大学時代

第11話 大学進学&女の子に声をかけられる

 達は自宅の近くにある、育友大学に進学した。


 育友大学進学の決め手になったのは、自宅の近くであること。交通費、家賃代を節約することで、家計の負担を最小限に抑えられる。


 男女の割合は半々で、人数のバランスが取れている。男ばかり、おんなばかりのどちらもしんどいので、これについてはいいかなと思える。


 大学生に進学したからといって、これまでの指針を変えるつもりはなかった。一人ぼっちで過ごし、単独行動を続ける意思は固い。周囲とかかわらない生活は、少数派が日常を送るにあたって、ストレス、対人関係の衝突を最小限に減らせる。


 1時間目の授業は、「他人と共感を得るために心理学を極める」という科目である ダイレクトすぎる授業名に、ちょっとくらいはひねればいいのにと思った。


 授業を聞いていても、うなずける要素は皆無だった。授業内容は多数派向けで、少数派を完全に排除している。万人向けでないことに対して、内心がっくりとしていた。

 

「今回の授業について、感想文を提出してください」


 多数派ばかりを受け入れて、少数派を完全排除していると書けば、単位に響きかねない。世間体のいい言葉を、適当に並べておこうと思った。教師のご機嫌を取っておくことは、社会で生きるにあたって必須。

 

「大変素晴らしい内容で、今後に生かせるものとなりました。授業を履修して、心からよかったと思っています」

 

 おしゃべりで嘘をつけない男は、全身にむずがゆいものを感じていた。正直に生きてきたものにとって、自分を偽るのは相当な屈辱といえる。


「他人と共感を得るために心理学を極める」の授業を終えると、別の教室に向かうための準備をする。高校時代とは異なり、大学は一コマごとに教室を変わる。広い建物ならではの光景といえる。 


「こんにちは・・・・・・」


 自分に用事のある女などいない、そのように思っていたこともあって、間近で聞こえた声を華麗にスルーする。


「こんにちは・・・・・・」


 自分の方向を指さすと、女の子はにこりと笑った。


「こんにちは・・・・・・」


 プライベートで女の子と話したのはいつぶりだったかな。思い出せないほどに、過去のものとなってしまっている。


「今日はいい天気ですね」


 本日の天気は雲一つない快晴。雨用の傘ではなく、紫外線を遮断するための傘が必要となる。


「そうですね・・・・・・」


 挨拶をしただけで、脈拍数が30くらいはあがっている。対人関係を避け続けてきた男は、基本的なことを忘れている。


 髪の毛で視界を遮っているため、相手の顔はほとんど見えていなかった。興味本位で近づいてきた女性は、どのような顔をしているのだろうか。


 顔を見てみたいと思う反面、素顔をさらけだす怖さがあった。本当の心を許した人以外には、心を閉ざしておきたい。


「女の子とまともに話したことがないので、どう話していいのかわからなくて・・・・・・」


 コミュ力不足の男は、切り出す内容が完全にずれている。相手に変人だと思われていなければいいけど。


「そうなんですか・・・・・・」


 次の授業が始まるまで、残り5分と迫っている。トイレの時間を含めると、余裕はまったくなかった。


「次の・・・・・・」


「ごめんなさい・・・・・・。ついつい・・・・・・」


 女の子の声からして、悪い印象を与えているわけではなさそうだ。敵を作らなかったことに、胸をそっとなでおろした。

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