第10話: リチウム 2


《前編》



【Schneeturm – 森林・夜】


吹雪が唸る夜の森。

雪原を突き破るように、稲妻が空を裂いた――


ドオオオォン!!

仮面の戦士・アナジェの拳が振り下ろされるたび、骸骨の兵たちは粉々に砕け散っていく。


「死ねぇぇ!!」

骨の剣を持った骸骨が突進する――


ギィィン!

アナジェは素手でその剣を受け止めると、雷を纏った腕を煌めかせ、手を弾かせながら言った。


アナジェ「グラァァアアアアァッ!!」

雷のエネルギーが拳に集まり――

バシュウウウン!!

骸骨の胴を貫いた一撃が炸裂し、青い光が森を照らす。


直後、バサァッ!

空から五体の骸骨が降下、アナジェを串刺しにせんと剣を振りかざすが――


ピシュン!

アナジェの姿が稲妻のように消える。剣は空を切った。


「ど、どこへ!?」


背後――

ゴガァン!!

骸骨の頭部が電撃を受けて吹き飛んだ。アナジェが、そこにいた。


「クソがああ!!」

別の骸骨が斬りかかる。


キィン…ザクッ!

アナジェは刃を受け流し、自らの手を切る。その血が地面に落ちる前に――


パチ…パチチ…!

血滴に雷が纏い、


ボゴォォン!!

爆炎が青く炸裂。近くの三体が瞬時に焼き尽くされる。


唯一残った骸骨が吠える。


「オオオオアアア!!」


その叫びを遮るようにアナジェの手が頭を掴み、

メキィィッ!

そのまま木に叩きつけ――


ドゴォォォン!!

雪が舞い、木は真っ二つに割れる。


ゴオオオ…

白い霧の中、赤い眼が再び輝く。


「か、化け物だ…!」

「こんな奴に勝てるのか!?」


「臆病者どもめ!」

リーダーの骸骨が叫ぶ。

「マチンタ様の儀式は邪魔させん!!」


その言葉をきっかけに――

ビリビリ…パチパチ…

アナジェの腕に雷が集まる。


アナジェ「ウオオオオオオッ!!」

叫びとともに突進!


骸骨たちも怒声を上げて迎撃するが――


バリィィン!!

アナジェの回転蹴りが剣を砕き、


ゴシャァ!!

リーダーの頭蓋を砕く。


ドォォン!!

雷が空から落ち、雪が蒸発して霧が巻き上がる。


ゴフッ…バキッ…

次々に骸骨の武器が粉砕される。


一本の槍を素手で受け止めたアナジェは――

ブンッ!

骸骨ごと回転させて、もう一体に叩きつける!


バキャァン!!

骨が砕けて吹き飛び、雪に舞う。


アナジェはそのままその死体を盾にし、

ザシュッ!

後ろの敵の頭を蹴り飛ばす。


二体に囲まれると、

グルン!ドガン!!

体を回転させての打撃で両者を薙ぎ倒す。


さらに空中で他の骸骨の足を掴み、

メキィッ!

振り回して二体を粉砕。


ドガッ!バリバリッ!

拳、肘、蹴り、頭突き――連撃の嵐。


一撃ごとに雷光が炸裂し、

ビカァァッ!!

夜の森が青白く照らされた。


ドォォン!!

敵の亡骸が吹き飛び、斜面に激突。


アナジェ「ウオオオオオオアアア!!」

吼えるように突き進み、骸骨の体を板にして――


シャアアアァァ!

滑るように斜面を下り、吹雪の中、マチンタの館へと消えていった――。


...


..


.


【Schneeturm - 邸宅】


屋敷の内部、呪術の間――


儀式はすでに佳境に入っていた。


空気は冷たく澱み、青黒い闇が部屋を覆っている。耳の奥を針のように突く囁き声が、霊魂たちのざわめきとして頭の中を這い回っていた。


中央では、ヒロが全身を縄で縛られ、口までもが封じられた状態で震えていた。


目の前では、青い幽炎を噴き上げる大鍋がグツグツと泡を立てていた。

ボッ...


ひとつの火花が鍋から飛び出し、ヒロの肌に触れた瞬間——

バクンッ!!


