第5話 墓参
その翌日も、杉田真由美はボストンバッグを手にして外出した。尾行の方法は概ね昨日と同じだったが、尾行するメンバーは何人かが入れ替わっていて、より気付かれにくいように工夫されていた。この日彼女が向かったのは、横浜を飛び越えて、逗子方面だった。坂を上がった川沿いの家の前に、彼女と、おそらく同伴の黒猫を乗せたタクシーが止まり、彼女は降車場所から細い未舗装の歩道を数分歩いて、安っぽいブロック塀の外壁に囲まれ、白いペンキがはがれ、錆が浮き出た門と、黄ばんだ白壁が、相当くたびれた印象を醸し出す、戸建住宅へと入った。
この戸建住宅も、昨日の横浜の家と同様に、真由美の別荘なのかもしれないが、見た目にはとても別荘と言えるような雰囲気の家ではなく、普通の庶民の一軒家という感じだった。この家に関しては、表札は出ていなかった。興味を引かれたのが、家の西側には小さな川があったことで、川面までの深さが5mほどあり、河岸には柵もなく、そのまま飛び降りることもできた。それにしても、なぜ真由美はこの家に何をしに来たのだろうか? 横浜の家は、別宅として訪問したと考えれば、訪問した意味も理解できるが、この家に来たことに関しては、彼女の目的を推測することが困難だった。
家の出入り口は1本しかなく ミクルは道が未舗装となる手前の電柱の影に隠れて張り込んでいたが、杉田は1時間ほどで家から出てきて、迎えのタクシーに乗った。その後、彼女を乗せたタクシーは、花屋の前で停車すると、彼女は下車して花束を買い、再びタクシーに乗車すると、今度は相模原方面に進み、到着した場所は、意外にも霊園だったその日は彼岸でもないただの平日で、墓参りの人はほとんどなく、私は霊園の入り口で、その姿を見失わないように、遠巻きに追尾するしかなかった。真由美はある墓の前に立ち、用意した花束を供えると、長い間手を合わせていた。そして墓参りを済ませると、そのまま都内の自宅に戻った。
杉田が去った後、彼女が手を合わせていた墓石を確認してみたところ、坂本家と墓誌があった。また墓石の横に、3人の名前と、死去した日時が彫り込まれていて、特にその中のひとりである坂本喜朗、享年46歳、という人物が、特に印象に残った。その人物がなくなったのがおよそ1年前と、比較的最近だったからだ。彼女が関わっていて、墓参りの目的の人物であるとすれば、彼がその人である可能性が高いと思われた。
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