第14話: 「ば、バカ…す、好きなんだからっ〜♡♡!」 〜恋する風紀副会長の物語〜
《前編》
【商業地区・日曜の朝】
日曜日の晴れた朝。
少し肌寒い気候の中――
街の中心部にある、にぎやかな商業地区では…
ガヤガヤ…
「ハハッ!お前、今日めっちゃイケてるな!」
ギュッ
「もぉ〜、あなたって優しい♡」
通りは賑わっていた。
歩きながら話す人たち、買い物を楽しむ人たち、写真を撮るカップル、派手なコスプレ姿でビラを配る女の子たちまでいた。
シャララ…
だが、そんな人混みの中で――
一人の少年が異彩を放っていた。
「ん?なんだあれ?」
「ハハハッ!なにその格好!?」
ワハハ!
「うわ〜、あの帽子マジでヤバいって!アハハハ!」
カツ、カツ…
悠々と横断歩道を渡るのは…
ヒロだった。
ただのヒロじゃない。
彼は黒の細身パンツを履き、腰には二本のチェーンが垂れたベルト。
その上に、長袖のシャツを重ね着し――
両手首には革のブレスレット。
そして首元には、細い黒ベルト。
そして――極めつけは帽子。
ビクトリア風ゴシックのボンネットハット。
赤と黒で装飾され、両側には赤いリボンが揺れていた。
ヒラヒラ…
四方八方から笑い声や冷やかしの声が飛ぶ中――
ヒロは真面目な表情で静かに歩く。
スッ…
まるで、誰にも何にも動じない。
そんな“静かな誇り”をまとっていた。
…
…
…
今日は特別な日だ!
「どうして特別なの?」って思ったでしょ?
理由は簡単…お金が入ったから!
それに、今日は日曜日。
毎週恒例の、街ぶらデーなんだ♪
スタスタ…
通りを歩けば、いつも通り視線を感じる。
笑い声やヒソヒソ話、ちょっとした冷やかしも…
でも、これが僕の日常。
家を出るたび、これだ。
まあいいや、それより…
今日は人が多いな〜。
車の音、光るショーウィンドウ、あちこちから聞こえる話し声――
ザワザワ…
「Woaah! That boy uses a very strange outfit, don’t you think, honey?」
外国人までいる…何言ってるかは分からないけど、きっと街を褒めてるんだろうね。
そう思いながら、僕は自販機の前で立ち止まる。
カチッ
お金を入れようと、かがんだその時――
「わあっ!」
ドンッ!
ヒロ(文句気味に):「いってぇ!どこ見て歩いてるんだよ!」
ったく…誰だよ今のは――
…ん?
ヒロ(驚いて):「さ、さつき先輩!?」
キラッ…
そう。彼女だった。
佐月楓先輩。
サツキ(驚いて):「ヒ、ヒロくん!?」
めっちゃ綺麗だった…しかも、なんだか緊張してる?
赤茶のセーターに、薄手のタイツ、首には銀色のネックレス…。
ヒロ(気まずそうに手を差し出しながら):
「す、すみません、先輩!大丈夫ですか?」
スッ…
サツキ(恥ずかしそうに):
「ありがとう…」
彼女は私の手を取った。でも…じっと見つめてくる。
その真剣で戸惑ったような視線は…何なんだろう?
ヒロ(落ち着かずに):
「せ、先輩?何か変ですか…?」
サツキ(驚いたように):
「ヒロくん…その服…その帽子…」
ピタッ!
ヒロ(落ち着いた様子でシャツを引っ張って):
「ああ?これ、いつもの私服ですよ。ずっとこういうの着てますから。」
実はこのシャツ、前より体にフィットしてる。
少し成長したからかもしれないな。
サツキ(目を逸らして):
「そ、そう…」
モジモジ…
えっ…?なんでそんな複雑そうな顔してるんだろう?
サツキ(気まずそうに):
「で、でも一番大事なのは…なんでここにいるの?」
ヒロ(笑顔で):
「ちょっと買い物に出かけてただけですよ。」
サツキ(無理に平然を装って):
「…勉強はちゃんとしてるの?」
まだ頬が赤い。真面目な先輩モードを保とうとしてる。
ヒロ(誇らしげに):
「もちろん!昨日の夜も遅くまで勉強してました。
でも参考書が足りなくて、今日は図書館に探しに来たんです。」
昨日はほんと疲れたな…寝たのは1時くらい?
普段は0時前に寝るけど、土曜日だったし頑張った!
