第31話── 「キャンバスに隠された記憶」

白いキャンバスに描かれた絵は、曇天の灰色の空と、その下で燃え盛る小さな火のモチーフが幾重にも重なっていた。色彩は荒々しく、まるで感情そのものが塗り込められたかのようだ。


ユリは指で絵の端をなぞりながら、呟いた。

「この火は…何かを焼き尽くそうとしているようにも見える。でも、どこか笑っているみたい。」


リクはキャンバスの中央に書かれた、小さな数字の羅列を見つけた。

「これは…座標か?暗号の一部かもしれない。」


その時、背後からかすかな物音が聞こえた。振り返ると、埃をかぶった古いラジオが微かにチューニングを合わせていた。微弱な雑音の中に、女性の声が混じっている。


「…あの夜の真実は、誰もが見たくないものだった…けれど、それを知る勇気が、未来を変える鍵になる…」


ユリの目に涙がにじんだ。

「これは……」


リクは拳を握りしめながら言った。

「タカシも、あの女性も、この街の秘密を暴くために命を賭けていたんだ。」


二人はキャンバスの数字と声の意味を探る決意を新たにし、廃墟の奥へと足を踏み入れた。そこにはまだ解かれていない過去の断片が待っている。

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