教科書ミッシング・Social・Network・Solve
コソコソ話す革命作戦1
十月のあの日。
言ノ葉に頼まれ、生徒会リコールに対する問解の捜査を開始して、二週間ほど経ったろうか。初週は何やら忙しかったが、今週は暇も暇だった。何もなかった。あるとしたら、もうすぐ解決する事件の捜査程度だ。
十月も折り返し、生徒会総選挙まで残り二週間と少し。十一月の選挙までに、僕らはこのリコールと、それに付随するであろうストライキ、生自総連の事件も解決しなければいけない。
だが、未だに、僕は何も貢献も、捜査も出来ずにいた。全く手を付けていなかった。
いつものように、窓際の机に、今度は机に座って窓を見る。今回は、いつもよりも遅い時間の待ち合わせだ。既に黄昏が始まり、少しずつ日が落ちていくのをただ見る。見続ける。
僕は考える。
これからの人生の行動を。考えるまでもないが、考える。どういった行動を行えば、自分の人生は楽しくなるのか。劇的なものになるのか。そして、僕の実績。
どうやら僕は事件を起こしたり、誠実な人間よりもよっぽど利己的で、他人への評価に貪欲だ。それは考えるまでもなく、決まっている。
最初は僕もこんな人間ではなかったなと回顧もしてみる。懐古ではなかった。僕はあれを、今でも懐かしむことが出来ない。今もその恐怖と憎悪は目の前にいる。窓の外で、僕の隣で、僕をへらへらと笑いながら見ている。それは誰か個人ではない。それは、あの日、僕に向けられた無数の視線が作り出したトラウマの集合体。それから、早く解放されなければいけない。僕が利己的になってしまった原因を、早くても十月中に、神のいない間に、僕は全てを終わらせなければいけない。そのための問解だ。そのための中学校生活だ。僕がこんな人間に堕ち、評価を貪るために問解になり、ましてや今はこの学校を崩壊に導いている。そんなマッチポンプ人間が、この僕だ。
笑みがこぼれる。
そんな人生が、そんなマッチポンプが、楽しくってたまらない。
誰かの感情に便乗して、むなしく人生を終えるはずだった僕の中学校生活は今や、身勝手で自分の意見がまかり通ってしまうようになった。
こんな人間にもついてくる人間がいてしまう事実が。楽しくってたまらない。
やはり人生というのは楽しくてなんぼだ。楽しくなければ意味が無い。だからこそ、僕は危険な道でも、自分勝手に、進み続ける。道を勝手に作っていく。もう、僕は人生を楽しみ尽くしてしまったのではないかと思う程に、今の僕は心を躍らせている。そしてそのピークは、更に上がる。
あいつは行動力がある有能だが、紛れもない馬鹿で、救いようのない馬鹿だ。あいつがまさか僕の冗談話を意気揚々と、威風堂々と実行してしまうとは。あのような中途半端な過激を用いてしまうとは。
これで明確な対立関係は完成した。僕は生徒のために、惣渠中学校のために、教師と生自総連を手玉にとって楽しみ狂い、自分の実績として学校に名を刻む。それが、それが僕の残り少ない中学校生活の最後の目標。
復讐と自己実現だ。
しかし、遅い。僕が呼びつけたというのもあるだろうけれど、にしてもではないか?まあ、あいつもあいつで色々と忙しいだろうし、もう少し、待っても見よう。こういう時、連絡手段があれば良いのだが、如何せん中学校、しかも私立。そんなことを認可してくれるはずもない。だからこそ、あいつも尊も、ビラだとかの前時代的な媒体で対抗せざるを得ない。
ここはもう少し、活動時間と、活動範囲を広めてみるべきか。だが、それをしてしまうと、それはそれで教育委員会だとかの介入が考えられる。
危険な道だ。楽しそうではある。一応、提案はしてみるか。
歴史の教科書を見ながら、そんなことを考えて、時間を少しずつ消費していった。
十数分、数十分ほど経っただろうか。黄昏がどんどんと進み、太陽は半分ほど隠れている。それほどの時間を待っていたが、やっとドアが音を立て、一人の生徒が入ってくる。転がり込んでくるような勢いだった。
やっと来たか。話したいことは山ほどあるが、こんな時間だ。手短に行くとしよう。
「遅いぞ。待ちくたびれた……二週間ぶりだな。いや、この関係性だと、九月二十日ぶりか?なあ、晏屋」
僕の声が、音楽室に一瞬響く。転がり込んできた生徒は、晏屋煌綺。生自総連代表であり、ストライキの首謀者。そして、僕のスポークスマン。
「すみません、遅れました。少々、教師に問い詰められていまして」
