69 見えないところで
薄暗い部屋の中、澪を抱きしめてキスをしている。
不安にならないように、俺は頑張って澪を満足させないといけない。
そのためにはこれが一番だと思う。独占欲が強いから途中で俺が逆にやられてしまうけど、可愛いから澪にやられるのもけっこう好きだった。甘えてくる時と違って、すごくエロい澪が目の前にいるからさ。
好きすぎてたまらない。だから、何があっても澪だけは絶対守ってみせる。
「今日は……、いつもと違って激しいね。夕日くん……」
「澪がエロいから……。ごめん、痛かった?」
「ううん、すっごく! 気持ちよかった……♡」
「うん……」
「最近、ほぼ毎日やってるような気がしてすっごく好き! へへっ、やっぱり愛されるのはいいことだよね」
「本当に可愛いね、澪は……。いろいろやばい……、俺」
「ひひっ♡ エッチだね、夕日くん」
「う、うるさい」
ぎゅっと俺を抱きしめる澪、そのままもう少しベッドでくっついていた。
てか、さっきやったのにどうして抑えられないのか分からないな。こいつ……。
「ねえ、夕日くん」
「うん、どうした?」
「あのバカたちはなんでそんなバカみたいなことをするのかな? どれだけ考えてもよく分からない」
「そうだな」
葵と佐藤が何を企んでいるのか分からないけど、一応澪に話しておいた。
そして俺がいない間、佐藤が俺たちが住んでいるマンションまで来たのを聞いて、状況がだんだんややこしくなる。念の為、歩夢に貸してあげたものを返してって言っておいたけど、それは正解だったな。
それと歩夢もそれが偶然ではないってことに気づいた。
バイトをしている時、ラインで「ごめん」って来たからさ。不安を感じるのはあっちも一緒だった。
「また変な人が現れて、怖い……。でも、一緒にいられるようになってそれはいいかも……」
「なんだよ……。大丈夫、これからはずっと一緒だ」
それから数日後、俺はバイトをやめた。
この状態でずっとバイトを続けるのは澪に良くないし、俺もバイトをしている時にずっと心配してしまうからこっちの方がいいと思う。朝起きた時から寝る時までずっと一緒だ。
「お金はね! 私がちゃんと稼ぐから! 夕日くんは私のそばにいてくれればいいの!」
「そうか、ありがとう……」
澪がモデルの仕事をする時は仕事場まで付き合って、終わった時は時間に合わせて迎えに行く。これ以上良い方法はない。もし証拠があったらすぐ通報できるけど、まだそれっぽい証拠がないから何もできない。
隙を与えたら、きっとやられる。
二度はやられんぞ。
「ぎゅっとして! 夕日くん」
「まったく、赤ちゃんかよぉ」
「だって、最近夕日くん寝る時にずっと壁の方見てるじゃん。それ傷つく! 私のこと見てくれないから!」
「えっ? そうだったのか? 知らなかった」
こいつが落ち着かないから仕方がないだろ。澪……。
「そうだよ!」
「はいはい。分かったよ、怒らないで」
そのままぎゅっと抱きしめてあげた。てか、この幸せな人生を邪魔するなんて、まったく……。
「ひひっ♡」
……
「夕日、ごめん」
翌日、歩夢が俺に謝った。
そして俺は佐藤と葵が話したことを歩夢にも話してあげた。
「俺、あいつと絶交する! 心配しないで」
「いや、歩夢はそのままでいい。この状況で絶交をしたら疑われるかもしれない。だから、ずっとそのままでいてほしい」
「でも……」
「俺はずっと澪と一緒にいるから、歩夢は普通を演じてほしい」
「分かった」
「信じているから、歩夢」
「うん」
そう言った後、歩夢の肩を叩く。今は協力してくれるだけで心強い。
葵のやり方は汚いから、いつやられるのか分からない。そして歩夢が俺を裏切らない限り、俺はあいつらにやられない。
「夕日くん、凛と食パンくんが一緒に撮った写真見て!」
「へえ、可愛いね」
「私は?」
「えっ? 澪も可愛いよ?」
「澪ちゃん、まさか食パンくんに嫉妬!?」
「違うよ! むっ!」
すると、佐藤がくすくすと笑う。知らないうちに俺たちは五人で話していた。
いつの間にかうちのクラスに来て、さりげなく話をしている。
最初から仲が良かった友達のように……、何気なく俺たちの間で友達のふりをしていた。でも、ここにいる三人はこいつのことを知っている。雪下も歩夢にあの話を聞いたからさ。
「そういえば、今週みんな予定あるのか?」
