第3話 セイギ

サンジュ「よく来てくれたルーサー君、君に魔法剣を教えるサンジュだ。」


オセ「オセだ。俺は魔法を教えてやる。しっかり励めよ!」


ルーサー「はい!」


アジトにルーサーを連れてきてしまった。


コレで彼は後戻りできない。フラロウスは3人のやり取りを遠巻きに見ていた。

正確には猿の亜人と猫と人間の子だが。何とも奇妙な組み合わせだ。


フラロウス「がんばれ、ルーサー!」


フラロウスはサンジュとオセの長く苦しい修行を思い出した。けど、ルーサーの場合は何か違った。


オセ「……おい、こいつ。」


サンジュ「あぁ、間違いない。魔女が混じってるな。」


サンジュとオセの二人は、すでに魔法剣の水を体得し、剣に見立てた棒で水を大気中に留めるルーサーを見やった。


ルーサー「どうしたの?」


サンジュ「なんでもない、君の習得の速さに驚いてたんだ。」


サンジュとルーサーの実技講習は続いた。


オセ「フラロウス、お前、コイツをどこで見つけた?掘り出しもんだぜ?」


フラロウス「そうなの?貧民街で金貨全部と交換した甲斐があったってとこなのかしら?」


オセ「コレなら一週間もありゃ十分、使い物になるぜ。」


フラロウス「サンジュ、次の仕事ってどんなの?」


フラロウスはルーサーを指導するサルに聞いた。


サンジュ「あー、リサのお得意様からの依頼でなぁ、大事にしてたブローチを取り返すって話だ。」


ルーサー「お姉さん達、正義の味方なんだ?」


オセ「おう、そうだぜ!お前さんも正義の味方の仲間入りさね。」


オセはお調子者だ。


フラロウスはその次の仕事はどう言いくるめるのか、今から心配になった。


さすがに疲れてきたのかルーサーは息が上がり始めた。


サンジュ「これは運命だ、君は選ばれてここへ来たんだ。フラロウスの前に君が現れ、我々の指導をこなしていく。まさに神に選ばれたんだよ君は。」


ルーサー「僕が?そんなにすごいの?」


マインドコントロールだ。


疲れたりして、頭が働かない状態で自分は特別だと思い込ませる。


サンジュはその手のことにも精通していた。


フラロウスは罪悪感を感じずにはいられなかった。

ソレを観察していたオセが言う。


オセ「必要なことなのさ。フラロウス。ルーサーは自分の意志でここへ来た。お前の役に立ちたいと思ってここへ来た。悪いことじゃない。」


その日は触りだけのつもりだったので早めに終わった。


次の日からは他の道具を交えた実技だ。


フラロウス達のねぐらへの帰り道、フラロウスはいいことを思いついた。


フラロウス「ルーサー?これから私と文房具屋に寄らない?」


ルーサー「文房具?」


フラロウス「私達で字をお勉強しましょう!」


ルーサー「ホント!?やるやる!ぼく、あの時、勇気を出して、お姉さんに声をかけてホントによかったよ!」


人生が変わる。


それはちょっとした勇気がきっかけになるのかもしれない。少年の瞳はキラキラ輝いている。


ルーサー「ホントにありがとう!お姉さん!」


二人は文房具屋に立ち寄ると字の練習帳を何冊か見繕ってねぐらで勉強をしだした。始終楽しそうな声が聞こえた。




いつものカフェ、いつもの飲み物、

少し、単調かな?シエルは思案した。けど、フラウはなんだか楽しそうだ。


フラウ「でね、その子、覚えるのがとても早いの!」


彼女は副業で家庭教師も始めたという、とても充実してそうだ、シエルは楽しそうに話すフラウを眺めていた。


輝いてるなぁ、素敵じゃないか?彼女は。


お持ち帰りしなよ?きっとついてきてくれるさ。


天使と悪魔は協力して俺をこの子と一緒にしようとしてくれている。けれど、ソレは今なのだろうか?


シエル「素敵だ。」


フラウ「え?」


シエル「あ、いや、素敵な関係だなあって!」


フラウ「え?あ、そう?」


2人は照れてしばし黙った。




シエルは警察署の警視長の部屋に呼ばれた。


シエル「ゴドウィン警視長、話というのは?」


ゴドウィンと呼ばれた、体格のがっしりした初老の人間の男はブラインドから外の街並みを立って見ていた。


ゴドウィン「君の意見を聞こう。あの富豪の一件、われわれの手に負えそうか?」


シエル「現状では無理です。」


ゴドウィンはシエルに向き直って席についた。


ゴドウィン「こちらも魔女の協力が必要、ということか?」


シエル「はい。」


うーん、ゴドウィンは手を組んだまま。机に両ひじをついた。


ゴドウィン「犯人の目星はついてるのか?」


シエル「おそらく、ケースリーです。」


沈黙。


深いため息とともにゴドウィンは口を開いた。


ゴドウィン「対策本部を設置する。君が指揮を取れ。」


短く返事をするとシエルは敬礼した。


ゴドウィン「魔女の手配はコチラでする。しばし、待ってくれ。その間、無茶はするなよ。」


シエルは無茶なことはしない。


布石を打って、外堀を埋めて、真綿でじわじわ首を絞め上げるように犯人を追い詰める男である。と、この人は知ってるはずだ。


笑うところか?


ゴドウィンとシエルはお互いに目が合うと笑いあった。




次の仕事は博物館に展示されているブローチだという。

リサが持ってきた依頼となると魔女関係だろうか?

詳しい話は聞かない。予告状も出さない。


ソレがこの窃盗団の掟だった。


サンジュ「予告状?警備が厳重になるだけだ、何のメリットもない。」


ルーサー「正義の味方なのに予告状?」


オセ「義賊ぽくていいじゃねーか。」


危険すぎる、として却下された。


“予告状は出さない”。


ソレがあったからこそ、この窃盗団は7代目まで続いてきたのだろう。

フラロウスは初代が持っていたとされる不可視マントを羽織った。


サンジュ「そうだ、フラロウス、ルーサー、コレを渡しておこう。」


サンジュは2人に飾り気のないお面を渡した。


フラロウス「これは?」


サンジュ「幽世通信ができる。被ってみろ。」


フラロウスがお面をつけるとオセの声が脳裏に聞こえてくる。

ルーサー「これはスゴイや!」


オセ「コレで俺達もサポートがしやすくなる。」


サンジュ「決行は明日だ。各自、地図を頭にたたき込め。解散。」

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