第28話 立て続けに 5月25日 日曜日

 5月25日 日曜日


 午前11時。俺はうきうきした気分のまま家を出た。今日は俺と風花と凛花で立川で遊ぶ予定になっていた。待ち合わせは12時半なので少し早いのだが二人と会うのが楽しみ過ぎて少し早く家を出てしまった。


 このままだと早く着いてしまうだろうが、駅ビルでも見て時間をつぶすつもりだ。一人で買い物をすることは少ないが、たまにはそんな時間も良いだろう。


 今日は、最近話題のイタリアンを食べてからアクション映画を見る予定になっていた。二人と休日に会えるのが嬉しすぎて、俺はずっとテンションが上がったままだ。


 立川に到着したのは12時5分だった。俺は電車から降りて近くの階段を足早に登って行く。もうすぐ会えると思うとワクワクが止まらない。


 しかし、階段を上り終えたところで、腕時計とスマホが同時に震えてしまった。間違いない魔物の討伐依頼だ。人通りが少ない柱の近くに行くと、スマホを開き詳細を確かめた。


 妖魔討伐依頼


①新潟県糸魚川市の海岸にS級魔物【氷結狼】出現 (救援依頼レベルⅡ)


②山形県鶴岡市の鶴岡公園内にS級魔物【雷電蛇】出現(救援依頼レベルⅡ)


 俺は二つの文を読み頭を抱えた。しかし、今すぐ向かえばもしかしたら間に合うかもしれない。


 俺はすぐに屋外に飛び出すと周りの人が少ない場所に行き、ものすごい速さで空へ飛翔した。そして上空1000メートルほどまで高度を上げると、背中のリュックからスーツを取り出し空中で着替えていく。


 新潟まで5分で行き魔物を倒す。そして2分ほど時間をかけて山形へ向かい魔物を瞬殺する。そして6分で立川に戻ってくれば待ち合わせの10分前には戻ってくることができるだろう。


(なんとか行けそうだ!! 一瞬で倒してやる!)


 俺は念力を使い最高速のマッハ2.8で新潟へ向かう。今日のデートを絶対に台無しにしたくなかった。


 空を飛んでいる間、この依頼を断ることも一瞬考えた。今回の任務は救援依頼レベルⅡだ。レベルⅡはレベルⅠと異なり、たとえ引き受けなくても問題はない。誰かに攻められることも無ければ法律で罰せられることもない。レベルⅡの救援依頼はエリア外の妖魔殲滅部隊に救助を要請するものだからだ。


(いや、だめだ! それはできない!)


 しかし、頭に浮かんだ考えを一蹴する。


 たぶん俺が駆けつけなくても、やがて他の妖殲の隊員が駆けつけるだろう。しかし、新潟県をはじめとした中越地方や東北地方には妖魔殲滅部隊は配置されていない。


 そのため隊員が駆けつけるといってもかなり時間は経ってしまうだろう。もしかしたらそれまでに誰かが殺されえしまうかもしれない。


 俺は自分が参加できる任務は全て引き受けることを心に決めていた。そうすることにより、もしかしたら救える命があるかもしれないと信じているからだ。他の隊員たちよりも出撃回数は増え、当然忙しくなってしまうが命には代えられないだろう。俺には依頼を断るといった選択肢は無かった。


 5分後に糸魚川の海岸にたどり着いた。まだ、ガーディアンもソルジャーも来ていないようだ。幸運なことに人の姿も見当たらなかった。


 俺は一瞬で氷結狼の首の骨を折り、倒すと魔石を回収した。どんなに急いでいても倒した魔物の魔石は回収しなくてはいけない決まりだ。

魔石を転移袋に入れ終わると俺はすぐに山形に向かった。


 鶴岡公園に到着すると、巨大な蛇が掘りを泳いでいた。こちらも一般人と思われる人はすでにおらず、ガーディアンが2名、ソルジャーが4名駆けつけていた。


 まだ戦いが始まっていない様子に安心した俺は、先程と同じように一瞬で雷電蛇を倒すとすぐに魔石を回収し再び立川に向けて飛び始めた。今は12時15分だ。これなら間に合いそうだ。


