第32話── 「14.06.25 - 暗号の中の日付」
ユリはキャンバスの隅に刻まれていた数字をノートに書き写していた。
「14.06.25、そして座標のような ‘34.3897, 132.4425’。これは——ただの日付と緯度経度じゃない。どちらにも意味があるはずよ。」
リクはその数字を見て、すぐに手元の古い地図を広げた。
「この座標……この街の旧図書館跡だ。十年前、火災で全焼した場所。」
「火の記憶……」ユリの声が震える。「まさか、あの火事こそ“火が笑った”夜……?」
ラジオのノイズが再び響いた。すると今度は、断続的に少女のような声が流れ出す。
「……私は見た。誰かが火を……違う、“点けさせられた”……父は泣いていたのに、誰かが笑っていた……」
ユリとリクは視線を交わした。その声は明らかに10代の少女のもの。タカシの娘、ユカリかもしれない。
ユリが日記をめくると、該当の日付の欄にこう記されていた。
「あの夜、私は教室で『最後の遺書』を書いていた。でも、火が校舎を包んだ瞬間、父は私に“走れ”と叫んだ。その後のことは覚えていない——ただ、笑い声が聞こえていた。」
「……教室で、遺書?」リクがつぶやく。「これが、最初の“嘘の遺書”だったんだ。」
ユリは震える指で日記を撫でた。「もしかすると、あの火事自体が“何かを隠すため”に仕組まれていたのかもしれないわ。」
「その“何か”が暴かれるのを恐れて……笑っていた“誰か”がいたんだ。」
真実の火が、再び灯り始めていた。
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