第2話 骨と胃カメラと土曜日と

胸部レントゲン、採尿、採血、心電図、肺活量検査を経て、いざ胃カメラへ!

入院することが決まっているからなのか、鎮静剤を入れるからなのかは分からないが、健康診断のような検査を次々と受けさせられる。

こちらとしては、さっさと骨を取ってほしい。


ギュルルル。腹の虫がおさまらない。空腹だ。

時刻は13時半。 昨晩の鱈事故以来飲まず食わずだ。

ただ、そのおかげで検査にはちょうどいい状態。

喉にスプレー麻酔をし、 直径3センチほどのトイレットペーパーの芯みたいな筒を咥える。

右利きか左利きかを訊かれたので、 右利きと答えると、左手に点滴のチューブをつけられた。 胃カメラ開始直前にそこから鎮静剤を入れられた。

眠ってしまうくらいの鎮静剤かと思ったけど、意識はそれなりにあった。 会話もできる(口に筒咥えているからそもそも無理だけど)。

それにしても、よくいう、「オエオエ」はなかったから鎮静剤が効いていたんだろうと思う。 最後の一突きのような苦しみを感じたとき、処置は終わった。

取れたらしい。 やったー! 骨から解放された! この上なき喜び!


6センチのやや湾曲した立派な骨だった。

こんな巨大な骨がのどに完全に埋もれていたのか。そら痛いよ。

もしかしたらそのうち取れるかも、と安易に考えずに病院に行くという選択をした自分を褒めてやりたい。


ここで帰れたらよかった。

しかし、入院がおまけでついてくる。


人生初めての車いすに乗り、人の動力によって安静室へ運ばれた。

急に患者っぽくなる私。

まあ、若干ふらつくかもしれないような気もしないでもない。

それくらいの感覚。

しばらく休憩し、病室へ移動となった。そう、私はお泊りよ。


義務教育で習った方がいい。

「飲んだら乗るな」と並べて

「胃カメラ飲んだら一泊入院」


いや、まてよ。そんなん聞いたことある?

胃カメラなんて人間ドッグとかでよくあるじゃない。入院するなんて聞いたことがない。調べてみたらその日に帰るのが一般的らしい。

そう、入院の本当の理由は鎮静剤ではなかったと気づいたのは退院直前だった。

よくよく考えてみれば、誰かに迎えに来てもらえば済む話だ。

ドクターの言うことは正しい、権威への服従原理というやつか。

詐欺師にすぐにひっかかりそうな私である。


入院が決まったタイミングで、夫にことの顛末を伝える。

第一声「ご飯どうしよ」

(は……?)

お前もそんなやつやったんか。よくある、「むかつく夫の発言一位」に輝くほどのセリフを堂々と言いよった。

ワシは飯炊ババアらしい。大人なんだから飯くらい自分で作れよクソ野郎。


病室で夫にLINEし、とりあえずの着替えと、歯ブラシなどの日用品を持ってきてもらう。

私は、日頃からリュックを持って移動している。

そのリュックには、生活必需品が入っているので、大抵のことはしのげるので助かった。


ハンドクリーム 1本 全身いける

日焼け止め 1本

筆記用具 ジェットストリームの4色

ポケットティッシュ 2個(使いかけ)

生理用品 2個 

爪切り 1個 気になった時に切れる

ハサミ 1個 タグ切ったり、何かと活躍

モバイル充電 1個

リップクリーム 1個

髪留め 2個

飲料水 1本(骨が取れたら飲む予定だった)

手ぬぐい 1枚(色々なことに使える)


入院セット(パジャマと日用品)を1日約500円で利用することも可能だったが、

まあ、明日退院ならいらないだろうと判断。


今晩は疲れたので、歯磨きだけして寝ることにする。



翌朝、すっきり目覚めて看護師さんに言う。

「今日退院ですよね?」


看護師さんは笑顔で言った。

「今日は土曜日なので、診察がないんです」

(は……?)


「先生の確認が必要なので、早くても月曜になりますね」

え、月曜? 今日は……土曜日?

つまり、あと2泊するってこと!?


私は骨のない喉をさすりながら、病室の天井を見上げた。

昨日まで魚を食べていただけの人間が、今日から急に月曜まで入院する羽目になる。

何かのコントかと思った。

というか、あのドクターの嘘つき。一泊って言ったやないかクソ野郎。


こうして、人生初の入院は「骨が取れてからが本番」となった。

退院は、まだ先である。

(1泊⇒3泊4日に延泊決定 コノヤローふざけんな)







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