 しかし、飛び始めて1分が経過した頃、再びスマホと腕時計が同時に震えた。


「メールを映して」


 俺が指示を出すと、画面に文章が表示された。


静岡県沼津市、沼津港にS級魔物【鋼鉄カタツムリ】出現 (救援依頼レベルⅠ)


東京都小笠原村、父島にS級魔物【鉤爪ラビット】出現 (救援依頼レベルⅠ)


「はぁ……」


 二つの依頼を見て俺はすぐに諦めた。どちらの任務も依頼レベルⅠのため断るわけにも行かない。一瞬、遅れて駆けつけようとも思ったが、今日の出現頻度からしてまたいつ任務が入るか分からない気がした。


(無理だな……。流石に……)


「藤野風花に電話をかけて」


 俺が声をかけると、すぐにAIが電話をかけ始めた。


「もしもし?」


「あ、風花? ごめん。いま大丈夫かな?」


「遥斗くん。大丈夫だよ」


「凛花も近くにいるかな?」


「凛ちゃん? 隣にいるよ。いま立川駅についててブラブラしてたところだったから」


「そうなんだ。ごめん。通話をスピーカーにしてもらっても良いかな?」


「スピーカーにしたよ」


「遥斗くん、私もいるわよ。どうかした?」


 凛花の声が聞こえた。


「二人ともごめん。少し前から頭痛が酷くなっちゃってさ、申し訳ないんだけど、出かけるのまたにしてもらっても良いかな。もう二人は立川に到着しちゃってるのに、本当にごめん!」


「そっかぁ。私たちは全然大丈夫がだから気にしないで休んで!!」


 風花の声からは少しも怒りや不満の感情は伝わってこない。

 

「うん。身体が1番大事だからね。デートはまた今度にしましょう。遥斗くんは大丈夫? 私たちが看病しに行こうか?」


 心配そうな凛花の声が聞こえてきた。


「本当にごめんね。頭痛はしっかり寝てれば治るからさ。看病までは大丈夫だよ。ありがとう。映画は二人で観ちゃっても平気だからね!」


「うん。わかった。それじゃあゆっくり休んでね!」


「今日は気温も高いから水分もしっかり飲むのよ! 大丈夫だったらまた夜、連絡してね」


 風花はこんな時でもいつもと変わらず明るい声をしている。凛花からは俺を心配する気持ちがひしひしと感じられた。


「うん。わかった。ありがとう」


 俺は通話を切り、再び飛び始めた。


(二人とも優しいな……。ドタキャンしたのに、全然怒ってなかった。なんかすごく申し訳ないな……)


 二人の優しい対応を受け安心もしたのだが、心苦しさも強く感じた。


(なるべく早く話をしよう。驚かせちゃうかもしれないけど仕方ないよな……)


 10分後、俺は沼津港近くの商店街の魔物を一掃すると今度は小笠原諸島の父島に急いだ。


♢   ♢   ♢


 15分ほど全力で飛び続けると海の先にようやく父島が見えてきた。魔物が出現した場所は大神山神社の境内とのことだった。ヘルメットに映し出されるナビに従い進んで行くと足元に境内が見えてきた。


 一体の巨大な魔物が境内の中で暴れていて、それを囲うように警察の特殊部隊ソルジャーが四人で囲っていた。


 あいつはウサギ型のモンスター【鉤爪ラビット】だ。うさぎと言ってもその大きさは4メートルを超えている。30cmはある爪をナイフのように振り回し攻撃してくる危険なモンスターだ。


