第49話 公園でゆったりと過ごす(みのり編)
達と二人きりになったことで、胸はおおいにしめつけられていた。
「みのりさんは新しい恋愛はしていないの?」
「挑戦しようとはしたけど、一日すら続かなかったよ。私の求めている人と、決定的なずれがあるんだよね」
二人きりになることが相当な苦痛で、手をつなぐなんて絶対に無理。一五分もたたないうちに、破局を決意するに至った。
好きからほど遠い男と交際したのは、達と幸恵の交際を視野に入れていたため。ライバルに負けたときのことを想定していた。
恋愛に失敗してからは、生理的に無理な異性からの告白を受けないことにした。本気で好きになれる人でなければ、関係を継続するのは難しい。
「みのりさんは優しい、温かい、柔らかいにおいがする、スタイルがいい、胸のさわり心地はすごくよくて、いろいろな人に好意を持たれているんだね。僕なんか・・・・・・」
性的な話を正直にするところは、一年前から変わっていなかった。以前のままであることに、安心感をおぼえていた。
「みのりさん、あの、その・・・・・・」
「スタイルがよくて、胸のさわり心地のいい女性の膝枕はどうかな?」
失恋のショックで、爆食いに走った時期がある。ダイエットにも失敗したため、体重は一年前よりも四キロほど増えていた。愛している人にそれを見破られなければいいけど・・・・・・。
「ち、ちょっとだけ・・・・・・」
達は膝の上に頭をのせたあと、太ももを堂々と触ってくる。他人の体という認識は、完全に抜け落ちている。
「一年間で太ったのか、無駄な脂肪がついているような。ぶよぶよ・・・・・・」
四キロの体重増を見逃さないことに、嬉しさ、悲しさの両方が芽生えていた。
「達、正直すぎるんだけど・・・・・・」
思ったことをそのままいうのは、一年後もそのままだった。小学生時代からストップしたかのような成長に、満面の笑みがこぼれる。
「脂肪の付き具合からして、4、5・・・・・・いや、10」
達の言葉は極めて重い一撃を放つことが多い。鋼のメンタルを持っていなければ、半端ないダメージを受ける。
「達、それくらいに・・・・・・」
体重増を指摘された仕返しとして、達のほっぺを爪でつっついた。
「達のほっぺも、ぜい肉だらけだよね」
「ほっぺはぷよぷよしているものだろ・・・・・・」
あまりに変わっていないので、タイムスリップをしたように感じられた。
「冗談を受け流せないところも、昔とちっとも変わっていないね」
「みのりさん・・・・・・」
「達と過ごせるのは、すっごく楽しいね」
達の個性的な部分はリラックス効果絶大である。
「達、膝枕してほしいな・・・・・・」
「わかった」
達の太腿に触れたあと、「太った」といわれたことへの仕返しをする。
「達の太ももはもっとぶよんぶよんだね。体脂肪ばかりで、肉は皆無に等しいね」
達の太腿に脂肪はほとんどついていなかった。食事を極端に制限しているのか、太らない体質をしているのか、はたまた・・・・・・。女性にとっては素直に羨ましいと思える。
華奢な体をしているのに、力はすさまじく強い。熱心にトレーニングに取り組んでいたら、世界を目指せる逸材になっていたのかな。隠された才能を持っているのは確かである。
「みのりさん、太ったことを指摘されて、ムキになっているみたいだな」
いちばん痛いところを指摘され、唇をむすっと尖らせる。
「苦しみ続けてきたレディに対して、あまりにひどすぎるんだけど。ちょっとくらいは、温かい言葉をかけてほしいな」
「ご、ごめん・・・・・・」
「私の家で過ごそうよ」
「あ、ああ・・・・・・」
好きな人と過ごせるとわかり、全身は幸せに包まれていた。
「のりちゃん、おめでとう」
「なっちー、ありがとう」
「のりちゃんのハートをわしづかみにして、ゆっきーの心も奪うのはすごいね」
「なっちー・・・・・・」
「そうだね、忘れていたよ」
空気の読めなさについては、好きな男とかなり似通っている。
「無口君、私とハグしてみる?」
なつみの発言を聞き、こめかみからプチっという音が聞こえる。
「なっちー、変なことを吹き込まないでくれるかな」
「ジョークだよ、ジョーク」
なつみの手に視線を送ると、本気でハグをしようとしている。ハグをしたいといったのは、高確率で本心であることを察した。
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