サツキ(腕を組んで):
「そ、そう…ちゃんと頑張りなさいよ。」
先輩は本当に頼れる人だな。勉強面では特に…
サツキ(内心、顔が引きつったまま):
「ヒロくん…だ、誰がこんなゴス服着せたの!?全然似合ってないし!
もっと可愛いふわふわ系の服の方が絶対似合うのに!
私が選んであげたいくらい!」
ギリッ…
ヒロ(興味深そうに):
「先輩こそ、今日は何しにここに?」
サツキ(目を逸らして):
「べ、別に…ただ本を買いに来ただけ…あと、ちょっと気分転換に…」
ふーん、意外だな。先輩が一人で出歩くなんて。
サツキ(突然):
「べ、別にヒロくんに会うために外出したわけじゃないんだからね!」
プイッ!
ヒロ(笑いをこらえて):
「偶然ですね、先輩。僕も本を探しに来たんですよ。
一緒に行きませんか?」
サツキ(内心大爆発):
「き、きゃあああああっ!?
デ、デート!?これはデートじゃないの!?ヒィィィィィ!」
ドキドキドキドキ…!!
サツキ(そっけなく):
「べ、別に…他に図書館がないから…い、行ってあげるだけよ。」
…うん、3つはあったけどね。
でも…なんか、嬉しいかも。
...
..
.
【図書館 — 朝】
僕たちは一緒に近くの図書館まで歩いて来て、今はそれぞれ違うセクションで本を探している。
僕はゴシック文学、哲学、歴史のコーナーにいる。
サツキ先輩は隣のセクション——たしか、漫画、料理、小説だったかな。
あんなに真面目で規律正しい先輩が…?
ロマンスや漫画が好きなんて、ちょっと意外だ。
いや、でも今はそれよりも——
僕が探しているのは、特定の哲学書。
記憶が正しければ……この辺りにあるはず。
ヒロ「…あった!」
——でも、もちろん。
棚の一番上だ。
(くっ…!)
つま先立ちになって、腕をめいっぱい伸ばすけど——
ヒロ「んんっ…!」
全然届かない。
(ちくしょう…)
その時——
ス…ッ
ヒュウウ…
僕の手のすぐ横に、すっと現れる別の手。
それは、難なくその本を取った。
ヒロ(素早く振り返る)「あっ…! き、君は…!」
やっぱり。間違いない。
あの仮面の男だ。
ゴォン…
アナジェの仮面をくれたあの人。
突然現れて、"氷の地獄"について謎めいた言葉を話し、
その後、死神のタロットカードを渡してきた男。
彼はそこにいる。
無言で、微動だにせず。
黙って、その本を僕に差し出してくる。
ヒロ(戸惑いながら)「あ、ああ…ありがとう。」
本を受け取る。
やっぱり…近くで見ると、なんだか背筋がゾッとする。
静かな緊張感。
まるで、何か大きな出来事が近づいている予兆のような…
なんとか話しかけてみる。無理だとわかっていても。
ヒロ「ところで…君は何の用でここに?」
返事はない。
代わりに、彼はポケットから古びた黒いノートと細いペンを取り出す。
カリ…カリ…カリ…
慎重に、集中して書き始める。
(どうして喋らないんだろう…?
もしかして本当に声が出ないのか、それとも…喋りたくないだけ?)
やがて書き終えると、僕にそのページを見せてくる。
「海の中心にて、皇帝は誇りと悪意をもって歌う。
その虚栄こそが、死と破滅の原因である。」
小声で読み上げた瞬間、ゾクリと寒気が走る。
何か言おうとした——その時。
スッ…
パサ…
彼はノートをしまい、
次にジャケットの中からまた一枚のタロットカードを取り出す。
今回のカードは——
「女帝」だった。
ヒロ(困惑しつつ)「あ、あの! どういう意味か、ちゃんと——」
ヒュンッ!
…すでに、姿は消えていた。
辺りを見渡す。
誰もいない。影も気配も。
スカッ…
はぁ…と息をつき、僕はカードをそっとポケットにしまった。
(いつもこうだ…この謎めいたメッセージばかり…)
一体、今回の意味はなんなんだろう——?
