第26話──「地下倉庫の扉と消えた時間」

資料室の明かりを消し、ユリは手にした鍵をぎこちなく回した。

錆びついた金属が軋み、古びた扉がゆっくりと開く。

冷たい空気が鼻を突き、ひんやりした闇が二人を包んだ。


扉の向こうに広がるのは、かつての物置兼実験室のような空間。

床には埃の積もった古い机と散乱した紙片、壁にはところどころ謎の記号が落書きのように書かれていた。


リクが一枚の紙を拾い上げる。


「これは……“時間割”?」


紙に書かれていたのは、一週間のスケジュール表。

だがそこには、明らかに異様な“火曜日”の欄があった。

「放課後、集会:非公開」と赤く強調されている。


ユリは小さくため息をつく。


「これが、“火曜会”の正体の一端……

教員も知らなかった秘密の会議が、ここで開かれていたのよ」


突然、壁の落書きに目を引かれたリク。


「この記号、さっきのマニュアルにもあった暗号に似てる……

これが解けたら、何か重要なことがわかるかも」


その時、ユリの表情が一変した。

「待って、これ……」


彼女は壁に貼られたぼろぼろの写真を指差す。

写真には、見覚えのある少年の背中が写っていた。


「この少年……10年前に息子を失った元教師、タカシだ」


リクは息を呑む。


「じゃあ、あの元教師は、この地下倉庫のことも知ってたのか?」


「たぶん……それに、この場所にはもっと多くの秘密が眠っている」


闇の中、微かな物音が響く。

二人は思わず顔を見合わせた。


「誰かいる……?」


その時、背後から低い声がした。


「ずいぶん遅かったな、待っていたぞ」


影が壁から浮かび上がる。

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