第16話 みのりに遊びに誘われる
みのりと知り合ってから、二カ月近くが経過していた。
みのりは一週間に一、二回くらい、こちらに話しかけてくる。人間不信の強すぎる男にとって、恐怖心が圧倒的に勝っていた。
「無口君、おはよう」
「みのりさん、おはよう・・・・・・」
地を這うほどコミュ力の低い男も、挨拶くらいはできるようになっていた。地を這うレベルとはいえ、成長しているのを感じた。
「無口君、二人で遊びに行きたいんだけど・・・・・・」
二人での部分をかなり強調している。
「僕なんかと・・・・・・?」
「うん。遊びに行きたい・・・・・・」
「敵を作ろうものなら・・・・・・」
小学校時代に敵を作り、孤立する要因となった。それ以降、人を極端に避けるのをモットーとしている。
「大学生にもなって、子供じみたことなんてしないよ・・・・・・」
大人の知恵は子供よりも明らかに陰湿。自分に非のないやり方で、相手を徹底的に追い込んでいく。
「無口君も緊張しているかもしれないけど、私はそれ以上かもしれないよ。極度の緊張で、喉はカラカラなんだから」
喉の中を確かめてみよう、不器用な男はそのようなことを考えていた。
「みのりさん、誰でもいいと思っているの」
みのりは心外といわんばかりに、首を横に激しくふった。
「学校、アルバイトで忙しいんだ。遊びに誘うのは、二人きりでいたいと思っている人だけだよ」
二人きりでいるところに、一人の女性がやってきた。対人関係に恐怖心を持つ男にとって、あまりにきつすぎる状況が作り上げられる。パニック障害を引き起こして、とんでもないことにならなければいいけど。
「無口君、みのりと二人で過ごしてみるといいよ。いろいろな発見があるかもしれないよ」
突然の事態に対して、ろれつが崩壊することとなった。
「め、めんひぇきひゃきょれぽっち・・・・・・」
「みのりと遊ぶことによって、ちょっとくらいはつけられるんじゃない」
男と遊ぶ機会も稀だったのに、女と二人きりで遊びに行くのはハードルが高すぎる。10分としないうちに、気絶しているものと予想される。それをわかっていても、未知の体験に興味を示していた。
「びょ、びょくなんきゃでよきゅれば、よりょしゅくおにゅえぎゃいしましゅ」
みのりはこぶしを突き上げて、ガッツポーズをしていた。
「よっしゃー」
みのりの喜んでいるところを見て、本気で必要とされているのを感じた。誰からも愛されていなかったこともあり、夢を見ているのかなと思った。
どんなに必要とされても、いつかは捨てられる。孤独を貫いてきた男の心の中に、はっきりとした闇の部分が出現していた。
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