カミロの新しい職業

 刺客に襲われ、シャルロッテに保護されてから、カミロ・ロペスはギルド預かりとなっていた。

 職人である自分が、冒険者や用心棒たちが出入りするこの場所に身を置くことになるとは、夢にも思ってもいなかったし、最初の何日かは、客室のような一室で大人しくしていた。

 けれど、建国祭の騒動を境に情勢はがらりと変わった。

 あれほど人気だった宝飾店、サン=ジェストは突然の閉店となり、街では噂が飛び交っていた。

 もちろん、あの宝石が危険だったことはなんとなく知っていた。

 けれど、カミロにとっては――人生でようやく手に入れた職場だったのだ。

(……俺、これからどうするんだろう)

 王都ザルグラード。

 南部の片田舎から出てきたばかりの自分には、まだ見知らぬことばかりの巨大な街。

 人手の足りなかったサン=ジェストには運良く採用されたが、他にあてがあるわけではない。

 腕に覚えがある職人でもない。

「おう、カミロ。どうした? 元気なさそうだな」

 聞き慣れた声に、顔を上げる。

 ギルドマスター――屈強な腕と、熊のような風貌の男だが、声は意外にも温かかった。

「……これからの身の立て方を考えないと、と思いまして」

 カミロは苦笑しながら首をすくめた。

「いつまでも、ここでお世話になるわけにもいきませんし……」

「なんだ、そんなこと気にしてるのか?」

 ギルドマスターは腕を組みながら、苦笑混じりにうなった。

「そういや、ちょうど今、ギルドの受付係が足りなくてな……」

 その声に、カミロは思わず顔を上げた。

「あの、俺に手伝えるなら……なんでもします」

 その日から、カミロ・ロペスはギルドの新人受付係として、新たな一歩を踏み出すことになったのだった。

 まだ、未来は白紙だ。

 でも、少なくとも――ここに、自分の居場所を築けるかもしれない。



 受付カウンターに座るカミロの前に、依頼を終えたシャルロッテとアレクセイがやってきた。

 カミロは少し緊張しながらも、受付係としてきっちりと姿勢を正す。

「……あれ? カミロじゃん。受付で何してるの?」

 シャルロッテが目を丸くして笑う。

「実は……あれから、身の振り方を考えていたんですけど、マスターから受付が足りないって聞いて」

 カミロは照れくさそうに笑った。

「どう? 慣れた?」

 問いかけに、カミロは一瞬考えてから、はにかみながら答える。

「……自分には、人と接する仕事は向いてないと思ってたんですが……意外と、楽しいです」

 その言葉に、シャルロッテの顔がぱっと明るくなる。

「そっか! サン=ジェストも潰れちゃったって聞いたし、どうなるかと思ってたんだけど、ギルドに預かりにして大正解だったな! よかった」

 その言葉にカミロが小さく笑い、改めてシャルロッテの方を見て、姿勢を正した。

「グランヴィル様、あの時は……本当にありがとうございました」

 深々と頭を下げるその仕草は、誠実で真っ直ぐだった。

 けれど、シャルロッテは軽く手を振って、あっけらかんと笑う。

「気にすんなって! それより次の依頼なんだけどさ――なんかオススメある? できればさ、事件じゃなくて、こう、ズバっと魔物切るやつ!」

 シャルロッテが剣で切る様なポーズを見せた。

「こら、シャル。カミロも困ってるだろう」

 うしろに居たアレクセイがすかさずたしなめる。

 受付のカウンターに、静かでにぎやかな笑い声が広がった。

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