第2話  カラスの襲撃

 土の中から現れた銀色のカプセル。その中には、手紙や写真、昔のキャラグッズなどが入っていた。そして……なんとウィスキーのびんまで!


「ははは、このウィスキー、四十年前の校長先生から、今の校長先生へのプレゼントだって!」


 先生たちの笑い声がはじける。


「見て、この時間割。昔は土曜日も授業あったんだって」


 フユキが見せてきた紙をどれどれと、のぞき込むと、そのとなりに――キラキラとかがやく透明とうめいな玉がおかれていた。

 おくまで吸い込まれそうなふしぎな感じ。なぜだろう? この玉をのぞくと……夢を見ているみたいに、体がふわふわする。


「フユキ、これって何? すごくきれい。……ガラス玉かな?」


そのとき、

「カァッ!」


 校庭の木の上からカラスが鳴き、むねがドキリと音をたてた。


「えっ、何っ、あのカラスたちっ、今にも、こっちに飛んできそう!」


◆  ◆


「カアッ、カアッ、カアッ!」


 カラスの鳴き声が、校庭の静けさをやぶった。


「フユキ、あのカラスの鳴き方……ぜったいに変だよ!」


 私はあわててフユキの腕をひっぱった。


「あれ、仲間に『敵がいる』って、伝えるときの鳴き方だもん」

「えっ? ナツキ、どうしてそんなのわかるの? ……あー、あの本のせいか」


 フユキは私を見て、少しだけ笑った。


 そう、最近、私は、『鳥の言葉がわかるようになった』っていう、生き物の先生が書いた本にハマってるの。

 その先生みたいに観察してたら、なんだか、ちょっとだけ鳥の気持ちがわかるような気がしてきたんだ。


「ナツキがそう言うなら、ちょっと変なのかも。たしかに、あのカラスの鳴き声……こわいよね」


 そのとき、


「——あっ、ちょっと、待って!」


 後ろから突然、小さな影がとび出してきた。そして、私たちの前の机の上においてあったガラス玉を、ひょいとつかんで——校舎の方へ走り去った!


「ま、待って! それ、学校のものだよ!」


 私はとっさに走り出す。フユキもすぐ後ろをついてきた。


 逃げていくのは、小柄な女の子。黄緑色きみどりいろのカーディガンに、白いスカート。髪がふわりとゆれて、足がすごく速い。


「ねぇっ、ダメだってばーっ!」


 女の子がぴたりと立ち止まって、こちらを振り返った。その大きな黒い瞳に、私は思わず息をのんだ。かわいいけど、不安そうな瞳……どこかで見たことがあるような……。


 でも、そのまま女の子は校舎の中へと駆けこんでいってしまった。


「い、いない……」


 校舎に入っても、姿はもう見えなかった。


「すっごい速さ……まるで鳥みたい……」


 私がそうつぶやくと、フユキが言った。


「ぼく、あの子、知ってるよ。最近、ぼくのクラスに転校してきた子だ」

「え?  フユキのクラスって、五年二組?」


 フユキがうなずく。


「名前、たしか——白鐘しろがねさん」

「白鐘……? めずらしい名前だね」


「うん。でも、クラスで誰かと話してたの、見たことないよ。すごくおとなしい子なんだ」


 私は首をかしげた。そんなおとなしい転校生が、どうしてあのガラス玉をもっていっちゃったんだろう?


 そのとき、木立の方から、かすかなさえずりが聞こえてきた。


「チチチチッ……あっ、あの鳴き声、メジロだ!」


 私は思わず声を上げた。


「でも、今のは……危険を知らせるときの鳴き方だよ。メジロは安心してるときは、”キュルキュル”って、もっとやわらかい声で鳴くの」


「へぇ〜……ナツキ、メジロの気持ちまで分かるの?」


 そのとき、黄緑色の小さな鳥が私たちの頭上をスッと、とんでいった。私はそれを指さして言った。


「ほら、やっぱりメジロだったでしょ!」

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