第2話「螺旋構造」

杖を構えたまま、イオは歪んだ森の中を慎重に歩いていた。転送の余波はまだ空間に残っており、空気は重く、魔力の粒子が肌を刺すように漂っている。

「異常魔力濃度……なんて不安定な空間なんだ」

魔導端末に表示された地形データは不安定で、歩を進めるたびに座標が揺らいでいた。目的地である“螺旋状構造物”は、間もなく視界に現れるはずだった。

そのとき——

低い唸り声。木々の影から、ゴブリンが数体現れた。粗雑な槍を手に、笑いながらこちらにじりじりと距離を詰めてくる。

「魔力濃度に反応したか……外界の自律魔獣系か、いや亜人種型」

イオは一歩引き、陣札を投げる。

「術式展開、火球──範囲指定、爆裂式──発動!」

放たれた火球が地面に着弾し、爆炎と共に2体のゴブリンが吹き飛んだ。残った1体が突進してくる。

「……遅い!」

イオは身を翻し、接近してきたゴブリンの腹に杖の石突きを叩き込む。魔力が炸裂し、相手は地面に崩れ落ちた。

「──ふぅ……さっき気配はこいつらだったのね」

イオは周囲を確認し、警戒を緩めず再び歩を進める。

* * *

目の前に広がったのは、空に向かって捻れながら伸びる巨大な塔。金属と石が融合したような外観を持ち、表面には脈打つように魔力が流れていた。

「……これが、螺旋構造」

魔導端末を操作し、魔力分布を確認。中心部には高濃度の反応がある。

イオは陣札を起動しながら、内部へと足を踏み入れた。

* * *

構造物の内部は無音で、感覚が鈍くなるほどに静かだった。光源は存在しないはずなのに、空間は淡い青緑に照らされていた。

「反射光じゃない……魔力そのものが視覚を誘導してる?」

空間はねじれ、階段や通路が物理法則を無視して配置されていた。イオは魔力の“流れ”を読むように歩を進める。

足元で再び魔力が軋むような音を立て、イオは咄嗟に構えた。

思念のような“呼び声”が奥から響いてくる。

“──そこにいる誰か……聞こえる?”

それは声ではなかった。だが、たしかに誰かが“存在”を探している感触があった。

名前を呼ぶことはなかったが、呼びかけはイオの心の深層にまで入り込んでくる。

「……誰かが、私に……?」

イオは深く息を吸い、杖を握り直した。

「……まだ終わってない、ね」

彼女は再び歩を進めた。

(続く)

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