バレーボールやったことないのに、球技大会でバレーボール部に勝ちにいくことにした

@h_aka_toan

第1話 球技大会のジンクス①

ボンっ・・・ボンっ・・・


5月の下旬、やや生暖かい風が入る体育館に複数のボール音が反響する。


皮の剥がれかけた4号級の古いバレーボールが空中を飛び交っている 。


5限の体育の時間、昼食後の眠気と戦いながら体を強制的に動かしている中学3年生の生徒たち。


パシンっ!!

ドンっ!!!


「よっしゃー!」


ラリーに盛り上がる男女のコート。


脇で出番を控えている、高森光莉(たかもりひかり)は隣にいる身長170センチ以上はある卓球部の一ノ瀬澪(いちのせみお)の腰に横から手を巻き、甘えた声で喋りかける。


「ねぇ、み、おっ」

「きもい」


ちょうど澪の胸の高さに光莉の顔がくるので澪は必死に光莉の顔が胸に当たらないように手で押しのけ、同時に蛇のように腰に巻きついてくる光莉の手を華麗に避けながらはっきりと一蹴する。


「蒼中【蒼陵(そうりょう)学園中学校の略】の球技大会のジンクスって知ってる?」

「知らない」


澪がジンクスなど興味がないことは重々承知の上で光莉は続ける。


「7月に開催される球技大会で女子バレーボール部とのエキシビジョンマッチで勝つと願い事が叶うんだって!」

「あ、そう」


澪に塩対応されている光莉の様子を見かねてか、ジンクスに興味があってかは分からないが、澪の左隣にいる女子サッカー部の高村奈々が光莉の言葉に反応する。


「知ってる!毎年試合で優勝したクラスが女子バレー部と勝負するんだけど、過去に一度だけ黄金期があって、その時に女子バレー部に勝ったっていう噂でしょ!メンバー全員が勝った後に願い事が叶ったんだって!」


澪と対照的に小柄な奈々はキャンキャンと小型犬が興奮するような声で説明した。


奈々の更に左隣にいる吹奏楽部の白川ほのかが少し震えた優しい声で付け足す。


「1人はE判定だった志望校に合格、1人は親が宝くじ当たって海外留学、1人は学校一のイケメンと付き合う、1人はカナヅチだったけど泳げるようになった、1人は、、、」


「は〜い、次3年1組入って〜!」


ほのかの言葉はクラス担当の体育教師によって遮られ、光莉たちは自分たちの意思に関係なく機械的に回されていく試合の波に乗った。


タイマーが5分セットされ、光莉たちの練習が始まった。


一列に並びスパイクのトス待ちをしている光莉は、後ろに並んでいる澪にほぼ首だけ振り向きながら夢中で喋る。


「私、決めた!」

「何を?」

「7月の球技大会で女子バレー部に勝つ!」


光莉は澪に言い放ち、上がってきたトスに向かってスパイク助走の真似をしたステップっぽいものを踏むが、ボールとのタイミングが合わず、見事にボールを打ち損じネットにかけた。


「現実みなよ」


光莉を冷静に諭しながら澪は上がってきたトスに対しチョンっとワンステップで助走に入り、ボールを卓球のスマッシュを打つかのように拳をグーに固めて横から殴り打ちした。


「それ、ずるくない?」


「別にスパイクをパーで打たないといけないルールなんてないし」


澪は自分の後ろに並んでいた奈々がセパタクローのように足でボールを蹴ってスパイクしている様子を横目で確認しながら言った。

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