心臓が一瞬、止まりかけた。


ヒロ『こ、こんな火花一つで…死にかけた…?』

恐怖で瞳に涙が浮かぶ。


マチンタは超然とした静けさで呪文を唱え続け、モモノスケは空っぽな微笑を浮かべながらその様子を見つめていた。


マチンタ(落ち着いた声)

「もうすぐよ。あと少しで──」


ドオォォン!!


遠くで轟音が鳴り響く。


全員が窓の方へ振り返る。丘の上では青白い雷光が森を引き裂き、夜空を照らしていた。


ヒロとマチンタ『あの雷は…』

同時に思考が走る。


ガチャァン!


扉が乱暴に開かれる。


「マ、マチンタ様ァーッ!!」

骸骨の兵士が息を切らしながら駆け込んできた。


マチンタ(冷たく)

「…儀式を邪魔するなと、何度言えばわかる?」


骸骨は震え、ひざまずく。


「し、失礼しましたっ…ですが…緊急事態です!」


マチンタ

「言いなさい。私は芝居が嫌いなのよ。」


骸骨「アナジェ・アンアンゲーラが到着しました!死者の軍勢と戦っておられます!…この邸宅に向かっています!」


ヒロの目に光が宿る。涙が頬を伝う。


ヒロ『アナジェ…生きてた…よかった…本当によかった…』

彼は恐怖の中で安堵の涙を流した。


マチンタは目を細める。


マチンタ『やはり…生き延びたか。でも…あの回復力は…あのワニ娘か?…それとも…』

考えを途中で切る。深いため息をつく。


マチンタ

「ライヒナム将軍に命じなさい。屋敷の入り口に全兵力を配置。アナジェを決して中に入らせるな。できるだけ時間を稼げ。」


「はっ!マチンタ様!」

骸骨は急いで走り去った。


モモノスケ(好奇心混じりに)

「何があったの?マチンタさん?」


マチンタ(無関心に)

「あなたに関係ないわ、我が子。…ただの、吠えることしかできない野良犬よ。」


そう言って、ヒロの方へ向き直る。ヒロは激しく身をよじっていた。


マチンタ(皮肉混じりに)

「続けてもいいかしら?」


ヒロ「んんんっ!!んーーーっ!!」

必死に叫ぼうとするが、口は縛られている。


マチンタ(笑いながら)

「その沈黙を“はい”と受け取るわ。」


窓から吹き込む風が彼女の長い黒髪を揺らす。


マチンタは両手を掲げる。


マチンタ

「INTENSIVIEREN!」


ボォオオッ!!


大鍋が獣のように唸り、青い炎が螺旋状に立ち上る。

ヒュウウウウ…

燃え上がる炎の中から声が響く。


「ウウウウウウウ……」

「ハアアアア……」

「Euleeee…」


大鍋の中から、亡者たちの囁きが溢れ出す。


ヒロは目をギュッと閉じた。全身が震える。


魂までも凍りつくような感覚──

部屋の温度がさらに下がり、青白い炎はヒロの方へとにじり寄ってくる。


ヒロ(震えながら)『や、やめて…!こっちに来るな…!し、死にたくないっ…誰か……助けて……!』

涙が頬をつたって落ち──


ジュゥゥッ…


それは鍋の中で焼けた。


青い業火はヒロにさらに近づく。


部屋が沈黙に包まれる。


ただ、死と炎の囁きだけが──


...


..


.


【Schneeturm - 邸宅の大広間】


死者たちの軍勢が整列していた。

全員が青銀の鎧をまとい、錆びた兜を被り、斧・剣・鉄の槌・メイスを構えている。


しかし、その中でひときわ異彩を放つ者がいた。


大広間の中心に立つ、巨大な骸骨。

気怠そうに肩にかけた大剣を握る、その名は――


「将軍ライヒマン!」

と、小さな骸骨兵が声を上げた。


ゆっくりと頭蓋を回すライヒマン。


「何だ?」


「奴が…進軍中です!すべての兵を倒して…こちらに!」


ライヒマンはうなり声を上げた。


「フン…臆するな。奴など、ここで終わりだ。」


ドンッ!


扉が一度目の衝撃を受け、兵士たちは一斉に武器を構える。


ドドンッ!


沈黙。


張りつめた緊張。


……さらに沈黙。


――バキィッ!!


扉が粉々に砕け、木片と埃が爆風のように吹き飛ぶ。

煙の中から転がるもの――


……骸骨の頭部。


「に、逃げろ…みん…な――」


バキン!