ああそうか、と適当な相槌を打つ。確か晏屋は教師に脅迫を受けていたと、言ノ葉が言っていたな。流石にここまで大規模なことをやってしまえば、しょうがないとは思うが、彼らも一生徒によくもまあここまで非情な行為を働く。
「気を付けたほうが良いぞ。今、生徒会リコールも、ストライキも、生自総連の件についてもお前の名前が挙がっている」
「それは、俺は一度身を潜めた方が良いんでしょうか」
晏屋は少し眉をひそめて心配そうに僕に聞いた。やはり馬鹿ではある。彼らから貰った好機を恐ろしいから手放すなど、愚かだ。
「いいや、お前はずっと最前線で戦い続けるんだ。いいか、これは好機だ。教師がお前に圧をかけているのも、生自総連のことを調べているのも、全ては我々の力に恐怖し、我々の影響力を危惧している証拠だ。であれば、それを次は生徒に誇示することで生徒らは我々に付き従うことになる。これほどの絶好のチャンスは無いだろう?」
「ですが……」
恐ろしいか。そりゃあ恐ろしいだろう。僕のように生自総連との全ての関係が不明瞭になっているわけでもない。教師の言った停学も、十分にあり得る。だが、僕に従った時点で、もう逃れられない。その恐怖は楽しさで塗りつぶすしかない。
「必ず成功する。もし失敗したとしても、その時は僕の名前を出すと良い。責任は全て負う」
分かりました。と少し不安そうに声を潜めながら晏屋は言う。そんな腰が引けている晏屋を見て、少し、説法をしてやることにした。
「もう我々はストライキまでしてしまったんだ。最初は民主的なクーデターを画策していたが、もう既に、我々は過激な道に踏み込んだ。もう逃げられない。あるのは絶対的な勝利それだけだ。そして、そのストライキの最終決定者は、無論お前だ。もう逃げられない。だが勝てば生徒の理想郷は完成する。お前はどうするんだ?ここで、教師の圧力に屈するのか。それは、お前も嫌だろう。そして僕も許さない。もう逃げられないんだ。ならば、我々はここから先どうするべきか。決まっているだろう。同じようにストライキを行い、教師と生徒会を批判し、生徒を味方につけ、革命を成功させる。学校生活の安寧を。学校生活の問題の最終的解決を。来たる生徒革命で、全てを達成させる。分かったか?そして、今回話したいことはそれだ。ここからは手短に行くぞ。僕は一つ提案したい。それは生徒への情報拡散媒体を新たに使用しようという提案だ。今はビラと惣渠新聞。しかしそれだけではまだ不十分だ。全ての生徒と教師に伝わるような、そんな情報拡散媒体。思い当たる節はあるかい?」
聞くと、晏屋はしばし悩み、一つの案を僕に伝える。それは、僕の考えていた案とは違った。それに、僕よりもよっぽど危険な選択肢であった。
「……SNSで宣伝したり、教師の批判を行う、とかですか?」
吹き出してしまいそうだった。
やはりこいつは、頂点の器ではない。
僕がいなければ、この生自総連は三秒で崩壊する。どこかに、そんな国があったなそういえば。まあ、そんな、僕が卒業した後の中学校などどうでもいい。生徒もどうでもいい。僕は僕の実績が増えればそれでいい。そのためには、その手法は少々荒っぽすぎる。
「お前がやりたいならそれもいいさ。だが、僕の提案は違う。僕は、放送室をジャックしてみれば良いんじゃないかと、そう思っているんだ。それもストライキの三日前ほどから毎日放送室でストライキの宣伝と、教師に対するネガティブキャンペーンを繰り返すんだ。さすればおのずと、教師の鬱憤に耐えかねる人間は我々に従うさ」
今までは、これも、危険であることと、放送局に同志がいなかったからか行動を渋っていた。しかし、九・二四ストの際に多くの同志を獲得した。その中に、数人放送局の人間がいたのだ。だからこそこれからは、放送をプロパガンダ媒体として利用することが出来る。
「放送室のジャックですか。そうですね。やってみますか。放送局に連絡してみます……で、次のストライキはいつ行うんですか?次の考査は二月ですし、先輩の受験前の方が良いですよね。だったらこの月にやるしかないと、思うのですが」
「そうだな……僕も一つ、解決しておきたい事件がある。日時は……来週の、金曜日にしよう」
来週の金曜日。
それは、この惣渠中学校の頂点である学校長を超える最大権力者、学校法人惣渠学園理事長の視察日。
楽しみだ。全てが終わる日が。
待ち遠しい。全てが崩壊する日が
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます