第4話 そのままの俺で
「つべこべ言ってないで早く正体明かして告れよ!! あんな可愛い子、ほっといたらすぐに誰かに取られるぞ!! お前は顔だって悪くないんだから」
声は小さかったが、宗玄の視線からは真剣さが伝わってきた。さっきの藤野さんたちの会話をどこかで聞いていたのかもしれない。
俺は中1の時から、宗玄にだけは自らの正体を明かしていた。まぁ正体を明かしたと言うより、バレてしまったんだけど。それからずっと宗玄は律儀にずっといわないでいてくれている。かなり良いやつだ。
「いや、告るのはいいとしてバラすのはいやだよ」
「またお前はそんなことを言って……。手遅れになっても知らないぞ!」
藤野さんのことが好きだと一週間前に話してからは、ずっとこの調子で、正体を明かし、告白することを進めてくる。
「まぁ。確かに宗玄の言う通りなんだけどさ……。なんか嫌なんだよ」
「あのな遥斗、こういうことは勝負なんだよ! みんな努力して自分の魅力を最大限高めて恋愛に挑んでいるんだ。お前の正体なんて最高の武器じゃないか。事実、世間ではそこいらの芸能人に負けないぐらい注目されているし評価されているじゃないか。妖魔から街を守るという素晴らしい仕事をしているんだ。堂々と正体を明かして告ればいいだろ!? なにを気に病む必要がある!?」
宗玄はなおも熱くアドバイスを送ってくれる。
学校のアイドルと言っても過言ではない程の人気がある藤野さんと付き合うためには、宗玄の言う通り、正体を明かして自分を売り込む手もあるだろう。
たぶん、付き合うことができる確率はそっちの方が上がるだろう。無数にいるライバルたちに勝つためには最善の手だろうとわかってはいる。
だけど、それが最善の手だとわかってはいても自分から正体を明かすのはなんか嫌だった。
この力は才能だ。いや、正確に言うと、努力もかなりしてきてはいるが、それでも才能によるところが大きすぎる。社会から俺に向けられている高い評価は、単に運が良かっただけだと自分では思っている。
すくなくとも自分の努力だけで勝ち取った地位じゃない。そこまで誇れるものでは無いだろうと……。
そんな運がいいだけの俺なのに、さらに能力を使って、恋愛まで成功させようとするのがどこか浅ましく感じてしまっていた。
自分に特別な力がある事を伝えたり、世間ですごく評価されていることを伝えたりして、藤野さんの気を引こうとするのが凄く嫌だった。立場とか肩書きで恋愛をしたくはなかった。
難しいことかもしれないけど、そのままの俺を好きになって欲しかった。
「ありがとう。とりあえず、近いうちに告白をしてみるよ。ちゃんと自分の気持ちをぶつけてみる」
「そうか。まあ最後はお前が決めることだからな。ただ、できたら報われてほしいんだ。俺は、お前がどれほどこの世界のために頑張ってきているか知っているからな」
宗玄はそう口にすると教室へ戻って行った。その後ろ姿を見ていると、俺はいい友達を持ったなとひしひしと感じた。
ちなみに宗玄も俺と同じ能力者だ。高校卒業後に警察の特殊部隊である「ソルジャー」に入ることを目指している。持っている能力は「触れた対象の動きを10秒間だけ二分の一の速さにする」というものだ。時間に制限はあるが割と良い能力だろう。
内在オーラ量は27万だと前に言っていった。ソルジャー隊員の平均オーラ量が30万前後だからソルジャーを目指すことは不可能ではないだろう。ていうか努力家のあいつなら間違いなくなれると思う。
席に戻った俺はすぐに宿題の続きを始める。藤野さんは今は黒板の前あたりで友達と話していた。今なら集中できそうだ。えーっと、
(ジョーカーを抜いた52枚のトランプからランダムに1枚取り出したとき、ダイヤが出る確率を求めよ、か……、確かこれは……)
「よしっ」
俺は次々と問題を解いていく。数学は苦手だが、なぜか確率の問題だけは好きだった。
確率と言えば、純粋に能力が覚醒し、能力者になる確率は1000人に1人の確率らしい。割合で言えば0.1%だ。現在の日本の人口が1億人だから、約10万人が能力者いる計算になる。しかし、実際は能力者として政府に登録されている数は200万を超えている。これは40人に1人が能力者として登録されている計算になる。
なぜ、能力者として覚醒する割合よりも実際の能力者がそれよりはるかに多い割合で存在しているかと言うと、能力者の子どもには能力が引き継がれるからだ。
現在の日本では自身が覚醒した能力者を第一世代と呼び、親から能力を引き継いだ者を第二世代、さらに上の祖父母から引き継いだ者を第三世代と分類している。
ただ、能力が子孫に引き継がれるとはいえ、引き継がれた力は次第に弱くなっていくのが研究により分かっている。たしか、親から子への遺伝だと能力は80%しか能力を引き継げず、さらにその下の第三世代は第二世代の50パーセントまでしか引き継げない。
そのため、世間では第一世代の能力者が必然的に最も優れた能力者とされている。
もっとも、第一世代の能力者と言っても、妖魔を討伐することができるほどの力を得られるものは稀だ。
たとえ火を発現できても、マッチやライターと変わらない威力だったり、物を凍らせることができてもペットボトルの水を凍らせるのに15分かかるなど、発現する能力の内9割は戦いにおいて使い物にならない能力とされている。
1800人の生徒がいるこの学校内にも45人ぐらいは能力者がいる計算になるが、おそらくそのうちの9割は生活がほんの少し豊かになる程度の力に過ぎないだろう。
そのため、ソルジャーやガーディアンのようなエリート部隊に入れる可能性がある宗玄の才能は、全能力者たちの中でも非常に高いほうだ。
(まずいな。これ、どうやって解くんだっけ)
再び問題を解こうとプリントに目を移したら、難しい問題に直面した。あと五分でHRが始まってしまうため少し焦ってしまう。
「アイヤー、今宿題やてるアホいるね」
俺が難問に頭を抱えていると、いつの間にか席に戻ってきていた藤野さんが、いたずらっ子な表情をしながら声をかけてきた。一気に心臓が跳ね上がってしまう。
藤野さんはたまによくわからないキャラになりきることがある。めちゃくちゃ美人のくせに、こうして無邪気にふざけるところも俺は大好きだった。
「どれどれ少し見てやるね」
藤野さんは椅子ごとこちらに近づいてくるとプリントを覗き込んできた。かなり近い、肩がぶつかりそうだ。
しかも、髪からなんともいえない良い匂いが漂ってきて、頭がぼーっとしてしまう。
「ああ、この最後の問題ね。これは確か、教科書の36ページに解き方が載ってたよ。ほらっ」
藤野さんはわざわざ自分の教科書を出して見せてくれた。確かにわかりやすく解き方が書いてある。これならいけそうだ。
俺はその後5分ほどで全ての問題を解き終えた。難しい問題があると藤野さんが丁寧に解説してくれたためとても助かった。
「ありがとう。助かったよ」
「わからない問題があったらすぐ聞いてよ。隣の席なんだし」
藤野さんはそう口にすると優しく微笑んだ。
「ありがとう」
(ああ、やっぱりこの人が好きだ。いったい、藤野さんと付き合える確率はどれくらいあるんだろう……)
そんなことを考えていると、教室の前の扉が開き担任が入ってきた。
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