そんな考えに沈んでいると、背後から足音が聞こえた。
コツ、コツ、コツ…
サツキ「ヒロ君?」
ヒュッ(素早く振り返り、カードを隠す)
ヒロ「せ、先輩! 本、もう見つけたんですか?」
サツキ「まだ。でも…さっき独り言を言ってたみたいね。」
彼女の目線が鋭く刺さる。
あの、いつもの疑い深い目つき。
ヒロ(あたふた)「あ、ああ…それは、ただのクセで…!考えごとしながら、つい声に出ちゃって…へへ…」
なんとか笑顔を作る。
不自然だったけど…まあ、誤魔化せた。
彼女は少し首をかしげるが、それ以上は追及してこなかった。
サツキ「顔色が悪いけど。…何かあったの?」
ヒロ「い、いや…!本の内容に、ちょっと考えさせられちゃってて…。」
彼女は納得したように頷き、隣の棚に目を向ける。
僕はもう一度、そっとポケットに触れた。
あのカード…
あの男…
あの言葉…
彼のことだから——
きっと、あれには意味があるんだろうな。
...
..
.
《後編》
【商店街・図書館前 – 朝】
僕たちは欲しい本を手に入れ、図書館での支払いを済ませて外へ出た。
ヒロ(ほっとした笑顔):「今日は楽しかったです、先輩!また明日、学校で。」
僕が背を向けようとしたその時——
サツキ(慌てて):「ま、待ってっ!」
彼女が僕の手首を掴む。
ヒロ(驚いて):「せ、先輩…?」
サツキ(赤面しながら、もじもじ):
「も、もうちょっとだけ…一緒にいられないかな…?」
指先が震え、前髪をいじる彼女の姿に
胸の奥がふわっと温かくなる。
まさか、あの厳格な先輩がこんなに可愛くなるとは…
ヒロ(照れつつも嬉しそうに):「うん、もちろん。僕もそうしたい。」
サツキ(心の中で大爆発):
『きゃああ〜っ! い、いいって言ってくれた!これって…デート!?』
…なのに腕を組んでそっぽを向き、
サツキ(真っ赤になってふくれ顔):「べ、別に…デ、デートとかじゃないからね!?た、ただの友達同士の散歩だしっ!」
僕がくすっと笑ったその時——
後ろからからかうような声が聞こえた。
ギャル①(にやりと笑いながら):「ねえ〜 ゴス系く〜ん♡」
ハイヒールと露出の多い服を着た金髪ギャル三人組が近づいてくる。
僕は半歩後ろに下がる。
1メートル45センチの僕より、ずっと背が高い…。
ヒロ(戸惑って):「え…僕?」
ギャル①(色っぽく):「あたしたちと遊ばな〜い?楽しいこと、いっぱいしよ♡」
ヒロ(礼儀正しく、でも緊張して):「あ、ありがとうございます。でも、僕はもう連れがいますから…」
彼女たちはサツキ先輩を上から下まで見て、
ギャル②(笑いながら):「ぷっ、センス悪〜!その地味子とか、マジで眠くなるっての!」
ギャル③(鼻で笑いながら):「ホント!典型的なお嬢様って感じ〜」
サツキ先輩は顔を伏せる。
僕の血がカッと沸騰した。
ヒロ(声を強めて):「それは違います!!」
彼女たちは驚いて僕を見る。
僕は拳を握りしめる。
ヒロ(感情が高ぶって):「彼女は…誰よりも優しくて、強い人です!
僕が今、こうしていられるのは彼女のおかげなんです!
で、でも…僕がもし違う人生を歩んでたら…」
ごくりと喉が鳴る。
ヒロ(怒りに任せて叫ぶ):「お前たちみたいな売女になってたかもしれない!!」
——鋭い沈黙が走る。
ギャル①(激怒):「はああ!?なに言ってんのよ、このチビッ子が!!」
彼女が手を振り上げた瞬間——
ギュッ!(サツキが手首を掴む)
サツキ(低く、冷たく):「よくも…このクソ売女が…ヒロ君に触れたわね。」
握る手に力がこもる。
ギャル①:「い、痛いっ!放してよっ!」
サツキ(吐き捨てるように):「同じくらいの相手にだけ強がってんじゃないわよ。
あんたみたいな安売り女、ぶっ飛ばしてやる。」
拳を振り抜いた——
ゴキッ!
鼻骨が砕け、血が飛び散る。
ギャル①:「ぎゃあああっ!!」
地面に倒れ、悲鳴を上げる。
ギャル②が慌てて襲いかかる。
サツキ(鋭く回転):「はっ!」
バキィッ!!
ギャル②は吹っ飛び、アスファルトに叩きつけられて失神。
ギャル③が気絶した友達を抱えて逃げる。
ギャル③(泣きながら):「ひぃぃぃ〜〜ッ!!」
サツキ先輩は深く息を吐く。
拳はまだ震えている。
彼女がこちらを向く。
サツキ(荒く息をしながら、心配そうに):「ヒ、ヒロ君、大丈夫!?」
ヒロ(息を呑みつつ):「だ、大丈夫…ただ、びっくりした。
せ、先輩…すごかった…」
彼女は耳まで真っ赤になり、そっぽを向いて腕を組む。
サツキ(小声で照れながら):「べ、別に…そんなことないわよ、バカ…」
ハハハ!
