第8話 ボクのファーストキスの味

燈色の言っていたことがほんとか確かめなければならない。そのためこなつをデートに誘うことにした。

「明日、お時間ございますでしょうか。」

『なんで敬語?』

「映画見に行きたいなって」

「一緒に」

『空けとくね』

「おけい」


よし!僕だってやる時はやるのだ。僕は浮かれた気分で服を脱ぎお風呂に入る。シャワーを浴びながらさっきの文章は大丈夫なのだろうかと思考を巡らすが過ぎたものはしょうがない。誘うことに成功した それが事実だ。ふと自分の胸を見る 上からだとつま先が胸で見えないぐらいの大きさだ。

「はぁ〜...自分のやつはなんか違うんだよな〜」

ため息は水の弾ける音に易々と消されていった。


目が覚めたのは6時 とてもいい時間だ。

朝食を食べ、歯を磨き、顔を洗って鏡を見る。

「やっぱ僕可愛いよな...」

既成事実を確認して洋服に着替え...とはいかなかった

「服が...ない!」

完全に盲点だった。僕は現在一人暮らしで服を貸してもらえる家族がいない 当然僕は女物の服を所持していない。

「あの〜柏木さん?起きてますか?」

『昨日からなんか変じゃね?』

「よく考えたら服がなかった」

『...確かに』

「男物でもよろしい?」

『私は怜央にオシャレして欲しいけどな』

『服も買いに行く?』



いやでも確かにこれから外出する時はそういう服を着なければならない。

「対戦よろしくお願いします」

『対よろ』


集合の時間は9時 私は服のサイズ感に少し手間どってしまって来たのは9時10分だった。

「はぁ...ごめん...まった?」

「それ本来は私のセリフじゃないの?」

「はぁ...ごめん」

「いいよ 気にしてない。ほら行こう!」

映画館はここから15分のところにある。その間僕たちはいつものようにアニメやらなんやらの話しで盛り上がった。

「ついたね〜」

「まあまあ歩いたね」

「え?」

「え?」

「何観る予定なの?私聞かされてない」

「今日はね...スッパダーマン:家に帰る道は無いだよ!」

「玲央ずっとスッパダーマン好きだよね〜」

僕たちはポップコーンとコーラを買って席に着いた。席は結構埋まっていてスッパダーマンの人気を確認できたようで嬉しかった。

「始まるよ」

スクリーンの映像に胸を踊らせるのは中々に楽しい。


「いやーめっちゃ感動した。ホンマにえぐい」

「私MARBLE観たのはガエンジャーズシリーズとこれだけなんだよね」

「あれはトムスッパとトビースッパ、アンドリュースッパの3人分の映画観ないと多分100%理解できない」

「アメスッパでは主人公はヒロインを助けられなかったけど今作では全く同じ状況で助けることが出来るんだよ。あの時の俳優の演技もあいまってめっちゃ泣きそうになっちゃった。」

「エグい語るじゃん」

「...流石にオタクでた そーりー」

少し気まずい雰囲気になってしまったが僕らは並んでシアターを出た。

「ごめん トイレ行ってきてもいい?」

「分かった。待ってるね」

僕は女子トイレの前で立ち、適当にスマホで時間を潰そうとした。その時いかにもチャラ男と言った雰囲気の男達がこちらにに近づいてきた。

「キミ今暇でしょ?俺達と遊びに行こうよ〜」

ベタ奴はベタな事しか言わないのだろうか

「いえ、そういうの、間に合ってるんで」

「別にいいじゃん。男釣るためにそこに立ってたんだろ?」男は私の腕を掴んできた

「っ!やめてください!んっ...!」更に男は僕の口を手で塞いだ

「あんまり大きな声出すなよ。キミも絶対楽しいから ら な?」

目の前が真っ暗になった。思いっきり力を入れて抵抗するが男の腕はビクともしない 自分が非力になってしまった事を段々と実感する。

(助けて...!)

声にならない叫びは確かに誰かに届いた。

「何してるんですか」

その声は静かに怒気を帯び男達を威嚇した。

「な...なにって分からない?お茶に誘ってんの」

ガシッと男の手を掴んでこなつは言った

「やめてください。私の彼女に何するんですか。」

「彼女だって?」

「はい」

「ワーハッハッハッハ!」

「誰が信じるんだそんなこと。だいたいお前ら同性じゃねぇか ほんとに彼女ならキスの1つでもしてみろよ」男は試すように僕から手を離した。

「はぁ...んっ!」

文字通り息付く間もなく飛び込んで来たのはこなつの唇だった。彼女はこれ見よがしに僕とキスをし腕は肩を掴んで離さない。かなりの時間息をできなかった僕はその場に座り込んでしまった。

「...これで満足?」

「お...おう。まぁ俺達も遊びだったから...行こうぜ」

「玲央?大丈夫?」

しゃがみこんだこなつの心配そうな顔が視界に入る

「ん...ありがとう こなつ」

鼓動が早まる。先程とは違うドキドキが僕の感情を掻き乱す。思わず目を背けてしまった。

「えとー...ごめんね。いきなり...」

「大丈夫。そんなに...気にしてない」


僕のファーストキスの味は何味だったか。そんなものは覚えていない

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