かつて天才だった俺たちへ

獅子吼れお🦁Q eND A書籍化

ユー・メイ・ビギン

 2020年、幕張メッセ。

 『新世紀ホビーフェア』内、メインステージ。

 二人の成人男性が、机を挟んで対峙している。

 一人は痩せ型、背が高く美形と言ってよい造作。短く整えられた髪とヒゲに、見るからに高価な革のジャケットを着ている。しかし服装と正反対にたたずまいには余裕がなく、おおぶりな瞳は今、肉食獣めいてぎらつき、対面の男を見据えている。

 もう一人は背の低い男。黒いTシャツにジーンズ、その背中には《一生ワンダラー》の文字にスポンサーのロゴの数々。シンプルな服装ながら態度は自信に満ちており、対面の男に気押されることなく、泰然と構えている。

 対照的な二人に共通するのは、彼らの前に置かれたカードの束のみ。

 大型ビジョンにCGエフェクトが映し出され、アナウンスが鳴り響く。

「大変長らくお待たせいたしました!これより『ワンダラーグランプリ4th』決勝戦を開始します!」

 ステージにつめかけた観客が湧き上がる。これから、日本で最も強いプレイヤーが決まる。

「5000人のワンダラーの頂点をかけて争うのは、この二人!」

 背の高い男にスポットライト。

「関東ブロック2位!帰ってきた《ワンダラー王子》!怒涛の猛攻は今も健在!白木ィイ!昭吾ォオ!!」

 歓声をあげる観客たち。白木昭吾はそれにわずかに答えるのみ。

「対するは東海ブロック1位!寡黙なる絶対王者!グランプリ2nd,3rdチャンピオン!3連 覇なるか、《爆速(ブレイジング・スピード)》黒岩ァア!琢磨ァア!!」

こちらも歓声には答えない。

 盤面に相対する相手以外のことは、もはや見えていないのかもしれない。

「琢磨ァ、ぶっ殺してやるからな……」

 昭吾の怨念のこもった言葉に、琢磨は答えない。


 これから行われるのは、トレーディングカードゲーム『デュエルワンダー』の全国トーナメント、その決勝戦。

 たかがカードゲームの、たかだか5000人の、物好きな人間の頂点に立つ者を決める試合。

 それでも、両者の間には、拳銃を突きつけ合うようなひりついた空気があった。


 私は、大きく息を吸い、そして宣言する。

「デュエル、スターーート!!」

 二人の手が、同時にデッキから手札をドローした。

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