9.終点、Re:邂逅、告白

 本日はキンキ鉄道をご利用いただき、まことにありがとうございました、との車内アナウンス。間もなく終点、星の底、星の底でございます。お忘れ物ございませんよう、お気をつけください。

 荷物をまとめて持って、自動ドアの前に立つ。黒い塊が胸ポケットの中でもそもそと動いている。通りすがりの乗務員に空になったカクテルグラスを渡す。そのついでに、なぜこの列車で働いている人はみんなうさぎなのですか、と聞くと、鉄道の仕事に就くのは月の住人が多いのです、と答えたので、津島は納得した。

 列車が駅に入る。小さく寂れた無人駅。白い石を組んで作られている。空気の抜ける音がして、扉が開く。駅に降り立つ。

 行く当てもないので、津島はベンチに座った。いろいろなことを考えた。これからのこと、この旅のこと、そして、柚希のこと。

 ふとホームの端に目をやると、列車の行ってしまったホームでたたずむふたりの人影があった。話しかけようと思って立ち上がると、ふたりが振り返って、すると、津島のところに駆けてきた。黒い髪を肩まで丸く伸ばして白いニット服を着た背の高い男の子は柚希で、長い髪を下ろした女の子は姉様だった。

 津島と姉様は駆け寄り、抱き合った。

「ほらね、大丈夫だって言ったでしょ?」

「うん、よかった。もう会えないかと思ってたんだ」

「ありがとう。葉くんはいい子だな」

 姉様はそう言って津島の頭を撫でた。

「おいおい、俺をひとりぼっちにするなよな」

 柚木が津島の肩を叩いてそう言った。津島と姉様は身体を離してくつくつと笑った。

「それで、葉ちゃん、お前はどうしてこっちに来たんだ?」

 津島は柚希に向き直った。

「柚希、君に会いたかったんだ」

「どうして?」

 柚木がおだやかに尋ねた。

「君が自殺した翌日、僕は通夜に行かなかった。君の死に顔を見て、君が死んだということを、はっきりと認めることが怖かったんだ。でも、今ではそのことをとても後悔している。すまなかったと思っている。僕は行くべきだったんだと思う、どれだけ辛くとも」

「そうか。それが聞けて良かった」

「僕も少しは成長したんだ」

「姉様のおかげで」

 柚木がそう言うと、姉様は片目をつぶって、津島の顔をのぞきこんだ。それから、柚希はベンチの背もたれに座りながら言った。

「お前から話したいことはそれだけか?」

 津島はうつむいて、しばらく考えてから言った。

「いや、違う」

「なんだ? なんでもいいから言ってくれ」

「柚希、僕はあの頃、君のことがとても好きだった。恋していたんだと思う。でも、それとは反対に僕は君のことをあまりにも知らなかった。君のことを好いていたがゆえに、そのことはとても苦しかった。歪んだ感情になって、僕を殺しそうにさえなった。だからいま聞きたい。単刀直入に言う。柚希、君はどうして自殺したんだい?」

 津島は柚希の顔を見守った。どこか遠くで踏切の音がした。大きな夏の風がそれを運んできた。柚希の髪が風になびいた。星の子がいつのまにか姉様の横にいて、手を引いてあちらへ行こうと誘っていた。柚希がようやく重い口を開いた。

「それは言えない。もう忘れてしまったからね。こちらの世界に来るとき、葉ちゃんに関するもの以外の生前の記憶をこの世界に譲り渡す契約を結んだんだ」

「そうか」

「世界はそうやって生きている。この世界にはそのために、知りたくても知れないことも、知りたくても知らない方がいいこともたくさんあるんだ。でも、あまり気に病まないでくれ。だって、俺は葉ちゃんのことが好きで、葉ちゃんも俺のことが好きだ、それで十分じゃないか」

「そうだね。たしかにそれもそうだ」

 そのとき、黒い塊がもぞもぞと動いて、胸ポケットの中から顔を出した。それを見ると、柚希も姉様も声を出して笑った。

「なあんだ、お前、そんなやつ連れてたのか。どこで拾ったんだ?」

「違うよ。勝手に僕のポケットに入ってきたんだ。追っ払ってもついてくるから、仕方なく連れてるけど」

「かわいい道連れだな。大切にしてやれよ」

「ほんとに。柚希の言う通り、大切にするのよ」

 姉様はそう言うと、人差し指の先で黒い塊の頭を撫でた。黒い塊は嬉しそうに頭を振った。柚希はそれを見て笑いながら言った。

「それで。お前はこれからどうするんだ?」

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