5-7(完)



 全てが終わると、蓮は自分のみならず、雪樹の姿も整え始めた。

 きちんと衣服を着せて、乱れた髪も結い直し……。


「ちょ、い、いいですから……!」


 逃げようとしても押さえつけられ、懐から出した手ぬぐいでゴシゴシと恥ずかしい場所まで拭われる。度を越した親切かと思えば、蓮はニヤリと意地悪く笑っていた。からかわれているのだ。


「もう! やめてくださいってば!」

「おまえが本当に女かどうか、確かめている」


 人の体を散々好き放題しておいて、今更何を言っているのか。雪樹は眉を吊り上げた。


「そもそも蓮様、今まで男だと思っていた相手を、よくも手籠めにできたものですね!」

「実は俺は、男もイケる口なんだ」

「えっ……」


 思わず固まる雪樹の頭を、蓮は呆れたように軽く叩いた。


「そんなわけあるか。まあ、うまく説明できないんだが……。あのとき……おまえが女だと知った瞬間、全ての道筋が見えたというか……」

「道筋?」

「…………」


 考えを整理しようというのか、蓮は一旦黙り込んだ。

 雪樹は彼の言葉を待った。


「いくら仲が良くても、相手が男ならば、言える泣き言にも限りがある。共に過ごす時間も。だが、女ならば……。それこそ眠るときも、一緒にいられるだろう? ひとつになって丸まって、いつまでも、いつまでも」

「そ……」


 ――そんな可愛らしいことを言い出して……!


 無理矢理、後宮に閉じ込めたくせに。ずるい人、ひどい人。

 罵ってやりたいのに、喉を塞がれたように声が出ない。


「――俺はおまえと、一生、共にいたい」


 切れ長の目を更に細めて、蓮は微笑んだ。


「わ、私……!」


 私も。私は。

 どちらを言おうとしたのか。勢いだけが先行し、一歩踏み出した途端に、どろりと不快な感触が股間を這う。雪樹は硬直した。


「どうした?」


 訝んだ蓮も、俯いた雪樹の様子を見て、察したらしい。追い出すように、雪樹の尻をぺしんと叩いた。


「んん……。ええと、柘榴御所の浴場はいつでも入れるようになっている……。ほら、行って来い」

「ううっ……。お借りします……!」


 雪樹は顔を真っ赤にし、走り出した。

 入れ違うようにして、血相を変えた衛兵が階段を駆け下りてくる。


「陛下! 一大事です! 羽村 芭蕉が……!」

「――ようやく来たか」


 蓮は口元を綻ばせた。





 どうしてこう、愛の行為というのは生々しいのだろう。

 男と女がお星さまに祈るだけで、コウノトリが赤子を運んできてくれる――。そういったウツクシイ物語で済めばいいのに。

 雪樹は恥ずかしさに身悶えながらも、湯殿への道をひた走った。





 ~ 終 ~

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