第48話 真実の価値を僕は知らない
「これを」そう言って泉さんが見せたのは、一枚のレシートだった。
「『アロマリウム』の購入履歴です」
そんなものどこで、と言いかけ思い出す。お土産の袋を漁った時、『旅日和』のもののほかに、もう一枚レシートが落ちてきていた。
「買った品物はひとつ。『スプリング・ミューズ』……女性向けの香水ですね」
女性向け?
「お昼にあなたと初めて会った時も、香水の匂いがしました。男性向けのものではない……若い女性が使うものです。恋人がいるんですよね」
僕は点を仰ぎたい気持ちをこらえた。そこまで言う必要があるのか? しかも、娘の目の前で……。
澪ちゃんは目を開き、雫ちゃんの戸惑ったように家族の間で視線をさまよわす。高瀬さんは俯き、目をそらしている。もしかしたら、うすうす感じているものがあったのかもしれない。
慎さんは口元を引き攣らせ、一瞬放心していた。そして怒気のこもった目で泉さんを睨む。
「プライベートなことを、君は――」
「失礼しました」
遮るように謝り、視線を外す。もう興味がないといった態度だ。
慎さんは振り上げた拳の落としどころを失ったのか、黙り込む。その後思い出したように高瀬さん達を振り返ると言った。
「言おうとは思っていたんだ。だけどまだそういう時期じゃなかったから……」
高瀬さんは何も答えない。ただ床に視線を落とす。慎さんも消沈したように俯く。
「とにかく、雫ちゃんは誰にも見咎められずに一階へ行くことができた。それは間違いない」
何事もない様子で泉さんは続ける。
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