【自我が流出する】

 今自分が息を吐き出したら、「自分」という存在が呼吸と一緒に漏れ出てしまうんじゃないかと思う。


 ふぅ、というその一息とともに、自分という存在がこの身体から抜け落ちてしまうような気がして。

 怖くて、眠れなくなる。


 ギュゥ、とキツく毛布を抱き締めて、出来るだけ丸まって。


 自分はここに居るんだと、自分を必死に安心させる。


 触覚。


 身体全部の触覚を使って、自分の存在を確認する。


 呼吸で漏れ出ても大丈夫だと、周りには物があって、自分は包まれているから、だから、自分というこの存在は逃げたりなんてしない。


 そう言い聞かせ、安心させる夜がある。



 幼児などで、毛布に包まるのが好きという子がよく居るという。


 なんでも、母親の腹の中に居た時の感覚に似ているから安心するらしい。

 真偽は不明であるが、そんな話がある。


 宮瀬はもちろん幼児でもなんでもないため、これは全くの無関係である。


 ただ、その思いを今でも抱えるこの人間は、ある意味幼児から何も成長していないのかもしれない。


 自分という存在の揺らぎを認識するような、自分というアイデンティティの喪失を恐れるような、曖昧な自我。


 確立されていないその自我は、ある意味、幼児と一緒とも言えるだろう。


 親や周りの人間の意見が自分の意見とすり変わってしまうような。

 どうでもいい自分の行動一つで、自分自身が揺らぐと勘違いするような。

 

 そこに、完全な自我という評価は与えられないし、そもそも完全な自我なんて存在しないのだろう。大人にも。


 自分という身体は重く、ここにあるのに。

 自分の魂は、心はふわふわと落ち着きがない。


 浅く呼吸をして、ケホッ、と吐き出せてしまいそうな位置にある。


 ああ、また自分が居なくなる。

 もう自分として目覚めないかもしれないのに。


 自分が漏れ出して、完全に出切ったら、一体その後の自分は誰なんだろう。


 誰なのかなあ。

 まあ、自分でしかないんだけど。


 そうして今日も、必死に自分という人間を、この身体に押しとどめるんだ。



 これは、ただの逃げ癖でしかない。


 ストレスに対応する方法として、この身体から逃避しようとしているだけに過ぎない。


 でも、それはできない。

 逃げたら戻って来れないような、そんな気がするから。まあ、実際そんなこともないだろうけど。


 早くこの内側のざわめきたちが、1つに纏まってくれないかなあ。

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