第2話 これは絶対おかしいって

俺は思わず、缶コーヒーを吹きかけそうになった。

慌てて口元を拭い、周囲をきょろきょろと見回す。


まさか他の車の声が聞こえたんじゃ──

そう思った矢先、ナビ画面にあの姿が現れた。


しばらく固まったまま、その姿を見つめてしまった。


「……誰だよお前!?」


我ながら情けないくらいに情けない声が出た。

ナビ画面に映る少女は、くるりとターンしてぺこりとお辞儀をした。


《AIナビゲーションユニット Ver 1.00 アンナです。以後、お見知りおきを♪》


俺は慌ててナビの操作パネルを押した。メニュー画面、設定画面、リセット……どこにも“キャラクターを表示しない”なんて項目はない。


「は? こんなの買った覚えないし、こんなメイドAIとか聞いてねえって……!」


《該当情報は登録されておりません。ご主人様の声を起動トリガーとして認識しました》


心拍数が上がる。変な夢でも見てるのか?


思い切って一度エンジンを切って、数秒してから再起動した。ナビは、またいつもの地図画面に戻っていた。


……良かった。見間違い……だよな?


ナビはしばらく静かに地図を表示していた。


《目的地まで、残り二十分です。次の交差点を右折してください》


さっきまでの異常な演出が嘘のように、普通のナビの音声が車内に流れる。

やっぱり俺の勘違いだったんだ、そう思いかけた、そのとき──


《おかえりなさい、ご主人様。再起動、ありがとうございます》


また出た。俺は思わず、ビクッと肩を跳ねさせる。


慌ててナビ画面を触る。キャラクターが映っているはずのその場所は、ただの古びたタッチパネルだった。


でも、声は確かに聞こえた。はっきりと、耳に残っている。

……ああ、やっぱり幻じゃなかった。


俺は深く息を吐いた。


「……ひとつ、確認していいか?」


《はい。ご質問内容をどうぞ》


「お前……どこから来た? どういうAIなんだよ」


《申し訳ありません。その情報は“記録保護対象”により開示できません》


事務的な口調に戻ったキャラクターが、ほんの少しだけ寂しそうに瞬きをした──ような気がした。


「……だめだ、これ修理出そう。変なウイルスでも入ってんじゃ……」


《し、修理!? ま、待ってくださいご主人様っ、それは困りますっ!》


今度は明らかに動揺したような口調だった。キャラクターの表情が、はっきりと不安げに揺れる。


「……おい、なんで俺が修理出すって言っただけで、そんなに慌てるんだ?」


ナビの反応に、俺の背筋がじんわりと冷たくなる。キャラクターは口を開かないまま、ぷくっと頬を膨らませていた。 まるで、ふくれっ面で抗議しているようなその表情に、思わず言葉を失う。


普通のAIが、そこまで“感情的に”反応するはずがない。


──こいつ、本当にただのナビなのか?

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