第17話 呼び出しと、賢人会
魔法大学二日目、俺は今後の展望である英雄たちの墓へのアクセスとそれに伴う有益な情報集めのために大学図書館へと来ていた。
主にミトランティスに埋葬されているという英雄の資料を集めながらも、大学の歴史や変遷を調べる作業を進めていると、ふと、俺のそばに誰かがやってきていることに気づいた。
その人は、真っ黒なローブを全身に包み、目元にマスクをした怪しい人物であり、その人は俺のそばに来るなり話しかけてきた。
「ジュジュ・グレイブさんですね」
「あぁ」
ハキハキとした口調で力強い声に、見た目とのギャップを感じた。その恰好をするのならもう少し控えめな口調の方が似合っているだろうに・・・・・・
「副学長がお呼びです」
「副学長?」
副学長はこんな怪しいやつを使いに出すような人らしい。とはいえ、話があるっていうのなら断る理由はないし、副学長ならこの大学についてもいろいろ聞き出せそうだ。
そうして、俺は謎のローブの人に連れられて副学長室に訪れると、副学長は今日もお菓子とお茶を余分に出して待っていた。
俺はすぐに席に座るように促されてローブの人も同じく席についた。これはあれか、この人も一応客人っていうことなのだろうか?
ともあれ、おれはひとまず副学長先生に挨拶することにした。
「こんにちはダリア先生」
「おや、私の名前をちゃんと覚えていたのですね」
「そりゃあ、昨日の今日ですから」
「そう簡単なことじゃありません、特にあなたの様に若い学生ならなおさらです」
「そんなもんですか」
「えぇ、あなたの洞察力は平和ボケした学生たちとは違うということです」
「平和ボケって、平和なのはいいことですよ」
「そうもいっていられないのですよ、魔物たちの対応に追われて大学は大変なんです」
「なら、魔法大学の賢者さんにでも頼めばいいじゃないですか、ゴールドランクよりもすごいんですよね」
「・・・・・・もうそんな事も知っているのですねジュジュ君」
「新入生は知りたいことでいっぱいですので」
「では、そんなジュジュ君にぜひとも出席して欲しい場所があるんですよ」
「出席?」
「えぇ、この大学ではゴールドランクの学生は賢人会に出席しなければならないのです」
「賢人会?なんだか随分と堅苦しそうな会ですね」
「そんなことありませんよ、若くて有望な学生も多く在籍していますよ」
「そこには何をしに行くんですか?」
「ゴールドランクとしての顔見せと決意表明、あとは大学内にあるギルドへの所属といった諸々の会議をする予定です」
「ギルド?」
「ギルドとはいっても、学生の個性を集約することによる効率の良い能力の底上げです。簡単に言うなら、攻撃が得意な人や防御が得意な人を同じ場所に集めているのですよ」
「へぇ、それは効率的でいいですね」
「それから、今回の賢人会は異例のゴールドランク承認による緊急招集ですからね、面白いものが見れそうです」
ダリア先生は、どこか嬉しそうに笑いながらティーカップを傾けた。
「あの、ダリア先生?」
「どうかしましたか?」
「その賢人会とやらは欠席するわけにはいかないんですか?」
「そういうわけにはいきません、我々大学はみな同胞です、互いを知るというのはとても大切なことですよ」
「目立つのは嫌いです」
「安心してください、私もついていきます」
副学長という立場なはずなのに、随分と俺に肩入れしてくれるものだ。ここまでされると逆に怪しくも思える。
だが、右も左もわからない俺にとっては騙される事を心配よりも、信用した方が良いようにすら思えてくる。
「それで、賢者ってのはそんなに偉いものなんですか?」
「えぇ、偉いですよ、まさに救世主」
「それは、誰でもなれるもんなんですか?」
「賢者になるためには、多くの学生からの支持とギルド長としての実績を残さなければなりません」
「あぁ、俺には縁のない地位みたいです」
「おや、ジュジュ君は仲間を集めているんじゃないんですか?ゆくゆくはそういう道に進んでもおかしくはないと思いますけど」
「仲間は必要ですが、何も組織を作るつもりはありません」
「先日も言いましたが、ジュジュ君はもう間もなくこの大学における台風の目になる事は間違いありません、必ずあなたは多くの学生の魔の手にさらされることになります」
「随分と物騒ですね、さっきは同胞とか何とか言っていたのに」
「同胞とはいえ、仲良しこよしとは言っていませんよ」
「あの、なおさらその賢人会に行きたくなくなったんですが」
「ふふっ、ジュジュ君は人付き合いが苦手な様ですね」
「すっかり人付き合いの仕方を忘れたもので・・・・・」
「ふふふ、かわいい所もあるんですね」
何が面白いのか、今日のダリア先生は随分とご機嫌な様子だった。
「とはいえ、ジュジュ君の目的がなんだろうと、この大学におけるトップ層の顔くらい知っていても損は無いと思いませんか?」
「それは、確かにそうですね」
「向こうから素性をさらしてくれるんですよ、もちろん全てではありませんが、それでも知っているのと、知らないのとでは大きなの差があるというものです」
ダリア先生の言っていることは説得力があり、俺にとっては必要な情報が手に入る絶好のチャンスであることは間違いなかった。
「・・・・・・そこまで言われると、行きたくなってきました」
「そうですか、では、賢人会が始まるまでお茶会としましょう」
そうして、俺は二日連続で副学長先生であるダリア先生とのお茶会をすることになったのだが、ローブの人は席に座ってから微動だにすることなかった。
そして、ダリア先生はその存在について言及することはなかった。
それにしても、なんだかダリア先生にうまく乗せられた様な気がするが、なんにせよ、多少のゴマすりくらいはしておかないと面倒ごとが増えるということなのかもしれない。
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