第3話 鳥屋敷の住人

 ”鳥屋敷”につくと、家の前には大きなトラックが止まっていた。

作業の人たちが、ダンボールを家の中に運んでいる。


「引っこしの最中さいちゅうみたいだね」と、うさぎさん。

「うん。でも、住む人は見えないね」と、私。


 そのとき、フユキが家の庭を指さして言った。


「あっ、シロベルちゃんをおそったカラスの巣があった木、切られてる!」

「あんなにいたカラス、いまは一羽もいないな」って、ハジメもおどろいてた。


 私はホッとしたけど、さみしそうなカラスの鳴き声をおもいだして、ちょっとかわいそうな気もした。


 でも今は、神城かみしろ隼人はやとさんに会うことが大事。


「インターフォンあるよ。押してみたら?」って、うさぎさん。

「でも、知らないお家だし……ちょっとこわいね」と私。


 ハジメが、「フユキ、ピンポンしろよ」と言ったけど、

 フユキは、「ハジメがやれよ」と押しつけ合い。

 

 それでも、迷ってたら何もわからないまま。ここは、ゆうきを出さなきゃ!


「私が押す!」と言って、ボタンに手をのばした。


 ピンポーン!


 少しの時間が、すごく長く感じる。そしたら、


「はい。どなたですか?」って、男の子の声がしたの—— 私たちと同じくらいの年かも?


 ハジメが「ナツキ、名乗れよ」と私をせかす。なんで、また私?

 

 けど、がんばれ、ナツキ!

 私はこころの中でそうとなえて、インターフォンに声をあげた。


「図書館のヤマグチさんから、神城かみしろ隼人はやとさんのメールを見せてもらって……私、森山もりやま夏樹なつきっていいます」


 そしたら、インターフォンの向こうから、


「待ってて! いま行くから!」


 さっきの男の子のはずんだ声がきこえた。


 —― しばらくして、ガチャリと扉があく音がした。そして、


 ”鳥屋敷”の玄関から 出てきたのは、やっぱり、私たちと同じくらいの男の子。

だけど――


 えっ……ええっ?!


 その子の顔を見たとたん、胸の奥がドキンッって鳴った。 みんなも目をまるくして声をそろえた。


「「「「鷹司たかしくんっ?!」」」


 でも、その子はちょっとだけ困ったように笑って、こう言った。


「ううん、ぼくの名前は神城かみしろ隼人はやと。鷹司じゃないよ」


 するとハジメが、すっごく大きな声をあげた。

「ほんとだ! こいつ、前がみが一すじ、白くない!」


「ハジメ、“こいつ”って言っちゃダメだよ!」

 うさぎさんがすぐに注意したけど、声がいつもより高くなってて、おどろいてるのがわかった。


 ……だって、隼人くんはほんとうに鷹司くんに、そっくり。涼しげな目も背の高さも。まるで、鏡の中のもうひとりみたいに!


 フユキはちょっとあわてちゃってる。

「も、もしかして、ふたご? ぼくとナツキみたいに」


 でも、隼人くんは首を横にふった。


――じゃあ……どうして、こんなに似てるの?


 すると、隼人くんは私たちを手まねきして言った。


「ぼくも、みんなに聞いてみたいことがあって、ずっと会いたいと思ってたんだ。だから、近くの公園で話をしようよ」


 きっと、隼人くんと話せば、これまで気になってたことがわかるはず!

 私たちは顔を見合わせてから、コクンとうなずいた。

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