その頭蓋が足によって踏み砕かれる。


そこに現れたのは――アナジェ・アンアンゲラ。


白銀の髪が風に揺れ、赤く燃える瞳が空間を震わせる。


アナジェ(仮面の下で低く唸る):「アアアアアアアアアアァァァ……!」


ライヒマン(皮肉げに):「ほう?もっとデカいやつかと思ったが…墓穴を掘る覚悟はあるか?ザンドーラの戦士よ?」


アナジェ(電撃を帯びながら腕を伸ばす):「俺の墓より、お前のバラバラになる身体を先に準備しとけ。」


ライヒマン:「その舌、後悔するぞ。マティンタ様に貴様の頭を捧げてやる!」


彼は剣を振り上げて叫ぶ。


ライヒマン:「攻撃開始ッ!!」


グアアアァァァ!!(死者たちの咆哮)


死者の軍勢が一斉に襲いかかる。


しかし――アナジェは動かない。

ただ静かに、片腕を上げる。


ビリ…ッ。


指を広げた瞬間、


カラアアアアンッ!!


青白い雷が空間を引き裂き、前方の死者たちを包み込む閃光となる。

光が消えた後には――灰だけが残った。


ライヒマンは一歩後退。驚愕。


全軍、消滅。


アナジェ(冷ややかに):「消し炭になりたくなければ、どけ。」


彼は指を鳴らす。

バチバチッ――鋭い爪が音を立てて伸びる。


ライヒマンは嘲笑う。


ライヒマン:「その程度じゃ俺はビビらんぞ。」


彼は剣を引きずり、地面を裂きながら前進する。


アナジェ(足を地に踏みしめながら):「なら…」


――バギィィィィン!!!


突進!!


剣と拳がぶつかる。火花が散る。


肉と骨が雷鳴を奏でる戦いの始まりだった――。




【邸宅・魔術の間】


マティンタは魂の大釜をかき混ぜていた。

青き業火が蛇のように渦巻く。儀式は最終段階に入っていた。


マティンタ(小声で):「あと一歩……」


ヒロ:「ンンンンンン!!」

(必死に縄に縛られながら叫ぶ)


「Eule…」

「Tod…」

「Vision…」

「Standort…」


囁くようなドイツ語の声が部屋に響く。

魂を凍らせる声。焼けるのは火ではなく、精神そのもの。


ピュウゥゥゥゥ……(風が吹き込む)


マティンタの長い黒髪がゆっくり揺れる。


マティンタ(死の囁きのように):

「Und schlieβlich...」


その声は死をも召喚する魔の言葉――


マティンタ(笑いながら):

「OPFER――」


――バリィィィィィンッ!!!


壁が爆発。


モモノスケとヒロが驚愕し、舞い上がる埃に目を凝らす。


その中に、2つの真紅の目――


――ライヒマンの首が飛来。

マティンタはそれを雷を纏った手であっさりと掴む。


モモノスケ:「な、何だ今のは!?」


マティンタ(薄笑い):

「吠えるだけの犬にしては…よくここまで来たものね。」


パキン!


将軍の頭蓋骨が手の中で砕け散る。


ザララ…(骨の粉が床に落ちる)


「……アナジェ。」


煙が晴れる。


アナジェが完全に姿を現す。

風に舞う白髪、静かな怒りを纏って――。


《後編》


ヒロ「んんんーーーっ!!」

── ヒロは喜びのあまり、泣きながら叫んだ。


アナジェは雷のように消え、次の瞬間にはヒロの隣に現れた。

素早くヒロを抱え上げ、縄を一瞬で引き裂き、口の猿ぐつわも解いた。


アナジェ「大丈夫か、ヒロ? ケガはないか?」

── 声は鋭くも、どこか優しさが滲んでいた。


ヒロはその胸にしがみつく。


ヒロ「こ、怖かったよ… すっ…会いたかったんだ…!すっ…!」


アナジェ「もう大丈夫だ。俺が来た。もう休んでいい。…よく耐えたな、ヒロ。」


ヒロは彼の腕の中で泣き続けた。


── そのとき、部屋に拍手の音が響いた。


パチ…パチ…パチ…


マチンタが椅子に座り、冷ややかな笑みを浮かべて拍手していた。


マチンタ「なんて感動的な再会… おめでとう、"英雄"さん。登場の仕方は、なかなか見事だったわ。」


モモノスケが彼女に駆け寄り、震えながら言う。


モモノスケ「か、母さん…ぼ、僕、怖いよ…!」


マチンタ「分かってるわ、小さな子。落ち着いて……この暑苦しい空気、嫌になるわよね。」


── 彼女は優しく頭を撫で、モモノスケをそっと下がらせる。


ザッ…


アナジェがゆっくり立ち上がり、マチンタを見据えた。

赤く燃える瞳と、黒く染まったブリーチのような風が部屋を包む。


マチンタ(冷静に)