 ソルジャー達はアサルトライフルや槍、刀などを手にしている。あれは魔石を加工して作られた『魔製武器』という名の特殊な武器だ。


 A級以上の魔物は防御力が高く。通常の武器ではダメージが通らない。そのため、ソルジャーやガーディアン達は個人の適正に応じて魔製武器を与えられている。


 しかし、鉤爪ラビットを見てみると、ダメージを負っているようには見えない。相当防御力の高さが伺えた。


 俺は100mほどの上空から念力を発動させ、鉤爪ラビットの自由を奪った。そしてすぐに俺のそばに引き上げていき、体内に高圧力をかけて心臓を破裂させた。


 力を失った魔物は姿を消し、後には美しい魔石が残った。魔石を回収すると俺は地面に降りて行った。


「ノアさんですよね! 申し訳ありません! 我々が頼りないばかりにこんな場所までお越しいただいてしまって……」


「いやいや。今の魔物はS級じゃないですか。普通妖殲が対応するレベルのモンスターですよ。むしろ私が来るまでよく抑えましたよ。たった四人で! 凄いですよ」


「あ、ありがとうございます!!」


「そのように仰っていただけて感無理です!」

 

 四人は涙を流していた。島のみんなを守るために死力を尽くしたのだろう。擦り切れたり、穴が空いたりした服から戦いの激しさが容易に想像がついた。


 本来だったらソルジャーやガーディアンの隊員は命を落とす危険性が高いため、S級以上の魔物とは戦わなくていいことになっている。しかし、小笠原諸島のような人口が少ない地域に妖殲の隊員を配置するわけにもいかない。


 この四人は自分達も逃げていい状況なのに命をかけてS級モンスターを自分達に引き付けていた。みんなを守ろうとする献身の姿に頭が下がる思いだった。


「いや、本当に感服しました。ご苦労様でした」


 俺がそう口にすると四人は誇らしそうな表情を浮かべた。


「怪我は大丈夫ですか?」


「これぐらいであれば治療薬ですぐ治ります!ご心配いただきありがとうございます!」


「それなら良かったです。それじゃ、そろそろ失礼します!」


 俺は地面から飛び立ち、島を出て行こうとした。しかし、島の端まで来た時に海の近くに自販機とベンチが見えたため、俺は一旦そこに向かって降りていった。しばらく何も飲んでいなかったため、さすがに喉が渇いていた。


 自販機でサイダーを買うと、気でできた年代を感じさせるベンチに腰かけた。


 缶を空けて、サイダーに口をつける。程よい甘みと炭酸の爽快感が喉を潤してくれる。目の前には、透明感が抜群のコバルトブルーの海が広がっている。肌を撫でる潮風と波の音が心地よく、心が癒されていく気がした。


(父島か、初めて来たけどいい場所だな。海を見ているだけで癒される……)


 サイダーを飲みながらしばらくぼーっとしていると、ふと風花と凛花のことが思い浮かんだ。


「はぁ……。悪いことしちゃったな。初めてのちゃんとしたデートだったのに……」


 今日のデートをキャンセルしてしまったことが残念でならなかった。任務さえ入らなければ今頃はきっと楽しく過ごしていたことだろう。


(二人に会いたかったな……。なんで今日に限ってこう任務が多いんだ……。いや、ネガティブになるな!!)


 少しだけ、ナイーブな気持ちがこみ上げそうになるが、すぐにその気持ちを押し殺す。二人と付き合えることが決まった日に、デートよりも仕事を優先することは自分の中で決めていた。


 自分の気持ちとしては町の平和を守るよりも二人と過ごす時間の方を優先したくなってしまうのだが、そうはいかないだろう。


 町に住む人々を守ることは俺に与えられた使命だと思っている。悲しいけれど自分のプライベートよりも周りの人間を守ることの方が大事だ。


(そうだ。小さなことで心を乱してはいけないよな。仕事中はみんなを守ることに全神経を注がないと……。二人には申し訳ないけれど、俺が一番優先すべきなのは任務だ。多分、ちゃんと話せば二人もわかってくれるだろう……)


 気持ちの整理ができたところで再びスマホと腕時計が振動した。見てみると埼玉県の日高市での任務が入っていた。俺はヘルメットを被るとすぐに飛びたった。


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