やっぱり、先輩って可愛すぎる!
...
..
.
【レストラン – 昼】
店内は明るい木材のパネルで飾られていて、上品な琥珀色のライトがともっている。
銀器の音がジャズのBGMに溶け込み、まるで金持ちの映画の中に迷い込んだ貧乏学生の気分だった。
サツキ(真剣な表情):
「ところで、ヒロ君……あの踊ってた“友達”って、誰なの?」
――一瞬で冷や汗。アナジェ?!ヤバい、今すぐごまかさないと!
ヒロ(苦笑い):
「え、えっと!アハハ!あいつはアナジェって言って……えーと、近所の電気工事士!うん、めっちゃ仲良しでさ!アハハ……」
――史上最悪の言い訳。
サツキ(腕を組んでジト目):
「電気工事士?制服も名札もなし、あの包帯姿で?」
ヒロ:
「た、多分…忘れたんじゃ…?」
彼女は深いため息をついた。
サツキ(監視員のような視線):
「今は許すけど……これから、ちゃんと見張ってるからね?わかった?」
「ゾクッ」――背筋が凍る。
ヒロ(震えながら):
「は、はい……」
その時、完璧な身なりのウェイターがやってきた。
ウェイター(丁寧なお辞儀):
「メニューでございます、ご主人様、お嬢様。」
サツキ(控えめな笑顔):
「ヒロ君、何食べたい?」
ヒロ(値段を見て絶望しつつ):
「うーん…野菜カレーに、寿司セットで…?」
サツキ:
「私も、それで。」
ウェイター:
「かしこまりました。カレーライス&寿司セットを二つ、10分ほどでご用意いたします。」
スタスタ…(カウンターへ歩いていく)
――お腹が鳴る。朝、あんまり食べてなかったからなぁ…
心地よい沈黙。
僕は水を一口飲む。コップがチンと鳴る。
サツキ先輩は慣れた様子で客の動きを見ている。
サツキ(視線を落としながら、赤くなって):
「緊張しないでね、ヒロ君。たしかにこの店は高いけど……
あなたは、私にとって特別な人だから。」
「ドキン」――心臓が跳ねた。ま、まさか…?
彼女は続ける。声が少し震えている。
サツキ:
「そ、それに私…わ、わたし…」
彼女が勇気を振り絞っているのが見える。
僕はごくりと唾を飲む。「ゴク…」
もしかして、これって…
サツキ(急に緊張して):
「あなたのことを…い、弟みたいに思ってるの!」
顔を真っ赤にして、そっぽを向く。
僕は椅子から落ちそうになる。
サツキ(心の中でパニック):
『ちがあああうううう!言いたかったのはそんなことじゃないぃぃ!バカバカバカ!』
僕は小さく笑う。
ヒロ(素直に):
「ありがとう、先輩。僕も…先輩のこと、大切に思ってるよ。」
サツキ(内心爆発):
『ヒロ君が…私のこと、大切に……っ!!』
耳まで真っ赤になってる。
本当に先輩は、僕にとってかけがえのない存在だ。
まるで姉のような存在。
困ってるときに、支えてくれる人。
でも…
心のどこかで…
僕は…
突然:
「バンッ!」(彼女が机を叩く音)
サツキ(頭を下げたまま慌てて):
「わ、私…トイレ行ってくるっ!」
「タタタッ」(走り去る足音)
数秒後、廊下の奥から:
サツキ(遠くからの叫び):
「きゃあああああーーーっ!!ヒロ君が笑ってくれたぁ!!
私のこと、大事って言ったぁぁぁ!!!」
店内全体が「えっ…?」って表情になる。
客A(小声):
「今の…何だったの?」
客B:
「なんか…テンション高すぎない?」
僕はただ、顔を両手で覆って——
ヒロ(苦笑いしながら):
「ははは……たまには、はしゃぐのもいいよね。」
...
..
.
【住宅街 — 夕暮れ】
空がオレンジ色に染まり、屋根の向こうに太陽が沈んでいく。
サワサワ…(木々が風に揺れる音)
僕たちは並んで歩く。手にはそれぞれアイスを持って。
サツキ(ちらっと見ながら、優しく):
「ヒロ君…そのアイス、美味しい?」
ペロッ
クリーム&チョコチップ。冷たくて、まさに天国!
