第3話 すれ違いの温度、同じ夜空の下で

第3話 すれ違いの温度、同じ夜空の下で


年明けすぐ、アーバン・リンクス社内では、新規プロジェクトが立ち上がった。


企業向けの不動産戦略をトータルで提案する“法人プロジェクトチーム”。


そのリーダーに指名されたのは——田島美咲だった。


営業歴はまだ浅いが、提案力と客対応の丁寧さが評価された結果だった。


「田島、お前に任せる。プレッシャーもあるが……期待してる。」


大橋課長の声には、珍しく“信頼”の温度があった。


美咲は覚悟を決めた。「営業女子」ではなく、“チームの顔”として戦う日々が始まる。



週の半ば、柴田からチャットが届いていた。


> 田島さん、最近どうですか?

> 例のプロジェクト、始まりました?


3日後、美咲はようやく返信を送る。


> すみません、バタバタしてました💦

> はい、リーダー任命されて……今ちょっと、いっぱいいっぱいです。


> それは……おめでとうございます。

> でも、無理しすぎないでくださいね。


柴田の返信は早かった。でも、どこか距離があった。


それは、美咲の中の“余裕のなさ”がつくり出した壁だった。



プロジェクトは難航していた。

チーム内の連携ミス、大口顧客の仕様変更、予算再交渉——美咲は連日22時を回っても会社に残っていた。


そんなある夜、スマホの通知がふと目に入った。


> 【柴田優人】

> 田島さん、今週末もし時間あったら……話したいことがあって。


美咲は10秒ほど画面を見つめて、それを閉じた。


“行けない”とは言えない。でも“行きたい”とも素直に言えない。


返事は、結局送れなかった。



その週末。

美咲はオフィスの会議室で、ひとりPCに向かっていた。報告資料を仕上げながら、ふと窓の外に目をやる。静かな夜空。都心の星は、少しだけ瞬いていた。


同じころ、柴田は代々木の夜景を見下ろすカフェに一人でいた。

向かいの空席に、目を落とす。


「……今日は来ないか。」


誰に言うでもない独り言。

手にしたマグカップから、少しだけ熱が逃げていった。



その夜、美咲は帰宅後、スマホを手に取った。柴田とのチャットを開く。入力欄に、ゆっくりと指を走らせる。


> ごめんなさい。

> 本当は行きたかった。話したかった。

> でも、うまく自分の余裕を持てなくて……。


そう打って、指を止めた。


送信せず、画面を閉じる。

それは、“仕事”と“心”の間で揺れる、美咲なりの精一杯だった。



すれ違いは、決定的な別れではない。

ただ、同じ想いでも、歩幅が合わない時間がある。


それでも、あの日交わした約束がある。

「また会いましょう」

その言葉を信じて、2人は今、別々の場所で、それぞれの“未来”を歩いていた。


― 第4話へ続く ―

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