第4話 チョイス
博物館の天窓から中をのぞく、巡回してる見回りのライトが下を通り過ぎる。
フラロウス『ルーサー早く!』
心で言った言葉はお面を通してルーサーに伝わる。コレなら。声で気づかれることはない。
ルーサー『ちょっと、待ってて。』
ルーサーは天窓から素早くロープを垂らして、それを伝って中に侵入する。
サンジュ「その調子だ。うまくやれ。」
お目当てのブローチは壁にあった。フラロウスはそれを素早くルーサーの持ってきた袋に詰める。
ルーサー『やったね。』
すると、ブローチのかかっていたところから警報が鳴る。
サンジュ「しまった!重圧感知型だ!」
オセ「まずい!窓はだめだ!玄関は!」
フラロウスは焦った。
自分ひとりなら切り抜けられるが今はルーサーがいる。とりあえず、玄関に走った。
運良く、内側から開けられて外に飛び出した。
博物館の窓に次々に明かりがつく、後からは、警備の集まる足音が迫る。
オセ「閃光弾!」
フラロウスは腰のポシェットの中から取り出した閃光弾を博物館に投げ込んだ。
カッ!
警備員「ぐわぁ!?」
その隙に、フラロウス達は逃げた。
サンジュ「見られたか?」
フラロウス「ハァハァ……、お面つけてるから大丈夫じゃない?」
2人は物陰に隠れながら、息を整えた。追っ手はない。巻いたようだ。
オセ「初回からこれかよ!」
ルーサー『ごめんよ、僕のせいだ。』
落ち込む新人に猿は言葉をかけた。
サンジュ「不可抗力だ。君のせいじゃない。」
オセが後でサンジュに何やら嫌味を言っている。小さくて聞き取れない。
サンジュ「……とりあえず、Cルートでアジトに帰ってこい。後に気をつけろよ。」
シエルが現着したのは明け方だった。
シエル「ローラ、状況は?」
ローラ「盗まれたのは沼の魔女のブローチです。」
シエルは釘だけの壁を見た。
ブローチの日焼け跡だけが残っている。相当古くからここにあったようだ。
シエル「侵入経路は?」
ローラ「コチラです。」
天窓から伸びるロープ。
シエル「犯人は人間か?」
魔女関連の事件だからケースリーの犯行かと思ったが……
シエル「うーん、アソコからか……」
天窓をあらかじめ開けておくにも、どうやって?
はしご?現場にハシゴはなかった。鈎のついたコレを再利用?それもあり得る。
シエル「魔法で空を飛ぶのがないか魔導資料館で調べといてくれ。ろ」
ローラはシエルの長い尻尾を見ていた。
自分でも、気づかなかったが、考え事をしてる時はシッポを左右にゆっくり振っていたらしい。
長いフサフサのシッポが揺れる。
それを見ているローラも心なしか左右に揺れている。
シエル『……自分でやろう。』
今日はレストランでランチ。
シエルの昼時間に合わせて、警察署の近くの店で待ち合わせ。
フラウ「モー、ヤになっちゃう!」
フラウは仕事の失敗を上司に怒られ憤慨してるらしい。
スパゲッティソースがほおについたまんまだ。チャトラの毛皮でもかなり目立つ。
シエル「ソレはさすがに理不尽だね。」
彼女の知らぬところで起きたミスを彼女のせいにされているのだ、怒るのも当然だ。
シエルは黙ってフラウの頰を拭った。
フラウ「あ、ありがと。」
フラウは恥ずかしかったのか、赤くなった。
アジトに集まった四人。
その中でもオセは興奮した様子だった。
フラロウス「オセ、まだ怒ってるの?サンジュが不可抗力って言ってるじゃない。」
オセ「ソレはもういいんだ。俺が言ってるのは天窓の件だ。やっぱりロープはダメだぜ?!」
サンジュは低い唸り声を上げた。
ルーサーは縮こまって周りの大人達の様子をうかがっている。
隣でソレを見ていたフラロウスがそっとルーサーの手を握った。
サンジュ「俺のせいだ。焦っていたのかもな。今度から、ルーサー君には浮遊魔法を習得してもらう。」
オセ「何にしても、痕跡が残るぜ。サンジュ、やっぱり、フラロウスだけにしとこう?」
ルーサーの目に光るものを見つけてフラロウスが声を上げた。
フラロウス「この子は、ルーサーは連れて行く!私の仕事には必要だもの!」
オセも寄り添う二人に何か感じるものがあったのだろう。ため息交じりに後ろ足で首のノミを掻きハラッた。
オセ「……分かった、わかったよ。浮遊の専門家の魔女の紹介をしてやるよ。」
遥か昔、魔女は幽世に身を隠した。
現し世から魔女達にアクセスできる方法は限られている。
オセ「現行の魔法使い共は、ほとんど首輪付きだからな。足がついちまう。」
後日、オセに連れられてフラロウスとルーサーがやってきたのは郊外の静かな池とほとりだった。
そこに魔女が倒れた木に腰掛けて待っていた。
木漏れ日の中、コチラに気づいて爽やかに笑いかける。
魔女「こんにちわ。ミリシャ(猫型亜人の古い俗称)。こんにちわ、小さい子。」
フラロウス「私が7代目、黒のサクラ猫でこっちは助手のルーサー。」
ルーサー「こんにちわ。」
魔女「まあ、そしたらあなた達が依頼を引き受けてくれたのですね!?」
魔女はルーサーの手を取った。
魔女「お師匠様のブローチを取り返せました。ホントに、ありがとう。胸の凝りが取れました。」
浮遊魔法を教えに来た魔女はリサに仕事を依頼した本人だった。その胸にはあのブローチが光っている。
魔女「あなたたちのおかげです、感謝しかありません。あら?」
ルーサーはその場に泣き崩れた。生まれてこの方、人に感謝されたことがあっただろうか?
自分の存在が初めて肯定された。
自分の働きが誰かのためになった。
フラロウスもしんみりする。貧民街でシエルと出会った時のことを思い出した。
オセ「まだまだ、これから働いてもらわにゃなんねぇ。ルーサー、しっかり勉強しな。」
ルーサー「はい。」
ルーサーは握りこぶしを作って立ち上がった。
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