第18話 メッセージ

 翌日の午前中の休み時間。珍しく麦島奈保美からメッセージが来た。


麦島『元気にしてる?』


萩原『なんとかね』


麦島『そろそろ戻ってこれる?』


萩原『もう少しかかるかも』


麦島『そっか。だったら、放課後会えないかな』


 どういうことだろうか。


萩原『二人で?』


麦島『うん。少し話したい』


 何か話があるということか。


萩原『わかった』


麦島『マックで待ってて』


 麦島さんはまた高田有佐のことで何か話があるのだろう。俺は放課後、マックに行き、麦島さんを待った。


 しばらくすると麦島さんがコーヒーを手にやってきた。


「待った?」


「少しね」


 麦島さんは俺の前に座った。


「……こうやって話すのも久しぶりだね」


「まあね。それで、話って?」


「話?」


「うん。何か話があるんだろ?」


「うーん、別に無いって言うかあるって言うか……単に萩原君と話したかっただけだよ」


「そ、そうなんだ……」


「うん。一時期、私たち、教室でも話してたでしょ。ああいうのもなくなって、何か寂しいなって思っちゃって」


「そ、そうか……」


「うん……私、結構、楽しんでたのかも」


 麦島さんが俺との会話を楽しんでくれていたと聞いて嬉しくなった。


「俺も楽しかったよ」


「そう? ほんとに?」


「ほんとだよ」


「有佐の代わりに話してただけでしょ」


「そんなこと無いよ。麦島さんの優しさに俺は助けられた。ほんとに感謝してる」


「そっか……だったら、また話しかけに行ってもいいかな」


「え? 教室で?」


「うん。だって、有佐はともかく、私は別にいいんでしょ?」


 高田さんとは距離を取ってもらうようにしているが、麦島さんとそうする理由は無かった。今までは麦島さんが勝手にそうしていただけだし、俺には何も言うことは無いはずだ。


「そうだけど……」


「迷惑……かな?」


「そんなことないよ。正直、嬉しい」


 麦島さんと話していた時期、俺の心は軽くなった。あのときのことを思い出していた。


「そうなんだ。だったらいいよね?」


「うん、わかった」


 こうして、麦島さんが以前のように話しかけてくれることになった。


◇◇◇


 翌日の朝、教室に居た俺に高田さんと麦島さんが近づいてくる。いつものように「おはよう」の挨拶をし、2人は自分の席に着いた。と思ったが、その後、麦島さんが俺の席に来る。


「改めておはよう。ほんとにいいの?」


「いいよ」


「わかった。じゃあ、遠慮しないからね」


「うん」


「じゃ」


 そして一限目の休み時間。麦島さんが俺の席にやってきた。


「お疲れ」


「お疲れ様」


「さっきの問題分かった?」


「うーん、ちょっと難しかったな」


「じゃあ教えてあげようか」


「できれば、頼む」


「ちょっと教科書広げて」


 麦島さんが俺に近づく。俺は離れようとしたがさらに麦島さんは近づいてきた。麦島さんの匂いが感じられる距離だ。


「うん、このページ。ここの……」


 麦島さんが俺に説明してくれる。俺はなかなか説明が飲み込めず時間がかかってしまった。


「わかった?」


「うん、ありがとう」


「また、いつでも説明してあげるから。あ、もう時間だ。いくね」


 麦島さんは自分の席に帰って行った。


 また、次の時間にも麦島さんが来た。


「眠くなかった?」


「ちょっとね」


「昨日は早く寝たの?」


「いや、少し寝不足」


「そっか。誰かと電話してたり?」


「そんな相手居ないよ」


「じゃあ、私が電話したら良かったかな」


「そしたらますます寝不足になるよ」


「そっか。そうだね」


 こんな雑談をかわした。


 こんな感じで、俺は麦島さんとまた話すようになった。



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