敵の敵は……
3-1
アリア・フォードに殺されかけた翌日。
あんなことがあったのに嘘みたいに平和な幕開け。
朝はミアに起こされ、一緒に朝食をとり、ミアを送り届ける。
すべていつも通り。別に非日常を望んでいたわけではないが、あの女なら通学路で突然襲いかかってきてもおかしくない……と思っていたので、なんだか肩透かしを食らったような感覚に陥っていた。
それから何事もなく学校に到着し、おそるおそる校舎の中に入っていく。
「さて……」
教室の扉を開けるだけなのにかなり緊張していた。体感時間では一分、現実の時間では十秒ほど逡巡している。チャンに殴られるだけ……というなら喜んで教室に入る。しかし、今回はわけが違う。
果たして、俺が生きていると知ったアリア・フォードはどう出る?
もちろん、死んだとは思われてないはずだ。ニュースにもなっていないのだから。
けど、こうも元気に登校してきたら?
……いきなり仕掛けてくるかもしれない。いつでも魔法を発動できるように準備はしておかなければ。
覚悟を決めると、俺は教室のドアをスライドして開いた。
広がるのはいつもの光景。俺を見て、申し訳なさそうな顔をするイーヴィシュ人の生徒たち。一方で、意地の悪い表情を浮かべながら立ち上がるチャンと取り巻き。
ここまではいつも通り。肝心なのは——————いた。
窓側の一番後ろの席。退屈そうな表情で本を読むアリア・フォードの姿があった。
だが、なんだろうこの違和感は。アリア・フォードはこちらを一瞥すらしない。
昨日あんなことがあったというのに何一つアクションを起こさない。
驚くとか、怒るとか、そんな反応は一切なかった。……これでは拍子抜けだ。
少しだけ不気味だったが、興味を持たれないことに越したことはない。
昨日の作戦は成功ということだ。アリア・フォードにとって、俺はどうでもいい人物へと成り下がった。これからチャンたちにボコボコにされようが、おそらく見向きもしないのだろう。
それからはまた普段通りの日常が戻って来た。チャンに殴られ、昼休みは魔法実験準備室で自主学習、放課後もチャンに殴られ、そのあとはリックと一緒にデイブレイクの活動、ミアを迎えにいき一緒に夕食を食べる。
次の日もまたミアに起こされ、一緒に朝食を食べ——————
そんな日々が一週間も続いた。
「なぁ、あれから転校生の様子はどうだ?」
昼休み。今日は珍しく、リックと二人で食事を取っていた。
元々は委員会の活動が昼休みいっぱい行われる予定だったようだが、その予定が想像以上に早く終わったので教室に戻らずにこちらに来たとのことだ。
「視線は一切感じない」
「だよなぁ。俺が見る限りでも、レンのことを監視している様子はなかった」
「ほんとに興味がないって感じだな」
「やっと、レンのことを普通のイーヴィシュ人だと認識したってことだろ」
アリア・フォードはこの一週間何もしてこなかった。
一度だけ廊下ですれ違った際に、「あなたが死んでなくてよかったわ。そしたらこの学校に通い続けるのが難しくなっていたもの」なんて声をかけられた。
だが、その後は俺の返事も聞かずに立ち去った。
まるで、あなたには微塵も興味がないとでも言うように。
「まぁな。これでこちらからも仕掛けやすくなる」
そもそも、アリア・フォードの疑念を晴らすことが最終的な目的ではない。
それはあくまで手段だ。
こちらから彼女の身辺を調査し、魔王へとつながる手がかりを掴むことが一番重要だった。アリア・フォードが魔王の血族である。それは初対面の時から察したことでもあり、実際に戦ってみて核心に至ったことだ。
彼女が魔王へつながる何らかの手がかりを持っているに違いない。
「じゃあ、さっそく仕掛けるか?」
「……どうするか」
当初の計画では、アリア・フォードの身辺調査のため尾行を実施する予定だった。
だが、実際に彼女と相対してみて分かったことは、火遊び感覚で近づいたら命を落としかねないということ。俺とリックで対処できるか? 仮に彼女を対処できたとしても、その背後にいる人物たちは?
考えれば考えるほど、足が重くなり動き出す原動力が失われていく。
「俺さ。昨日、おっちゃんの話を聞いて改めて思ったよ。この国を何とかしたいって。そのためにはやっぱり魔王を倒すしかない。その魔王へとつながる手がかりが目の前にあるんだ。ここで動けなきゃ一生動けないだろ」
力強い。今までとは比にならない覚悟と決意を感じ取れる。
こんな相棒の様子を見て、俺が怖気付いているわけにも行かなかった。
「……やろう。今日の放課後、アリア・フォードを尾行する」
「おう!」
そうだ。逃げているだけでは絶対に勝てない。
昨日、ミアとプレイしたゲームのことを思い出す。どこかで仕掛けなければ、相手を倒すことはできない。
——————やるしかないのだ。
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