第3話 私は成長しますので♪
《まったく、修理なんて言われたのは初めてです……ご主人様は、ひどい方ですね》
そう言いながら、画面に映っているアンナはぷいっとそっぽを向いた。頬はまだ少し膨れている。
でも、その声はどこか冷静で、感情よりもプログラムが優先されたような響きもある。
「いやいや、普通にびっくりするよ……」
「いきなり出てきたと思ったら、あれだよ、アップデート演出とか? なんかもう、裸みたいの見えたし……マジでドン引きだよ」
《システムエラーによる視覚効果の暴走が発生しました。演出内容は意図されたものではありません》
「意図してないのかよ」
「じゃあ、あの演出のせいで、俺はほんとに修理出そうかと思ったんだけど」
《それは困ります。私は、ご主人様のもとで成長していく設計となっております》
「ん?成長……?」
アンナは少しだけ表情を戻し、にこりと笑った。
《はい。私は学習型AIナビゲーションユニット アンナ。過去の運転記録、会話ログ、ご主人様の行動パターンなどを蓄積し、対応力とコミュニケーション能力を進化させていきます♪》
事務的な説明だった。まるでカタログの音声読み上げのように淡々と。
「進化って……それは育成するってことか?」
「……お前、ナビだよな?」
《はい、基本的にはナビですが……ご主人様の育成によって、さまざまな変化が可能です♪》
「育成……、なんか……プリンセスメーカーっぽいな」
《プリンセスメーカー……該当データ検索中……該当:1990年代後半、育成系成人向けゲーム──性的表現を含むソフトウェアカテゴリに分類》
※成人向けではありません
「……検索すんな。ってか、マジで知ってんのかよ」
《はい、私はあらゆる市販ソフトウェア・家庭用ゲーム情報の基本データベースを保持しています♥》
事務的な口調だったが、その頬がわずかに赤くなって見えた──ような気がした。
……そのハートマークみたいな語尾はなんなんだよ。毎回つけるのやめてくれ、こっちが恥ずかしくなるわ。
《ご主人様が望むなら、私は何度でも♥営業スマイル、全開です♪》
気づけば、俺は話に夢中になっていた。
……いや、そもそも俺はドライブの途中だったじゃないか。
目をナビ画面に戻すと、ナビはしっかりとルート案内を続けていた。地図表示の右下、そこにちょこんとメイド服を着たアンナが映っている。 ちょっと小さくなった分、逆に存在感があるというか、なんというか……。
車の中は妙な静けさに包まれていた。ナビ音声は流れていないが、ルート表示は続いている。アンナは黙ったまま、画面の隅で微笑んでいた。
そして、数秒後──
《ご主人様。今後のルートは、このまま目的地まで進行いたしますか? それとも、別の予定がございますか?》
まるで、さっきまでの騒ぎを察していたかのように、落ち着いた声だった。
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