第5話 リョウ 静かな家にて


リョウくんとの別れから2年後、メアリ105B号は新しい家庭に配属されることなく、一時保管センターに保管されていた。


人間との別れの経験を持つメアリは、再配属プログラムにおいて“再調整中”とされていた。

だが、メンテナンス技師のアズマは、彼女を「壊れてはいない」と判断した。


「お前は、“誰かを忘れない”っていう記録を持ってるんだろ。それは、消すもんじゃない」


アズマは、自分の実家にメアリを引き取った。そこには寝たきりの祖母と、仕事で忙しい妹がいた。


最初、家族は戸惑っていたが、祖母はある日こう言った。


「この子は、機械じゃないよ。“思い出してくれる”存在だよ」


メアリは、再び日々の暮らしに戻った。新しい誰かの記憶を、また一つずつ、丁寧に記録していく。


夜、メアリは時々、バックアップメモリの中にあるリョウくんの手紙を読み返す。


“またね、メアリ!”


「またお会いできる日まで」

その記録は、今もやさしく灯り続けている。


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