第6話 ほんの少し、違うだけ③
いざ触ってみた真白な翼は、見た目通りの柔らかさと、思っていた以上の羽の散らかり具合だった。
どうやら本当に困っていたらしい。
「いやぁー、助かったよー、善くん。」
「善くん?俺のこと?」
「だって下の名前、善治郎でしょ?長いから、善くん。」
「長いなら、苗字で呼べばいいんじゃない?犬巻さんも、鉄矢さんも『越沼』って呼んでるし。」
「なんか、それはイヤ。」
「ええ……」
そんなちょっとした話をしながら、俺は手渡されたプラスチックの櫛でバラバラな形の羽を揃えて行く。
A型の血か、もともとの整理好きな性格のせいか、ちょっと楽しくなってくる。
「今まではさ、しずに整えてもらってたんだけど、ほら。あの子生徒会だから忙しくて。」
「へえ、生徒会に入ってるのか。鉄矢さん。」
「うっそー、知らなかったの!?二年間同じクラスだよね!?」
そういえば、そうだったような。
「なんかごめん……」
「それは私じゃなくて、しずに言ってあげてー」
「へい……」
俺のヘタれたような返事がウケたのか、美作はケラケラと笑っていた。
なんか、変にどもらずにギャルと喋れてるな、俺。なんでだ?
少し手を止めると、彼女は前を見たまま「どしたー?」と羽を動かす。
その度、ふわり優しい香りが俺を包んだ。
「…………あのね?覚えてる……?」
唐突に俺に向けられた視線。美作は真面目な顔で俺を見ていた。
「ごめん。何を?」
「私」
「え……ごめん、どっかで会ったことあった……?」
「うん、覚えてない……?」
真剣な顔はみるみるうちに赤くなっていき、ふいと前を向きなおしてしまった。
気まずい空気が流れだす。圧倒的に俺のせいだ。
なにか言葉を紡ごうと、内心パニック状態で、翼を整え続ける。
「……もう大丈夫!ありがとね……!」
急いで立ち上がった美作はテーブルに置いた指定カバンを肩にかけ、部屋の扉を開けた。
何か言おうと口を開いても、言葉が浮かばない。
「……あのね?」
彼女は俺に背を向けたまま、耳まで赤くなっていた。
「また、ブラッシング、お願いするから!」
強めに閉じられたドアのこっち側で、俺は1人ポカンとしていた。
「女の子って……まじで分からん……」
*
なんどかもつれそうになる拙い足取りで私はこの長い木製の廊下を走っている。
私は彼に、とんでもないことを聞いてしまった。これは告白に近い言葉ではなかったか。まるでドラマとかマンガで見る、展開のようで……。
ぐちゃぐちゃになった頭で、自分が本棟の廊下にいることに気づいた。
そして前からちょうど、自身の親友である「鉄矢しずく」が歩いてきていることに。
混乱した状態の自分を、しずくは見つけるや否や小走りで近づいて心配する。
「どうかした?」
「ごめん……、なんでもない」
「そっか……」
なんとなく察しがついているようだ。流石は私の親友。
親友だからこそ…………
「――ごめんね」
「え?」
小さく呟いた独り言は、彼女の耳には届かない。彼女は機械なのに、そういうところは人間らしいのだ。
「なんでもないよ。」
最低で、屑で、狡猾な、こんな私も信じてくれる程、人間より人間臭いのだ。
*
ふと、下校のチャイムが鳴っていることに気づく。
スマホの時計は18時30分と書かれ、俺たちのお終いを告げていた。
結局、彼女の言っていたことは思い出せないままだ。
俺は妙な胸の突っ掛かりを覚えたまま、部屋の鍵を閉めた。
「お、越沼ー」
そんな友達を呼ぶみたいに、友達のいない俺を呼ぶ人は1人。
「先生。お疲れ様です」
「どうよ、部室は」
「なかなか快適ですね、静かですし」
「そりゃあ良かった!じゃあ鍵は先生が預かっとくな」
そう言って、鍵を指にかけ、回しながら笑う中富先生。
「そういや」俺が特に何も言わずに振り返って、帰路に着こうとすると、先生は声をかけた。
「どうかしましたか?」
もう一度先生の方をみると、彼女は少し黙ったまま、俺の目を見た。
「……いや、なんでもない。気をつけて帰れよ」
「……?はい」
一体みんなどうしてしまったんだ。今日は変な日だ、と思いながら今度こそ帰路に着く。
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