「さあ…この熱、そろそろ消しましょうか。一度きりで。」


ゴゴゴ…


── 窓から月光が差し込み、吹き込む吹雪が二人の髪を舞い上げる。


バチッ…バチバチ…


アナジェ「ヒロ、下がれ。ここからは本気だ。」


ヒロ「う、うんっ!」

── 彼はすぐに後ろへ下がる。


モモノスケも静かにマチンタから離れる。


カツ…カツ…


── 呪術の間の中央、アナジェとマチンタは対峙する。


……沈黙。


……重苦しい空気の中、


魂の歌は声を失い、青緑の焔が静かに煮え続けていた。


ぼこ…ぼこ…(鍋の中)


まるで、すべての終わりを……待っているかのように。


風を巻き上げて、二つの霊が正面から睨み合う――それは死と雷、夜の嵐のように緊張が走る…

そして――消えた。


一瞬の静寂の後、二人は再び姿を現し――ビシィッ!

蹴り合う衝撃が轟音とともに爆発し、部屋中を舞う嵐を巻き起こす。

カーテンが裂け、ガラス片が飛び散り、ホコリが神聖な煙のように宙を舞う。


マチンタは冷笑を浮かべ、嘲りの光をその黄金の瞳に宿す。

アナジェは獣のように唸り、戦闘本能を剥き出しにして構える。


ヒロ(震え声で):「ア、アナジェ…怪我しないで…」

――感じる風だけが、戦場と化した空気を運ぶ。


モモノスケ(恐怖に震えて):「お、お母さん…どうか行かないで…」

――二人の霊は足を引きずりながら後退し、再び前に進む。




アナジェが先手を打つ――

雷を纏う爪がマチンタの首を貫こうと迫る。

ゴゴゴ…

だが彼女は前腕でそれを受け止め、すぐさま膝蹴り。

アナジェは両手でそれを掴み、回転したまま凶烈な飛び蹴りを叩き込む。


マチンタは優雅な闇のバレリーナのように傾き避ける。


アナジェは自らを回転させながら床に倒れ込む。

ドサッ…

マチンタも反転し、飛び上がる。


バシッ!

拳がぶつかり、雷音のような鈍い衝撃が共鳴する。

その視線は火花のように燃え盛る。


二人は少しずつ離れ、再び…


バシバシ! ゴゴゴ! カチン!

蹴り、パンチ、肘、膝――激しい連撃。


アナジェが空中で回転し、電撃蹴りを叩きつける――

ズガッ!

マチンタはブロックするが、そのまま壁に叩きつけられる。


ガラガラ…ガラガラ!

壁が粉砕し、コンクリが崩れる。

マチンタは壁を突き抜けて外に飛び出し――吹雪の下に投げ出される。


彼女は空中で優雅に回転し、骨がジュリリと鳴る。

突然――

パキッ…パキパキ…

真っ白な翼が彼女の背から裂け出し、天使のように広がる。

しかしすぐに暗夜を吸い込むように黒く染まり、黒い羽がぼろぼろと舞い落ちる。


羽がアナジェに向かって飛んでいく――


ガラッ…ガラガラ!

ペンの刃が床に深く食い込み、金属のような重い音が響く。

最後の一枚が彼の顔面へ――彼は二本の指でそれをつかむ。


爪先に電撃が走り、それを投げ返す。


マチンタは軽く頭を傾け避け、一瞬も目を離さない。




アナジェ(吼える):「ウアアアアアアァァァッ!!」

――稲妻のごとく、彼は屋敷の外壁を蹴り飛ばし飛び出した。


パッシャン…

マチンタは腕を組み、翼を静かに畳みこむ。


電撃がアナジェの爪から火花を散らし、彼は天井へと跳び上がる。

ザラッ…


屋根瓦が引き裂かれる音。

彼のマスクが月光に照らされ、恐ろしげに光る。


彼は上を見上げる、影を――

マチンタだ。

夜空に舞いながら、さらに新たな羽を飛ばす――


ガガガ…

それぞれの羽がコンクリートを貫通し、瓦礫を散らす。


アナジェは屋根の切れ目を走りながら回避する。

瓦が飛び、火花が散る、静寂の乱打。


塔の支柱に飛びつき、回転ジャンプ。

ターッ!


プリミティブな叫びとともに――

彼はマチンタとほぼ同じ高さまで到達し、再び衝突。

静かな戦場に、鋭い爪の音と雪の舞が舞い降りた。




マチンタ(冷笑しながら)

「ようやく本能を認めた?それともまだ、怯えるワンちゃんのまま…?」


アナジェ(雷を巻く爪をうならせ)

「どっちでもねぇよ!!」


彼が全身に電撃を帯び始めた瞬間――


ズーン!


マチンタが翼を開き、吹雪を巻き上げる。

アナジェは塔の頂辺へと吹き飛ばされる。


バシャン…

彼は指先で岩を握りしめ、立ち直る。


ザザザ…

激風の中、雪が彼を囲む。

月と炎を帯びた瞳だけが、この静かな戦場を照らす。


突然、彼は力強く床を踏み込む――

バキィッ!

塔の床が裂け、彼は空中へ跳び上がる。


ロアァァァッ!!

—電撃を纏う拳を大気に叩きつける!


ズガアアアアアアッ!!

拳は雷鳴と炎を伴い、コンクリ屋根を貫くが、マチンタは翼で身を翻し躱す。




まだ空中にいるマチンタは優雅に身体を反転し――

マチンタ(声と共鳴するように):「Spektraler Sturm…!」


彼女の言葉が1000羽の梟の呟きのように吹雪の中にこだまする。

猛吹雪がアナジェを包み、竜巻となって彼の周りを舞い、彼も電撃でそれを破ろうとするが――


ズガガガガガガ!!


拳が地面を撃ち、爆音が轟く。

しかし吹雪は消えない。




マチンタは静かに着地し、腕を前に伸ばす。黄金の瞳が暗闇を照らす。

マチンタ(冷徹に命じて):「Explodieren…」


彼女の手が握り拳になると、雪の吹雪が濃い青に光り出した――


バオオオオオォォォン!!


吹雪が巨大な青い業火の爆発となり天空へと轟く。

瓦礫の間に青い火の粉が舞い、死者の炎がアナジェを包み込む。




その青い炎の中で、赤い双眸が光る――

アナジェ(叫ぶ):「ウアアアアアアアアアァァァッ!!!」


その咆哮が炎を押し返す波となり、彼の白髪が吹雪のように舞う。

焼け焦げた傷だらけの身体はなおも立ち上がる。


ズラープッ!


稲妻のように——アナジェは霧散した。




次の瞬間、彼はマチンタの目前に現れる――

ビシッ!


そしてまだ彼女が反応する間もなく――

彼の腕がマチンタの腹を貫く。


グシャッ…


血が飛び散り、彼女は喉元を押さえる。

アナジェは微動だにせず、じっと立っている。


彼が血で濡れた拳を引こうとするそのとき――

マチンタがそれを強く掴んで止める。

静寂の中、運命が交錯する。


マティンタ「感じるかしら?この身体と魂の中の…虚無を。」

その声は凍てつくように冷たく、長い髪が彼女の目を覆っていた。吹雪が周囲を舞っている。


アナジェ「…ああ。」

アナジェは短く、だが重々しく答える。


マティンタ「なら教えて…」

マティンタ「なぜ…まだ抗うの? なぜ、私たちのように…この優しい氷の海に溺れようとしないの?」


アナジェは静かに顔を上げ、その目を輝かせた。


アナジェ「俺は…戦うことを選んだ。だからもう…」

「お前の言葉でこの海に沈むことはできない。死衣裂き。」


彼の決意のこもった声に、マティンタはくすっと笑った。しかしその笑みはすぐに消えた。


マティンタ「そう…ならば…」

黄金色の目が燃えるように輝き、白目は闇に沈んでいく。


マティンタ「言葉で溺れさせられないのなら…力で沈めてあげる。」


ズブッ――ッ!!(ぐしゃっ)


彼女の手が、アナジェの腹を貫いた。

ドクドクと血が溢れ落ちる。


アナジェ「ぐっ…!」


二人は同時に飛び退く。

ピシャッ、ズサッ…!


互いに出血し、息を荒げながらも…

目を逸らさず睨み合う。まるで、どちらももう一歩も退かないと悟っているかのように。


バサァッ!


マティンタは翼を広げ、空へと跳ね上がった。

ヒュオォォォ……(吹雪の唸り)


彼女は塔の頂上へと着地する。

満月が二人を照らし、まるで悲劇の舞台のように夜を染める。

黒い羽根が彼女の翼から舞い上がり、吹雪に乗って夜空へ消えていく…それは、魂の嘆きのようだった。


氷の風が舞う中、死の魔女はゆっくりと腕を掲げる。

その遥か下で、アナジェは腰に下げた封印の仮面を手にしていた。


「ウァアアアアア……Spektruum……!」

死者の声が、亡霊の合唱のようにマティンタを取り巻き囁く。


「Herz……」


――ゴオオォォ……


突如、マティンタの手に青白い幽炎が灯る。

その焔は汚れた雪に踊る影を刻み、闇夜に揺れる。


マティンタ(低く冷たく)

「裂けよ……雪の鐘楼に彷徨える魂を、焼き尽くせ……」


彼女は迷いなく、自らの胸に指を突き立てる。

痛みの気配はなく、ただ沈黙のみが支配する。


――ズブッ(肉を貫く鈍い音)


脈打つ心臓を引き抜き、手のひらに握る。

血が塔に滴り――


――バキィッ!


その心臓を潰す。

血潮が彼女の指の間から爆ぜ、やがて青白い炎へと変わり、夜空に舞い上がる。


――シュウウウ……


炎が彼女の身体全体を包み、黒い羽根が燃えながら落下していく。

その中心に、やがて黒き刃の輪郭が浮かび上がる。


――ギィィィン……!


マティンタ

「Leichentuch Zerreißer。」


その刃は細く長く、禍々しい棘を持ち、まるで骸の爪か根のような形状。

不均衡な鍔と持ち手は、処刑人のために彫られたかのようだ。


炎の翼に包まれた彼女の姿は、かつての姿とは異なる。

冷たい青の火に燃えながら、ゆっくりと剣を構える。


マティンタ(挑発気味に)

「どうしたの?その舌も、この炎に凍えてしまったかしら?」


幽炎が渦を巻き、彼女の胸をなぞるようにして傷を完全に癒す。


――ゴオオォォ……


剣の刃にも青白い炎がまとい、かすかに歌うような音を響かせる。


アナジェは仮面を静かに手に取り、深く息を吸い込む。


アナジェ

「今こそ……応えるときだ……」


そして仮面を顔に装着し、叫ぶ。


アナジェ

「甦れえええええええええええええッッ!!!」


――ドガァァァァァン!!


雷鳴が天を裂き、仮面に直撃する。

閃光、そして爆煙が吹き荒れる。


――シン……


一瞬の静寂。


――シュバッ!


煙の中から、稲妻のように閃く刃。

Thunder Radianceが空を裂き、アナジェが姿を現す。


彼の仮面は光を帯び、赤い瞳が燃え上がる。

電気の火花が身体を包み、空気が震える。


アナジェ

「Thunder Radiance。」


彼はその刃を片手で握り、塔の上のマティンタを見据える。


――ザアアア……(雪が舞う)


二人の視線が交錯する。

稲妻と死の金の光が、運命のごとく重なり合う。


マティンタ(低く)

「時ね……」


アナジェ(鋭く)

「この戦いを……」


アナジェ&マティンタ

「終わらせる!」


――ズガァァァァァン!!!


アナジェが跳躍。雷をまとった剣が空を裂く。


そのスピードは光すら追いつけない。

時間が歪み、風が止まり、彼は雷光となる。


同時に、マティンタも塔から跳躍。

Zerreißerが炎をまとい、空気を凍らせながら疾走する。


――ブォォォォッ!!


空中で二人の刃が衝突――


ギャアアアアアン!!!

電撃の衝撃波と、死の焔の爆風が空を貫いた。


天空にて、二人の霊が交差する。

大地は沈黙し、月は静かに見下ろしていた。


火花が空を裂き、息が凍り、時が――止まった。














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