第5話町からの帰り道
将軍のベリータルトとミホとおれの分を購入してから、テラス席で紅茶とまた別のケーキをよばれてから帰ることにした。
ミホは、ベリーパイのアイスクリーム添えとチョコロールケーキ。おれは、アップルシナモンパイのアイスクリーム添えと本日のケーキ。二人とも、飲み物はストレートティーだ。
本日のケーキは、レモンケーキだった。
レモンのほのかな香りと酸っぱさがうまく調和していて美味かった。
当然、ミホは一口食べたいと言い出し、結局三口食った。
彼女だから許せるのであって、これが将軍だったら嫌味の五つや六つぶちかましただろう。
おれもまるくなったものだとつくづく思う。
それはともかく、たっぷりスイーツを楽しんだ。それから、帰宅の途についた。
馬でのんびり歩いている。今日も森の中は静かすぎる。
街道は、東の森を縦断するように走っている。それを通れば、もうすぐそこが隣国オルブライト国である。
わがアークライト王国も反乱につぐ反乱で、国内はけっして平穏でも安全でもない。オルブライト国も同様で反乱が起こって国内が騒がしいと風の噂できいた。
昔からオルブライト国は一枚岩で結束が固く、情報が外に漏れることは少ない。政治的軍事的なことはもちろんのこと、交易すら積極的に行わない。
自国である程度まかなえているのだとすれば、それはそれですごいことだ。
まぁ実質は、商人たちが他国の商人たちとうまくやっているのだろう。
いまどき、自国だけで生きていこうという方が難しいだろうから。
とにかく、オルブライト国は、他国といい意味でも悪い意味でもつるむことはなく、ほとんど鎖国状態だから、わが国も含めて国交をもとうともしなかった。
そのオルブライト国に反乱が起こっているとは……。
自国のことも含め、物騒な世の中になったものだ。
馬上、そんなことを考えながら風を感じる。
冷たさを増している風は、もうすぐ冬がくることを教えてくれる。
そのとき、それを感じた。
冷たい風に混じり、そのにおいを嗅ぎ取ってしまった。
「お父様、マーガレットが何かを感じ取っています」
そのタイミングで、すぐ前を行くミホの当惑した声が飛んできた。
マーガレットは彼女の愛馬で、脚の速い牝馬である。
おれの跨る牡馬のサンダーの耳に視線を落とすと、たしかにピクピクとそれを動かし知らせてきている。
なにかある、ということを。
「ミホ、おれのうしろまで下がれ。おれが先に行く」
ミホは、即座に従う。
そのまま進んだ。
なにかはあるが、うなじがザワザワしない。
ということは、危険なことではない。
おれのうなじのザワザワは、予言や神託よりも確実だ。このザワザワで、おれ自身やおれの周囲はどんな戦況でも生き残れた。
それはともかく、しばらくサンダーを歩かせるとすぐに「なにか」がなにであるか知れた。
赤栗毛の馬が所在なげに佇んでいるのを見つけた。どこかから逃げてきたわけではなさそうだ。鞍を置いているからだ。
「どうしたの? 迷子? 騎手を振り落としたとかかしら?」
おれに似て馬がなにより大好きな娘がやさしく声をかけると、赤栗毛の馬はホッとしたように耳を動かした。
馬は、耳で話をすることが出来るのだ。
んんんんん?
赤毛の馬は、訴えてきている。
自分が乗せていた主人のことを。
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