25 ドッ派手にいこうぜ
「……ンの、クソガキ!」
余裕を忘れて、カジタニは手の甲で鼻血をぬぐい、歯をむき出した。
一応、暴力団に所属していた身である。それ以前は手が付けられないほど乱暴な学生だった。今の時代、暴力団だからこそ、
その自分が、たかだか高校生の年齢の若造に、
ほとんど意味不明の気合とともに、カジタニはポケットからナイフを抜き出し、突き出した。見越していたかのように、
「うぐッ」
カジタニはよろめいて後退した。
黒川は一旦、体勢を起こした。どうやら相手が暴力団にいたというのはハッタリではなさそうだと確信する。身ごなしもだが、今の、いきなりナイフで突きかかってくる動き。人を傷つけることに慣れていないと、ああはできないはずだ。まさか、もっと物騒なモノまで隠し持ってやしないだろうな。……この男、みぞおちを殴られただけにしては、下がり方が大きすぎやしないか? まるで、よろめくついでにリーチを確保しようとしているような。
脳裏で危険信号が
黒川が全力疾走を開始したのは、カジタニがブルゾンの内側へ手をつっこむより早かった。逃走ではない、逆だ。真っ向から最短距離。
「カタギのガキ相手に、なんつーおっそろしいモン振り回してくれんだ、おっさん」
おそろしさよりも、むしろ呆れたような口調で、意識を失ったおっさんに、自称カタギのガキは吐き捨てた。
さて、ぐずぐずしてはいられない。しかし、こいつの後始末はしっかりしておかないと。取り込み中に、背後からお礼参りをされては目も当てられない。
とりあえず、ハンドタオルを取り出し、くるむように拳銃を拾う。重い。たぶん本物だ。下手に蹴り落とすと暴発の危険がある。幸い、古店舗の片すみに押し込まれたガラクタに紛れてロープが見つかったので、これでカジタニをしっかり縛り上げ、重さのある
脱ぎ捨てたブルゾンと、ついでにカジタニの手から蹴り飛ばしたナイフも拾う。
「にしても、シケた
モデルガン好きの高校生は、明らかに顔をしかめた。リボルバーで、おそらくコピー拳銃と思われるが、見るからに造りが雑で、材質もよくなさそうだ。
こいつをどうしてくれよう。
戦闘という意味で考えるなら、強力な武器として活用できるだろう。だがこちらが銃を使用するということは、相手も容赦をしなくなる。武器を使用していいのは、そいつを自分に向けられる覚悟がある者だけだ。黒川自身は、仮に拳銃を使うとなれば向けられる覚悟もできる。しかしそれ以前に、彼は高校生である。ヨウヨウたるゼントを持つコウコウセイとして、どうしてもやむを得ない事態でなければ、拳銃を他人に向けて発砲するというゼンカは、できるだけ避けたいところだ。まして人質までとられている。さすがに実弾を発砲した経験はない。射撃の名手ならいざしらず、下手をすると巻き添えを生み出してしまう危険は考慮すべきだ。となると……こいつを持ち歩くことはリスクでしかない。かといって、下手なところに隠したつもりで、万一こいつを敵が発見して、こちらに対する攻撃手段として活用を許すことになれば、間抜け以外のなにものでもない。要するに、万一見つかっても「これでは使えない」という状態にして隠しておくのがベストということになる。
店を出る。きょろきょろしていると、水音が意識に流れ込んできた。古店舗は田んぼに囲まれており、もちろん今の季節は稲が刈り取られた後そのままになっているのだが、古店舗の敷地と田んぼの間を、土を掘り抜いただけの用水路が走っていることに初めて気づく。
――こいつだ。
黒川は、リボルバーの
ナイフは、ロープと同じように、什器のがらくたの中にガムテープを見つけたので、刃に手早くぐるぐるに巻き付け、やつらのミニバンの屋根に載せる。ここは案外見つからないものだ。仮に見つかって、ガムテープを剥がしても、刃がねちょねちょでは使う気になるかどうか。
ここまでしてようやく、黒川は大きく息をついた。どうも嫌な予感はしていたが、うかつにモデルガンを使わなくてよかった。シャレにならない展開になっていたに違いない。
カジタニから直接のダメージはほとんど受けていないとはいえ、やはり相手は戦い慣れており、そのうえタフだった。黒川なぞ、あの男に比べれば軽量級である。手間取って、スタミナを少しばかり消耗してしまった。歓待係がひとりでなによりであった。
いや、疲れている暇はない。本番はむしろここからである。
◯
「あ、そこ、左に入ってください」
スマホをいじっていた客は、不意に頭を上げ、窓の外を眺めまわすと、だしぬけにそう指示した。
「はいはい、ここね」
ハンドルを左に回す。タクシーは、スロープへ続く手前で大通りから外れ、細い道へと入り込んだ。自然、スピードが控えめになる。
左折してまもなく、タクシーは路肩へ寄せ、速度をゼロに落として後部ドアを開ける。乗客の若い男は、料金を払って礼を述べると、しなやかな肢体を踊るように操り、降り立った。小道の向かいの店に、バイクが停めてあるのを見つけ、唇をほころばせる。
「さぁて、今日のショータイムは、ドッ派手にいかないとね」
そんなつぶやきが、風に乗って流れる。
タクシーから降りた男は、さっき入って来た道を逆向きに駆け出した。後部のドアを閉め、運転手は首をひねった。――あの兄ちゃん、乗って来たときは普通のカッコしてたと思ったんだけど、いつの間にタキシードなんぞに着替えたんだろうか、と。
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