パパ(25)と娘(21)
秋ノ鷹
1年目4月
第1話
俺はVTuberが好きだ。いや、好きなんて一言で片づけられるものじゃない。彼女たちは俺にとって、疲れ切った心を癒やしてくれる救いであり、日々を生き抜く力を与えてくれる存在だった。
俺は社会人として働いている。世間で言う普通の会社員のはずなのだが、実態はまるで違った。典型的なブラック企業。残業は当たり前、定時で帰れるなんて夢のまた夢。たとえ奇跡的に時間通りに仕事が終わっても、必ずといっていいほど追加の業務を押し付けられる。逃げ場はなかった。
そして給料も低いときた。
月の給料が深夜のコンビニバイトよりも低いという有り様であった。
そんな俺が現実を逃避するようにVTuberを見始めるのはそう時間がかかるものではなかった。
最初は偶然だった。YouTubeでふと見かけた切り抜き動画。サムネイルに自分が好きなゲームのタイトルが映っていて、何気なくクリックした。それが全ての始まりだった。
画面に映っていたのは、俺の知らないVTuber。アニメのキャラクターのような姿に、透き通るような声。正直、最初は「よくある配信者だろ」と思った。だが、数分もしないうちに俺は完全に惹き込まれていた
そして一瞬で引き込まれた。
ゲームが上手かったわけではない、ただただ引き込まれたのだ。
一種のカリスマと言ってもいいだろう。
姿を、声を、話し方を、そのどれもに夢中にさせるものだった。
いつしか切り抜きだけじゃなく配信を見に行ったり、コメントをしたり、少ないけどスパチャだってした。
そんなVTuberという推しが居たからこそ俺はブラック会社でも耐えられた。
いつしかイラストを描くようになった。給料が低い俺ではグッズやスパチャに余りお金を使えない。
だけど推しに少しでも何かしたいも思った。
それで手をつけたのがイラストだった。最初はうまく描けなかったけど、SNSに載せると推しからの反応があり喜んでもらえた。調子に乗った俺はどんどん描いていった。どうやらその手の才能があったのかだんだんとうまく描けるようになっていった。
そして今日もいつものようにVTuberを見るはずだったのだが……。
「パパお腹空いた~」
「はいはい、ちょっと待ってな」
「は~や~く」
コメント・パパのご飯俺も食べたい!
コメント・パパに胃袋をつかまれた女
コメント・いつも我が儘娘の相手お疲れ様
コメント・今日のご飯なんだろ?
コメント・見慣れた光景になったもんだ
どうしてこうなった?
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