第45話 涙が枯れるまで泣いた(みのり編)

 達に別れを告げたあと、涙が枯れるまで泣いていた。


「三股の噂を流されたことよりも、達の信用を勝ち取れなかったことが悔しいよ」


 三股の噂を流されても、彼氏だけは守ってくれる。胸アツ展開を期待したけど、そのとおりにはならなかった。AIで生成された画像は、彼の心を動かすには十分すぎる威力を持っていた。


「みのり、これからどうするの?」


「しばらくはそっとしておいて、タイミングがやってきたときに声をかけるつもりだよ。ここまでやったのに、ゼロになるのはありえないもの」


「人のうわさも七五日といわれているからね。いずれは落ち着いていくはずだよ」


「すぐは無理だとしても、一年後くらいにはうまくいくといいな」


「みのりのために、できる限りのサポートをしてみるよ」


 幸恵がサポートすればするほど、達の心は離れていくリスクもある。積極的には介入せず、裏方に徹してくれればいいけど。


「達は本能のままに行動しがちだから、しっかりと距離をとってくれるとありがたいな」


 三股ショックに侵された男は、一直線にハグをしていた。傷ついた心をいやすために、第三者の体温を必要としていた。


「私からハグをしたのに、相手を拒絶するのはNGだと思うんだ」


 幸恵は肺に溜め込んでいた息を吐いた。


「無口君がそばにいなかったら、大学を辞めていた。痴漢被害にあった直後、メンタルは完全崩壊していたもの」


「幸恵・・・・・・」


「交際していた彼氏については、もう無理なのを悟った。連絡するのも面倒になっているし、顔を合わせる時間も惜しくなっている。あんなに愛していたのに、どうしちゃったんだろうね・・・・・・」


 ハグをしていたときに、心まで吸い寄せられるとは。芯の強い女性だと思っていただけに、簡単に揺らぐのは驚きだ。


「幸恵がライバルになったら・・・・・・」


「無口君は視野が極端に狭いから、一人の女の子しか見ることはないよ。ライバル関係とは無縁だよ」


 視野が極端に狭い=一人の女性だけを好きになる。幸恵に対して、100%の愛情を捧げる展開もありうる。


「結婚した女性によって人生をボロボロにされた。交際している女性が距離を詰めたら、フラッシュバックするだけだよ」


「それでも・・・・・・」


「みのりでなければ、無口君の失言癖を流すのは無理だよ。二人のやり取りを聞いていたとき、よく我慢できるなって思えたもん」

 

 達は思ったことをそのまま口にする。鬼レベルの失言癖は、ほとんどの人間との関係に強固な罅を入れる。


「のりちゃん、ゆきちゃん、ヤッホー」


「おはよう」ではなく、「ヤッホー」とあいさつする女性。明るいキャラクターでありながら、ずれている部分も持ち合わせている。  


 なつみはポジティブ全開キャラクターで、周囲にたくさんの元気を与えてくれる。ムードメーカー的な役割を担っている。


「なっちー、ヤッホー」


 いつもはありがたいけど、今回ばかりは違っていた。ノリがあまりに軽すぎて、メンタルにダメージを与えてくる。


「過去のことは忘れて、元気にやっていこう」


 空気の読めなさについては、おつきあいをしている男と似ているかも。決定的に違うのはプラス思考、ネガティブ思考である。なつみのポジティブさを、ちょっとくらいはまねてくれればいいけど。


「なっちー、そんな気分になれないんだけど・・・・・・」


 なつみは破局しても、次の日には元カレを忘れている。過去については一ミリも振り返ろうとしない。一人の異性を引きずる女性とは、まったく異なる性質を持っている。

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