第15話 夜のお散歩

 疲れて眠ってしまったサンゴを背負い、ひとまず墓場を後にした俺は、サンゴの事をどうすべきか悩みながらもグレイブ農園付近の街道を歩いていた。

 

 すると、グレイブ農園へつながる分かれ道に人影を見つけた。


 こんな夜更けに人と出くわすなんて、しかも俺はサンゴを背負っている状況だ。人によっちゃ犯罪行為を疑われたっておかしくない状況なだけに、俺は道を引き返そうかと思っていると、その人影は一心不乱に俺の元へと向かってきた。


 完全なホラー展開に困惑しつつも、俺は迫ってくる人の姿がララであることに気づいた。そして、彼女は俺の元までやってくると、あきれた様子でため息を吐いた。


「あの、昨日も言ったと思いますけど、おばあちゃんが心配するからちゃんと家にいてもらえませんか」

「いや、散歩でもと思って」


「昼にしてください」

「そ、そうだな」

「はい・・・・・・それから背中に背負っているその人は何ですか?」


 途端にトーンの低い真剣な声色を出してきたララは、明らかにこちらを怪しむ様子を見せていた。


「いや、実はちょっと散歩中に倒れた人がいたから助けただけだ」

「倒れた人?息はあるんですか?」


「ある」

「そう、なら家で治療しましょう」


「いや、それは・・・・・・」

「なんですか、急を要する状況でしょう?」


「わ、私なら大丈夫です」


 唐突に喋り出したサンゴは俺の背中からずるずると降りた。しかし、その様子は明らかに普通ではなく立っているのもやっと、という状況に見えた。


 そして、そんな状況でララがサンゴに駆け寄った。


「ちょっと、全然大丈夫じゃないですかこの子、早く治療してあげないとっ」

「そ、その必要はありません、これ以上の迷惑はかけられないので」

「そんな事を言っている暇はありません、いいから来なさいっ」


 そういうと、ララはサンゴの事をヒョイと持ち上げると、肩に担いで自宅の方へと向かって走り出して行ってしまい、サンゴの悲痛な声があたりにこだました。


 その様子に、ララという奴がとんでもない馬鹿力と、見境の無い善意を持っている奴だという事を認識した。


 ただ、そんな状況の中、俺にはちょっとした不安がよぎっていた。それは、サンゴの左手に宿った口の事だ。


 もしもエイティさんやララに見つかってしまえば、サンゴはその場で化け物扱いでもされかねない。


 そう思い俺もララの後を追うよに自宅に戻ると、玄関の扉の先で待っていたのはエイティさんであり、開口一番大声で怒鳴られた。


「こらぁっ、またどこかに行ってたのねジュジュ君っ」

「い、いや、これには事情が」


「言い訳は後で聞きます、こっちへ来なさい」

「いや、そのエイティさん本当にこれには事情が」


 俺は、エイティさんに腕を引かれてリビングまで連れていかれると、そのまま説教が始まった。

 エイティさんの説教中、サンゴとララの事が気になったが、二人はリビングにいない事から、どこか別の場所で治療を施されているのだろうと、よそ見をしていると、エイティさんは俺の耳を引っ張ってきた。


「ちょっとジュジュ君、聞いているの?」

「き、聞いてます聞いてますから」


「もう、夜に一人でお散歩なんてだめっ、いい?」

「は、はい」


 エイティさんはまるで俺を小さな子供をしかりつけるかの様に言ってきた。


 しかし、エイティさんはその言葉を最後に、どこかすっきりした様子で微笑むと、俺の手を優しく握ってきた。


「これでお説教はおしまい、あんまり心配かけないでねジュジュ君」

「・・・・・・すみませんでした」


 俺たちは会ってまだ二日、それなのにこれほどまでに愛を感じてしまうエイティさんという人の存在に、俺は完全に惹かれてしまっていた。


 それは、かつて母親との暮らしを思い出すかのようだった。

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