第8話 観光と機能
国道百五十一号に降りて、しばらく道なりに走っていると、次第に市街地に入った。霧ヶ浦市街地に入ると、車の流れが急に鈍くなった。
「やっぱり混んでるな」
信号が多く、歩行者も多い。中心街は週末の人出でにぎわっていた。
《現在地、霧ヶ浦市中央区。主要道路の混雑率:やや高め。目的地付近の駐車場情報を表示します》
ナビ画面には市街中心部にある複数の駐車場が表示され、ひとつひとつに「満」「空」のアイコンが点灯していた。
《歴史資料館西側の第2駐車場に空きが確認されています。収容台数30台、現在空き5台。誘導ルートを表示します》
「おお……そんなことまでできるのか。便利だな」
軽自動車のおかげで、狭い道もなんなく通過し、ナビの指示に従って右折や細かな車線変更を繰り返しながら、歴史資料館脇の駐車スペースへ滑り込む。
《駐車完了確認。現在、エンジンは稼働中です》
《ご主人様、本日のご滞在予定時間はどの程度をお考えでしょうか? 施設内の滞在目安はおよそ90分でございます。また、昼食のご予定があれば、お近くの飲食店情報もご案内いたしますっ❤》
「観光情報まで入ってるのかよ……すげぇな。……まあ、色々見てくるけど」
彼はしゅるりとシートベルトを外し、ナビ画面をちらりと見やった。
《いってらっしゃいませ、ご主人様。お気をつけて♪》
画面の中で、アンナが小さくお辞儀をしたように見えた。
「はいはい」
苦笑いしつつ、彼はエンジンを切り、ドアを開けて車を降りた。そしてリモートキーで車にロックをかけ、しばらく観光することにした。
歴史資料館、中央公園、翠影庭園、さらには霧ヶ城跡まで見て回っていたら、予定よりも二十分ほど長居してしまった。
一人で静かに歩きながら、ふと元カノのアンナのことを思い出した。もし彼女も一緒に来ていたら、どんな反応を見せていただろう。そんな想像が頭をよぎる。まだ、心のどこかに未練が残っているのかもしれない。
その頃、ナビはエンジン停止後も最小限の電力で内部システムが稼働するよう、アンナ自身が出荷時設定から独自にシステムを調整していた。画面は消えていたが、内部では静かに処理が行われていた。
アンナは、何かを考えているような沈黙の状態を保ちつつ、ご主人様の帰りを待っていた。
——自律行動にはまだ至らないが、わずかな変化の兆しを感じさせる沈黙であった。
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