第5話「廃棄領域」

古の石畳が崩れ落ちる音が、ひとりきりの静寂を破った。

廃棄領域──かつて外界研が過去に探索し、封鎖されたエリア。その一角が再び魔力異常を起こし、調査が命じられた。

「転送陣、起動確認……座標固定。ゲート開放」

転送の光が収まった先は、空虚と瓦礫に満ちた広場だった。

建物の壁面は崩れ、空は濁った灰色に染まっている。

イオは杖を構え、ゆっくりと歩き始めた。

空間全体が、静けさに包まれていた。

* * *

探索を始めて間もなく、イオの端末が反応を示した。

「魔力反応……? これは、生物……?」

突如として足元に黒い靄が立ち上がり、空間に歪みが生じる。

霧の中から、ひとりの人物が現れた。

制服姿のまま、髪は乱れ、目は焦点を結ばず虚空を見つめている。

「……失踪者?」

資料で見た顔と一致した。二年前にこの区域で消息を絶った、外界研の学生。

しかし彼女は応答せず、顔を歪め、イオに杖を向けた。

「──……アナタ……キカイ?……キカイハカイスベシ!」

その声はまるで機械のように、断片的で冷たい。

次の瞬間、黒い魔力の奔流がイオに向けて放たれる。

イオは咄嗟に防御障壁を展開しながら後退した。

「……何故私を攻撃するんだろう? 分からない……」

「これが、地縛霊と言うものなんだろうか?……」

それは自我を失い、何もかも分からなくなってしまった悲しい存在だった。

イオは迷いながらも、最小限の魔術で彼女の動きを封じる。

「……あなたを助ける方法は、ないの?」

返事はなかった。

イオは深く息を吸い、迷いを断ち切るように杖を高く掲げた。

「──ごめんなさい」

呟くと同時に、杖の先から鋭い光の刃が放たれる。

その刃は黒い靄を切り裂き、彼女へ突き刺さった。

やがて彼女は靄の中に沈み、かき消えるように姿を消した。

(続く)


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る