ヒロ(得意げに):
「めっちゃうまいよ〜!」
彼女が唇を噛んで、僕のカップをチラチラ見てる…もしかして、一口欲しいのかも?
サツキ(頬を染め、目をそらしながら):
「そ、そうだ…よかったら、ちょっとだけ…と、とりかえっこ…とか…」
キュッ(ヒロがアイスをぎゅっと抱える)
ヒロ(ムッとして):
「だ、だめ!クリームチップは神聖な味なんだから!」
キラッ(アイスの上に怒りのオーラがきらめく)
サツキ(真っ赤になって、心の声):
『ふ、ふくれ顔のヒロ君…可愛すぎる…キュン♡ だ、抱きしめたいっ!!』
サツキ(そっぽを向きながら、ツンモードで):
「べ、別に欲しくなんかないしっ!ふんっ!」
沈黙。でも心地よい。
コツコツ(靴音)と、遠くのガヤガヤが響く。
……まるでデートみたい。でも違う。うん、デートじゃない!
ヒロ(笑顔で素直に):
「今日はすごく楽しかったよ、先輩。」
彼女は一瞬驚いたようにまばたきする。夕日が彼女の頬を金色に染める。
サツキ(小さな声で):
「た、楽しかった?…私と一緒に?」
僕は一歩前に出て、彼女の正面に立つ。距離は30cmくらい。
ヒロ:
「最初はちょっと堅苦しいかなって思ってたけど…一緒にいて楽しかった。」
ドクンッ…ドクンッ…(サツキの心臓の音)
サツキ(潤んだ目で):
「ヒ、ヒロ君…スンッ…」
まさか、泣いてる…?何かマズいこと言った…?
ヒロ(焦って):
「せ、先輩?!僕、変なこと言った!?」
彼女は素早く涙を拭く。
サツキ(照れながら):
「バ、バカッ!ただのゴミが目に入っただけよっ!」
サツキ(心の中で爆発):
『ヒロ君が…好きって言ってくれたぁ〜!!ぎゃあああ♡』
空がだんだん藍色に染まり、街灯が**パッ…パッ…**と灯る。
ヒロ(首をかきながら):
「そろそろ、ここでお別れかな。」
サツキ(手をもじもじさせながら):
「そ、そうね…」
ヒロ(優しく):
「今日のこと、本当に大切な思い出になったよ。」
ふわり…(風が吹く)
サツキ(聞き取れないほど小さく):
「わ、私も…だよ…」
ヒロ(少しかがんで):
「え?何か言った?」
サツキ(赤くなって首を振る):
「な、なんでもないっ!とにかく…気をつけて帰ってねっ!」
ヒロ(手を振りながら):
「うん、また明日、先輩!」
サツキ(数歩進んでから、真っ赤な顔で叫ぶ):
「そ、それと!寝坊しないでよーっ!!」
僕は後ろ手で手を振りながら歩く。風が髪を揺らす。サラッ…
そのとき、背後から——
「キャーーッ!!」(嬉しさが爆発した彼女の叫び)
僕は一人で微笑む。
夜の空はすっかり暗くなり、星たちが**キラッ…キラッ…**と輝いていた。
ヒュウゥ…(夜風)
心の中で、今日の出来事が繰り返される。
昔の僕の毎日は、ただの灰色だった。
でも今は——
霊の戦争や、仮面の変人、日々の驚きに囲まれていても、少しずつ…色づいてきた気がする。
アナジェに出会って、ただの守護霊じゃなくて、心の一部になった。
サツキ先輩、ブレイドヴァスク先輩。怖いけど…優しくて、笑わせてくれる。
ザァァ…(隣の家の庭の木が風に揺れる)
でも、全部が明るいわけじゃない。
ピンクの謎の失踪。
いつ来るかわからない敵の襲撃。
そして何より、働きづめの母さんの体…
このままだと、倒れてしまう。
ギュッ…(拳を握る音)
それでも僕は生き延びてみせる、この“霊戦争”を!
バイトを見つけて、母さんを助けて、みんなと平和に暮らしたい——それだけだ!
星空に向かって小さくつぶやく。
だけど返ってくるのは、冷たい風の音だけだった。
スウ…
はぁ…
ヒロ(ため息混じりに):
「言うのは簡単なのになぁ…」
言葉は夜に消えていく。誰にも届かずに。
背筋に寒気が走る。ゾクッ…
この静かな住宅街、考えごとには向いてない。
よ、よし!帰ろう!
両頬を軽く叩く。ペチッ、ペチッ。
踵を返すと、砂利道が鳴る——ジャリ…ジャリ…
その音を残して、僕は家の灯りに向かって歩き出した。
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