「特にないな。凛ちゃんの家でイチャイチャする!」
「みんなの前で恥ずかしいこと言わないで!」
そう言いながら歩夢の背中を叩く雪下だった。
そして佐藤はさりげなくみんなの予定を聞いている。なぜだ? みんなの予定を聞いて何をするつもり? 油断できない。もちろんあんなやつと遊んだりしないけど、しょっちゅうそれを言い出すからちょっと気になる。
毎日休み時間ごとにそれを聞いている。
気のせいじゃない。
「夕日は?」
「ああ、俺も澪と———」
「イチャイチャ! 最近、夕日くんがバイトをやめて一緒にいられる時間が増えたからね! ふふっ!」
「いきなり抱きつくなよぉ! 澪」
「へへっ♡」
「いいな〜。羨ましい! てか、また俺一人かよ。たまにはみんなと一緒に遊びたいのに」
「お前も彼女できたらきっと俺たちの気持ちが分かるはず、頑張れ! 悠真」
「ええ……」
さりげなく俺の膝に座る澪がスマホを見ていた。
「何見てる?」
「こないだ撮った写真! お母さんが送ってくれたからね」
「ええ!? 私も見たい! 見せて!」
「いいよ〜」
そういえば、宇垣さん衣装も作ってるって言ったよな。
「可愛い! 私もこういうの着てみたいよ。背がもっと高かったらいいのに……」
「身長とは関係ないかも? 凛にも似合うと思う」
「そうかな!?」
「じゃあ、今度私の仕事場に来てこの衣装着てみる? お母さんもきっと喜ぶし、可愛い女の子めっちゃ好きだからね」
「いいの!? 行きたい!」
「そうだ! せっかくだし、村上くんも一緒に来ない? 男子の衣装もあるから一緒に写真撮ってみるのもいいと思うけど」
「マジか! 行きたい!」
「羨ましいな、俺も!」
「てか、お前彼女いないだろ? 悠真」
ため息をつく佐藤が向こうの席に座る。
そしてなぜか俺の方を見ていた。
「ごめんね、お母さんがこないだカップルの写真を撮りたいって言ったから」
「そうだ。宇垣、夕日は行かないのか?」
「夕日くんとはいつでも行けるし、二人に良いプレゼントをあげたいから二人を呼ぶことにしたの」
「そうだよ。俺たちはいつでも行けるから行ってこい。歩夢」
「ありがとうございます! 宇垣様……」
てか、なんでさっきからじっと俺の方を見ているんだろう。佐藤は……。
「どうした? 言いたいことでもあるのか? 佐藤」
「いや、なんか仲間外れにされてるような気がしてさ」
「はあ……? 行くのはあの三人だぞ?」
「それはそうだけど……、そんな気がしてさ〜」
「佐藤くんも早く彼女を作って写真撮りに来て。ふふっ」
できないと思うけど、口にはしなかった。
「そうだよ! 悠真も彼女作ったら写真撮れるし、別にそんなことで落ち込まなくてもいいだろ?」
「まあ……」
「夕日くん! ちょっと!」
「あっ、分かった」
ちらっと葵の方を見る澪。やっぱり気になるのかな? あっちが。
そのまま教室を出てきて人けのない廊下で話をしていた。
「あの人……、どうしていつもうちのクラスに来るの? 夕日くん」
「そうだな、俺にもよく分からない。多分、歩夢と仲がいいから来てると思う」
「あの人友達いないの?」
「分からないね。てか、澪……さっきわざとあれを言ったのか? 写真とか」
「うん! へへっ、バレたの?」
「バレバレだぞ?」
「村上くんは知ってるの? 自分の友達が変な人だったこと」
「ああ、知ってる。話しておいたからさ。俺たちは放置することにした。いきなり距離を置くと疑われるかもしれないから」
「それもそうだね。でも、私あの人嫌い!」
「大丈夫……」
確かに、あんな人と同じ空間にいるのは嫌いだよな。
だからって、歩夢と仲がいいから素直に言えないし、分からないとは言わない。
そのままぎゅっと澪を抱きしめてあげた。
「やっぱり、私は四人で話すのが好き……」
「俺もそうだよ」
「ねえ、チューして!」
「ええ」
「して!」
周りに人がいないのを確認した後、すぐ澪の頬にキスをした。
この甘えん坊……。
「へへっ♡ もうちょっとこのままでいたい」
「はいはい」
しばらく廊下でくっついている二人。
そしてちょうど二人を探していた悠真が、その姿をこっそり覗いていた。
「…………」
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