来て、最初は無視していた。しかし、電話は何回も何回もかかってきた。着拒にしてもかかってきた。絶対怒らせたと思ったから、謝ろうと思って、電話に出た。すると、向こうの電話口では無数の人間の叫び声や悲鳴がうごめきあっていて、震えが止まらなかった。そしてその中に、どういうわけか自分の声も聞こえた。本当にどうすればいいのか分からないんだ。友人は私にそう言いました。それを聞いた私は、やはり驚きと恐怖を感じずにはいられませんでした。私の方には折り返しはきていなかったですが、友人の方には折り返しがきた。それも、脅迫性を思わせるようなしつこさに加え、正体の分からない電話の内容……。その電話番号の答えなどかけらも浮かびませんでしたが、それでも何か言わなければと思い、「無視し続けてれば、向こうも飽きるでしょ、大丈夫だよ」と言う言葉をなんとかひねり出しました。当然友人はそんな言葉に納得した様子はありませんでしたが、それ以上何を言っても答えが出てくるはずもなく、結局最後には私の言葉をきいて下がってくれました。非常に些細な会話でしたが、結局のところ、友人との会話はこれが最後のものとなりました。

翌日以降、友人は学校を休むようになり、それから間もなくして転校することが先生から告げられました。話をしようと思って友人に電話をかけてもつながらず、お別れの挨拶をすることもできず、そのまま離れ離れになってしまいました。以降の友人の状態については、人伝いに何度か聞いたことがあるのですが、それまでの彼からみて全く考えられないような異常な言動を示すようになってしまったらしく、転校になってしまったのもそれが原因だったらしい様子でした。


中学校を卒業してしばらくたつ私ですが、今でも考えずにはいられません。もしも私があの時電話をしようなどと言わなかったら、友人はあんなことにならずに済んだのではないか。転校することもなかったのではないか。今でも仲良く二人で話ができていたのではないか。

あるいは、電話がかかってくるのは私の方がふさわしかったのではないか。言い出したのは私だったのに、どうして友人に電話がかかってきて、私にはかかってこなかったのか。あれから毎日の様に着信履歴を確認している私ですが、一度も折り返し電話はかかってきていません。


あの電話番号の正体が何であったのか、いまだにわかりません。もしかしたら今も、電話をすれば同じことが起こるのかもしれません。けれど、私は二度とかけない事でしょう。


それがなぜか気になるのでしたら、ぜひあなたがかけてみてはいかがですか?ご連絡を頂ければ、伏字なしの電話番号をお教えいたしますので。


――――


以上が、投稿された作品の内容である。小説としての内容そのものは読者の興味をそそるものであり、サイト内においてもそれなりの評価を得ていたものの、当該コンテストにおいては応募を可能とする内容がノンフィクションに限定されていることもあり、「こういった作品はカテゴリー違反なのではないか」と言う声が一部の読者から上がった。そういった意見に対し、作者は自身のSNS上で以下のように反論を行った。



@ふるきの【なろうコンテスト応募中!】(2022-11-02)

私の応募作品がカテゴリー違反ではないかと言う声が上がっているのですが、本当に自分が経験した話なのです。証拠を提示しろと言われてもどうすればいいのか分からないので難しいのですが、本当に実体験の話そのままなのです……。


@ふるきの【なろうコンテスト応募中!】(2022-11-04)

作品中には入れなかったんですけど、友人は転校後に入院したそうです。地元近くの医療センターか保護センターだったと聞いていますが、詳細は分かりません。




作者は以降もたびたび、投稿した作品の内容が事実である旨を訴え続けた。しかし、やはり内容を受け入れられない読者からの納得を得ることはできず、「いい加減嘘でしたって認めろ見苦しい」、「嘘つきましたごめんなさい、が言えない大人」等のコメントが後を絶えなかった。そのため作者は最終的にコンテストのエントリーを取り下げたのち、作品の削除を行い、アカウント自体も消去してしまった。

これにて一連の騒動は沈黙することとなったものの、それからおよそ半年後の2023年夏ごろ、有志により以下のメディア記事が発見され、再び注目が集まることとなる。




【中部新聞2013年9月20日発刊分掲載記事】

東京都杉並区に住所を置く医療機関である杉並愛光医療・保護センター内において、治療を受けていた15歳の少年の行方が不明となっていることが17日、関係者からの証言により明らかとなった。少年は以前より精神的に不安定な状態にあったとされ、当該医療機関内においては施錠可能な病室の中で治療を受けていたが、職員が病室を訪れ鍵を開錠したところ、全くいなくなってしまっていたという。病室には窓は設けられておらず、病棟内監視カメラにも少年の姿は映っていなかったとの事であり、一体少年がどのような手段を使って施設内から脱出を図ったのか、調査が進められている。


――――



【[月刊・女性の時間]2013年9月発刊分掲載記事】

インターネットの存在が非常に身近なものとなっていく今、我々大人は子どもたちを犯罪からどう守るべきなのか。それを改めて考えさせられる事件が、東京都北区にて発生した。


ターゲットとなったのは、まだ社会の右も左も分からない中学生の少年。以前までは好奇心旺盛で活発な性格であり、不登校や非行とは無縁であったという。

しかし、そんな少年の毎日はあるきっかけから失われてしまった。母親曰く、息子が不審な電話番号との会話を繰り返すようになったというのだ。きっかけが何であったのか、詳しいことは分からない。しかし、当時はすでにインターネットが身近な存在となっていた時代。悪い大人がネットを介して息子に取りつき、電話口にてなにか言葉をかけ、言葉巧みにその心をつかんでいったのだろうと、母親は記者に話をした。

それ以降、少年の様子は一変していったという。不気味な土器や人形などに興味を示すようになり、部屋にこもって不可解なお経などを唱えるようになっていった。陽の光がどうであるとか、風水がどうであるとか、そんなことまで言い始め、さらにはいろいろな人物の顔写真を片っ端から印刷し、食い入るように電話帳を見て過ごすようになっていった。一体何をしているのかと聞いてみても、「早く自分も呼ばれたい」、「消えて答え合わせがしたい」、等々の支離滅裂な言葉が返ってくるのみであったという。少年の様子を見かねた両親は泣く泣く精神科の病院に少年を連れていき、即日入院が決まったとの事だ。

記事執筆時点では、少年の治療は続けられている。インターネットを用いたトラブルから子どもたちを守るために、我々に何ができるのか、改めて考える時なのではないだろうか。


――――


以上が発見された両記事の内容である。両記事中に記載された少年の年齢、年代、事件発生背景等は、かつて作品中にて語られたものと非常によく似通っており、これが実態ではないかと言う推測があがった。しかし、いずれの記事も少年の本名は掲載されておらず、なにより当の作者がすでにインターネット上でのSNSアカウントの一切を削除してしまっていたため、事実確認の照会を行うことは叶わなかった。


作者が小説の中で語った友人が記事中の少年であったのかどうかについては、有志の間で今もなお議論が続けられている。

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